まさかの遭遇


『侑さん、許してくださいっ…、んんっ!』


無防備過ぎる彼女に、侑の中で堪えていたもの
がプツンと切れて、逃がさないように彼女の
両腕を掴み、口内を犯していく。


「もうあかん、お仕置が必要やな。」


嫉妬でどうにかなりそうだった侑は、肩で息を
する美琴を気にかける余裕なんてなくて、彼は
ニヤリと笑いかけたら、そのまま美琴をベット
まで追い詰めて、滑らかな肌を撫で回し、彼女
の下唇に噛み付いた。


最初は抵抗していた彼女もだんだんと侑に解さ
れて、彼の手に腕を回すので、思わぬ彼女のOK
サインに侑の方が目を丸くして彼女の太腿に
触れていた手をピタリと止めた。


『私、侑さんにならめちゃくちゃにされても
ええ…。』


「美琴、それほんま…?」


声に出して彼はわかった、これが残念ながら
現実では無かったことに。


掠れた情けない声の自分の寝言で目が覚めて、
その夢の相手はすやすやと気持ちよさそうな
寝息を立てながら、自分の首に巻きついて自分
の胸元に擦り寄っていた。


「美琴がそんなわけないやん。」


その寝顔はちゃんと侑によって綺麗に化粧は
落とされて、衣服もちゃんとホテルの寝巻きに
着替えさせて、美琴のお世話をしたのは全部侑だ。


美琴の部屋まで送り届ければ、やはり呼び止め
た彼女のお願いに負けて、慣れたように酔いが
回った寝落ちギリギリの彼女のお世話をして、
自分に言い寄って来た女とは全く違う、抱き
ついてきた彼女の心地良さに、赤葦から来た
彼女のスマホのメッセージを目にした後に、
彼もすぐに寝落ちしてしまった。


「俺は美琴のおかんか!いや、おかんやん。」


自分で自分に突っ込みながら頭を抱え、ずれて
いた布団を綺麗にかけ直し、彼は夢の中の興奮
から冷めようと、シャワーを浴びる。


そしてまだ夢の中の彼女を驚かせてやろうと
考えたのか、彼は服を羽織ること無くそのまま
彼女に添い寝するのだった。


『あ、わ、わ。侑さん…?』


何度見ても美琴が慌てている姿を見るのは飽き
ないなと侑は考えながら、彼女の髪を愛しそう
に指で梳かす。


『何で服を着てないんですか!』


「んー、なんでやと思う?」


『私、これはちゃんと自分で着替えましたか?』


「んー、どう思う?」


そもそも何でここに!と泣きそうになる美琴は、
昨日はやはり飲みすぎて思い出せずにいる
のか、あたふたとした様子を見せて、侑は
そんな彼女の姿を面白がって揶揄う。


そこで彼女はスマホのメッセージをやっと見た
のか、青ざめた顔をしたと思ったら、すぐに
慌ててその相手に急いで電話を掛けた。


ごめんね、突然の仕事で会えなくなりました。
君の先輩によろしくお伝えください。


この電話はかえって迷惑だったかと迷いながら
も、どうしてもちゃんと話して謝りたかった
彼女はそのまま待つと、呼出音からすぐに繋が
り、赤葦が優しい声で自分の名前を呼ぶので、
彼女は胸を撫で下ろした。


『赤葦さん、ほんまにごめんなさい。
私、赤葦さんにちゃんと挨拶出来ずに…。』


「こちらこそ、突然キャンセルすることになって
しまってごめんね。」


「『この埋め合わせはまた…。』」


互いが詫びるように会話をすれば、重なる言葉
に可笑しくなり、2人は驚いてピタリと言葉が
止まると、ふふっと赤葦の笑い声が聞こえて
きた。


「昨日は楽しい時間をありがとう。
今度はそっちに行くからね。」


『こちらこそ、ありがとうございました。
今度は私が案内します。』


じゃあまた…とその電話を切ると、赤葦はその 次のチャンスがある言葉に小さくガッツポーズ をした。


仕事の励みが出来たことに感謝をしながら、
彼は家の扉をゆっくりと開ける。


そして、ふーっと深く息を吐いた美琴が振り
返ると、ベッドに腰掛け、頬杖をついた侑は
つまらなそうに彼女をじっと見つめていて、
その視線に驚いて彼女の肩はピクリと跳ねた。


『侑さんにも迷惑かけてしもうてすみません。』


「美琴、ええよー。アカアシ君だけやのうて、
もちろん俺にもお詫びするもんなー?」


『ううっ…ちゃんとしますから、お願いです
から、服を着てください。』


ニッコリと目は笑わないままで詰め寄られて、
俺今日はオフ日やねん。と言葉を続けられると
彼女もこくこくと頷くしか出来ず、彼は満足そう
に彼女の額にチュッと唇を落とした。


『もう、侑さんっ…!』


「もう、ほんま反応がオモロイなぁ。
着替え取ってくるから、美琴もシャワー浴びてき?」


それとも洗ってやろうか?と悪戯混ざりに笑う
彼に、『もう、分かりましたから!』と怒る
ように彼女は部屋から侑を追い出す。


次に現れた時には、彼女もちゃんと着替えが
済んでおり、まさかここで以前自分が見繕った
服を着ているとは思わなかったのか、彼は顔を
顰めた。


「お前、それで赤葦君と出掛けようとしとった
ん?」


『侑さんが選んでくれたこの服が1番な気が
して。』


へらっと笑ってそう答える美琴の言葉は嬉しい
のだが、その相手は自分ではなく赤葦だったと
考えると気に入らない。


「美琴、それは俺以外の前では着たらあかん。」

抱き寄せながら子供のように拗ねた顔を見せる
侑に、美琴はどうして?と不思議そうな顔を
見せるので、それが悔しくなってわざとチュッ
と彼女の頬に再び口付けを落とす。


『それは、理由になってないです。』


「何でもは何でもや。」


顔を真っ赤にして戸惑う彼女を目の前にすれば、
夢の続きをというわけにはいかずで、そこは
諦めるように、飯に行くで?と美琴の手を繋ぐ
と彼女も彼にされるがまま、ホテルのビュッフェ
へと連れて行かれる。


『和食は身に染みますね。』


出会い方には納得いかないが、幸せそうな顔で頬張る姿を目にしたらどうでも良くなって、
釣られるように微笑みながら、自分もいつも
より朝食が美味しく感じることを幸せに思うの
だった。


「駅に近いのは、ほんま便利よな。」


『そうですね、助かりました。』


チェックアウトを済ませて、荷物はそのまま
預けて、大阪や兵庫ですらあまり普段は味わう
ことの無いデートをまさかのこの場所で2人は
味わう。


『どうしましょう、また新宿でも行きます?』


「もう、あの迷路だけは堪忍して!
せやなー、上野は?美琴、パンダ好きやろ?」


『はい、めっちゃ好きです!』


赤葦と何処を巡っていたかなんて知りたくも
ないが、この度それを聞いてしまったら、つい
張り合ってしまいそうなので、彼はあえて聞か
ない。


パンダという言葉に目を輝かせる美琴は、昨日の
大人の空気に呑まれそうになっていた彼女とは
違い、いつも通りの自分のよく知る彼女で、
侑はそれに安心するように「ほな決まりやな。」
と頭をくしゃりと撫でる。


『侑さんの身長に今は憧れます。』


「いや、屈まんと子供が見れんやろうから
肩身狭いだけやで?」


『侑さんが大人になってる…!』


「大人な侑さんに襲われたいんか?」


夏休みと休日が重なって人は多かったが、2人
は十分2日目も満喫し、いつものように軽い
冗談を吐いてみれば、美琴は楽しそうに侑に
笑顔を向けるので、自分もそんな場所に連れて
いったのは棚に上げ、やっぱり自分の方が彼女
をよく分かっているという優越感を彼はそこで
改めて味わうのだった。


『北さんも治さんもお土産パンダは喜びます
かね?』


「わかっとる…お前が先輩思いなんはわかっとる
けどな!」


『あ、これ可愛いですね。』


「北さんにパンダ送れるんは美琴だけやわ。」

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