「そんで、なんでお前が一緒やねん。」
新神戸駅まで治が心配をして、美琴を車で迎え
に来てみれば、何故か美琴だけでは無く、自分
の片割れが満面の笑みで自分の前へと現れ、
彼はあからさまに嫌そうな表情を見せていた。
『治さん、わざわざすみません。』
「美琴は俺が勝手に来ただけやからええ、気に
すな。それよりも…お前の降りる場所は新大阪
やろ!なんで、こっちまで来とんねん。」
「美琴1人だと危ないから、ボディガードをした
だけや。」
2日目デートを堪能したあと、その日に彼女も
帰ることが分かった侑は、せっかくならと自分
も彼女と一緒に帰ることにした。
あらかじめスマホで予約した席はキャンセルを
して、彼女の隣に座れるように手早く手配を
して、少しお高い美味しそうな駅弁を見つけ、
帰路までしっかり楽しむ。
「まあ、そう怒んなや。」
美琴とのプチ旅行に満足していた侑は、上機嫌
で治の肩に手をかけて、「赤葦君、本気やった
で。」と美琴に聞こえない声で彼に耳打ちを
したら治も黙り、彼女の荷物を手に持った。
「重いやろ?半分こっちに貸し。」
『いや、全然大丈夫ですよ。』
ただでさえ、わざわざここまで迎えに来て
貰って申し訳ないと思っているのに、彼に荷物
まで持たせるわけには行かないと考える美琴
は、治から荷物を奪い取ろうとするが、治に
見事に避けられた彼女は、残念ながら空回り。
そしてそれは治に抱きつく形となってしまった
ので、治は思わぬ抱擁に少しだけ機嫌が戻り、
そんなに会いたかったん?と揶揄う笑顔を彼女
に向ければ、鼻を軽くぶつけてほんのり赤い
彼女が、帰ってきてそうそう意地悪や。と悔し
そうに言葉を零した。
『でも、会いたくなかったって言うたら、
嘘にはなりますね。』
美琴の悔しそうな表情は、満面の笑みへと変わ
って、お土産を早く皆に渡したくて!と嬉し
そうに彼女が腕に抱えていた紙袋を掲げるので、
その後輩の愛くるしさに、治は口元を押さえた。
「ちょ、そんな可愛えこと言うとか…聞いて
へん。」
「おいコラ、クソサム。俺もおるんやぞ、
そこで美琴といちゃつくな。」
眉間に皺を寄せる侑に気がついたのか、美琴は
これ以上の双子の会話は、また喧嘩になって
しまうと危険を察知して、治から直ぐに離れる
と、そろそろ行きましょうと2人の背中を押し
歩いた。
「今日はもうこのまま実家まで乗せてくれ。」
「は?今日おとんもおかんもおらんて。
お前、何も言わずに帰ってきとんか?」
「は?!嘘やろ。」
「昨日と今日で、旅行行くって言うとった
やん。」
「聞いてへん!!!」
せっかく美琴を助手席に乗せようとしていた
のに、侑がそれを阻止するべく、どかっと治の
隣へと座って行き先を侑が治に指示すれば、治
からの思わぬ返答に苛立ちから、侑の言葉遣い
は荒くなっていた。
家族らしい会話に最初は美琴もくすくすと笑っ
ていたが、大阪まで絶対に送らんからなと治が
釘を刺し、侑がどこに向かおうか頭を抱え始め
たところで、彼女も段々と真面目に心配をし
始めた。
『侑さん、寝るとこないならウチに泊まり
ます?』
「美琴、今晩も一緒におってくれるん?」
「いやいや、美琴。そんなことさせるわけない
やろ?それなら俺の家…て待て、今晩もって
どういう意味やねん。」
「どういう意味って、そういう意味やん。」
意味深な言葉を混ぜて、後ろで手を組む侑が
ニヤリとほくそ笑み、バックミラーで困った顔
を見せる美琴の表情を確認すると、紛らわしい
言い方すな。と長年の付き合いから状況を察し
たのか、肘で侑を突いた。
『侑さんには、ホテルが一緒でまた酔っ払って
お世話してもらってですね…。』
「あちゃ、種明かしされてしもうたわ。」
「いや、さすがにわかるわ。
てか、赤葦君にそんな飲まされたん?」
『違うんです。ご飯が美味しくて、私がペース
を間違っちゃって。』
その先の彼女の説明が曖昧なので、治がちらっ
と隣を横目で見ると、侑は苦笑いを浮かべなが
ら、想像通りやと彼に答えた。
「俺、ほんまヒーローみたいやったな。」
「悔しいけど、感謝せざるおえんわ。」
こそこそ2人で小さな声で会話をすれば、ひょっ
こりと記憶が半分無いことを申し訳無さそうに
顔を覗かせるので、侑は楽しそうに笑い、赤葦
と美琴のやり取りを想像した治は、顔を顰め
ながらハンドルを切る。
そして、なにか思い立ったようにせやな、うん
と頷くと、信号が赤信号になり、くるっと治は
美琴の顔を見た。
「俺も美琴んち、泊ーまろっ。」
久しぶりに目にする、彼の子供っぽい表情に
驚いて、美琴は治さん?と彼の名前を呼んだら、
決まりやな。と楽しそうに笑い出して、彼女が
断る間も無く、突然のお泊まり会は決行され
ようとしていた。
美琴の意見を普段はちゃんと尊重してくれて
いるが、彼がこの表情を見せた時は、意地でも
自分の意見を曲げないサイン。
そして、自分だけが彼女の家に泊まろうとして
いた侑は、もちろん彼の決断に納得が行かない
様子で、不服そうに治を睨むように見つめた。
「は?お前も来たら狭くなるやん。」
『うーん、お2人が泊まるのはええですけど。
部屋が綺麗やったかな…。』
美琴は先程侑を誘っておきながらも、出発前の
自分の部屋の現状が思い出せずで、2人を招き
入れる事に、少しだけ不安を抱く。
そう言いながら、彼が向かう先は自分や彼女の
家の方向には向かわず、近くのレンタルショップ
へと向かっていくのだった。
「今日は映画祭りやな。」
「なんや、ちょっと楽しそうやん。」
治の提案には侑も乗り気で目を輝かせ、いざ
3人で店内に入れば、旅行疲れが多少はあった
はずなのに、夜のテンションで段々とそれが
楽しくなっていく。
アクション映画とは反対に、自分が手に取る
映画は、赤葦が連れて行ってくれた場所が
モデルとなった、高校の頃から大好きな小説が
映画化されたDVD。
すぐに影響されてしまっている自分が可笑しく
なり、赤葦にまたお礼のメッセージを送って
いると、それは治に見つかって、送信後に彼に
手に持つそれを取り上げられた。
「美琴、それ以外にしよう。侑が多分見んわ。」
治は彼女に少しでも近寄りたくて、高校時代に
読んだことのあるそのタイトルに、その舞台が
何処なのかが分かってしまったのか、その不満
の理由を侑で上手く誤魔化して、元の棚へと
しまい出す。
他の見たい映画を借りて、ついでに食べたい
つまみやお酒やジュースもついつい買ってしま
って、自分の部屋で2人に挟まれ、楽しい夜更か
しを行ってしまえば、若さからなのか、長旅
疲れも忘れるのだった。
「美琴ちゃんのそうゆう所、好きだな。」
「何、幸せそうなオーラ出してんの?
お前がデート失敗したつったから、慰めに来て
やってんのに。」
「黒尾さん、俺はまだ大丈夫みたいです。」
「あーっそ、お幸せにー。」