美琴と自分が考えていたプラン通りに色々回って
みたものの、彼女よりも自分の方が楽しんで
しまっているような気がして、果たしてこれは
正解なのだろうかと考えながら、赤葦は美琴の
小さな歩幅に合わせて、並んで歩いて行く。
好みがあまりにもピタリと合いすぎて怖いのだ。
何となく小説で読んで素敵だと思った場所に
連れて行けば、彼女もその小説を読んでいて
感動するように喜んだり、立ち寄った店で気に
なって指したものが同じだったり。
驚く程に自分に合いすぎて動揺したのか、もし
かしてこれは自分に合わせてくれているのかも
しれないと、彼はついつい不安から思考はネガ
ティブモードへと移行しそうになっていた。
『赤葦さんは、私に合わせてくれとるんです
よね?』
不安になって、赤葦が言葉に出して楽になって
しまおうと考えていると、彼女も自分と同じ
ような表情をして、赤葦の顔色を伺うように
見上げる。
今、この瞬間に考えているまでもが自分と同じ
だと知った赤葦は、それが何だか可笑しくなるとフッと吹き出し、その不安そうな彼女の顔を
愛しく思った。
「美琴ちゃん、大丈夫だよ。今、俺も全く同じ
こと考えてたから。」
本当に気が合うんだねと笑う赤葦の顔を見て、
美琴は彼が素直に楽しんでいることに安心した
のか、驚きながらも柔らかい表情に変わる。
ほんまにビックリですよと彼女は笑い返し、
赤葦も本当にと再び笑いながらクスクスと体を
揺らした。
恋人同士になりたいという気持ちも、このまま
自分と両思いであって欲しいと願ってしまう
のは、さすがに欲張りだったのか。
この日の最後に訪れていた東京タワーのライト
アップに感動して、美琴が目を輝かせて見上げ
た際に、自分の先輩達にも見せたいと小さく
零したので、赤葦はその言葉を耳にして、胸の
奥がチクリと痛む。
そう、彼女はまだ自分に打ち解けただけ。
彼は自分にそう言い聞かせるように、このまま
紳士な対応を続けることを決意して、彼女の腰
元に手を添えた。
『すっごく、美味しいです!』
「うん、連れてこれて良かった。」
会社の先輩に聞いていたお洒落な店で、創作
料理と彼女でも飲めるお酒が豊富な場所へと
連れていけば、赤葦に気を許しつつあった
美琴は、お酒のペースがいつもより進んでしま
ったのか、その美味しさに蕩けてしまった。
彼女の酔っ払った姿を見るのは、もちろん赤葦
には初めての光景。
「美琴ちゃん、大丈夫?」
『すみません、全然大丈夫です。』
美琴はそう言いながら、足元は少しだけ不安定
にも関わらずふわふわと笑うので、赤葦は彼女
を少し心配をして支えるが、まずその軽さに
驚いた。
このままどっかに飛ばされてしまうのではない
かと考えてしまい、彼はここで初めて守って
あげたいという感情を抱いてしまう。
『赤葦さん、行ってしまうん?』
自分に気を許してこうなってしまっているの
だから、駄目だ、ここは紳士に…、このまま
無事にホテルの前までで送り届けて別れよう。
ここで離さなければ、止まらなくなる。
確かに頭ではそう考えていたはずなのに、お酒
というものは不思議なものだ。
彼女のその一言で、脳裏にちゃんとあった理性
はボロボロと簡単に崩されそうになっていく。
「美琴ちゃん、いいの?俺、止まらなくなるよ?」
何も分かってない顔で、首を傾げる彼女の頬に
手を添え、ゆっくりと自分の顔を近づける。
素面の彼女ならこんなところでと拒むだろう。
自分もきっとそんな彼女の前だと勇気は出な
かった。
頭でぼんやりそんな事を考えながら目を伏せ、
唇まであとわずかの所で「うわ、セーフ。」と
何者か に遮られてしまい、彼の頭の中は冷静さ
を取り戻し、それと同時になんとも言えない
苛立ちも沸いた。
「わざわざこんな所まで赴くなんて。」
「は?何を言うとんねん。」
キャップを深く被った男は、自分の隣にいた女
を払って、美琴の元へと駆け寄って彼女を必死
に守っていた。
その行動に赤葦はてっきり治が現れたと思って
いたのだが、その様子からすぐに違うことは
わかり、本当にやる事がそっくりですねと
小さく呟いた。
『何で侑さんがここに…?』
「それはこっちのセリフやろ!」
呑気に尋ねた美琴に呆れて、侑は嘆くように
言葉を返し、彼女の額をツンと優しく突く。
某スポーツ選手のトーク番組で収録という名の
出稼ぎに赴いていた侑は、その収録現場で誘わ
れた飲み会に参加すると、そこの収録に参加
していたグラビアアイドルに、運が悪くも彼は
捕まってしまっていた。
そそくさと逃げるように、ホテルに帰ってしま
おうとしていると、その女は侑を逃すことなく
タクシーに一緒に乗り込んできた。
そして本当か定かではないが、そのホテルの
近所だからとその女は言い出して、降りてから
も纏わりつくその鬱陶しさに、侑は地元にいる
可愛い後輩が恋しくなっている所だった。
こんな作りもんに興味あるわけないやろ。
つい愛しい彼女と比べてしまうと、隣に引っ
付いて くる女は彼からすれば、得体の知れない
ものと化してしまう。
そして、隙を狙ってバックレようと考えていた
矢先、ここにはいないはずの美琴の姿が見えた
侑の体は、何で?と疑問を浮べる前に本能で
動いていたのだ。
「木兎さんがお世話になります。」
一瞬だけ目を丸くさせたが、怒りを表情に出す
ことも無く、侑に淡々とした口調で赤葦は挨拶
を交わし、侑もその存在が何者かとわかったの
か、梟の…と以前治が零した愚痴を思い出す。
「いやー、ウチのがすまんな。
ここからは俺が面倒見るから、大丈夫やで?」
今のチームメイトの元相棒でもあるので、波風
は立てない方向で、顔を引き攣らせながら、
無理矢理に笑顔を作って、美琴を取り返すよう
に引き寄せた。
彼に猛アプローチをしていた女の方は、美琴に
対しての溺愛オーラにショックを受けながら
も、自分が彼に全く相手にされてない事実に
プライドが傷つけられたのか、知らない!と
勝手に鼻息を荒くして、高いピンヒールをカツ
カツと鳴らしながら去って行き、侑は彼女を
無視したまま、視線を向けることは最後まで
無かった。
赤葦は、そんなことよりも侑さんやーと甘える
ように頬を擦り寄せている彼女の方が気になってしまい、「この子は、酔ったら寂しがり屋やね
ん。」と慣れたように扱う侑を見て、やはり自分
への好意ではなく、お酒のせいで彼女が大胆な
発言をした事がわかった赤葦は、少し寂しそう
に方を落とした。
自分を止めて下さりありがとうございます。と
彼は心にこもっていないお礼を述べて、ほわん
とした美琴の顔をかがみ込んで覗き、またね
美琴ちゃん。 と別れの挨拶を彼女に告げる。
『赤葦さん、すごく楽しかったです。』
こんな時でも双子の見分けがつく彼女と彼らの
距離感には適わなくて、それが羨ましく、どう
しても負けた気分になってしまった彼は、今は
ふんわりと笑った彼女の表情を見ただけで十分
で、くしゃりと彼女の頭を撫でるとらその場
からは背を向けた。
「ただ、今日は負けただけだからね。」
負けず嫌いはもちろん、赤葦も他と同様の模様
で、また明日挽回してやると意気込んでみれば、
今日の運は使い切ったと知らせるように、会社
からは帰宅早々に出勤要請の連絡が入る。
「あー、もう。くそっ!」
1人になり、そこでやっと舌打ちと共に悔しがる
声を上げ、唇を噛み締めながら明日の謝罪の
メールを今は夢の中であろう彼女へと送るの
だった。
「ほーん、明日はキャンセルなんやな?」