今宵は君と


月明かりで縁側はほんのりと照らされ、夜風の
心地良さに、腰をかけていた美琴は目を細める。


「美琴、風邪引くで?」


この前まで熱中症の心配をしていた自分の先輩
は、本日は湯冷めをして体を冷やし過ぎないか
を心配し、彼女の肩に薄手のブランケットを
そっと掛けた。


『すいません、ありがとうございます。』


月見を一緒にしようと、北の家へ泊まりで遊び
に来ていた美琴は、隣へ並んで腰掛けた家主に
感謝をしながら、柔らかく微笑む。


「美琴らしい、お供えしとるな。」


縁側には、彼の祖母と仲良く作った月見団子に
花瓶に生けられたススキ、そしてこの前畑で
収穫した南瓜、そして、何故か仕事終わりに治
の店から持ち帰ったおにぎりも一緒に小さな
卓袱台にお供えをして、それとは別に用意を
していた団子を 美琴は嬉しそうに口にした。


『やっぱり、北さんのおばあちゃんと一緒に
作ったお団子は最高ですね。』


「あんまり食べ過ぎたら、お月様みたいになるで。」


彼女とゆっくりと秋の風物詩を楽しむことが
出来た嬉しさからなのか、いつもよりも少し
だけ、彼女を揶揄ってしまいたくなる。


『あ。今、北さん意地悪言いましたね?』


「ふふっ、あまりにも美味しそうに食べとる
もんで。」

怒りながらも美琴は彼のお猪口にお酒を注いで、
いつもよりも何となく、深みのある気がする
その味に、ふうと気が抜ける。


「今のは嘘や。寧ろ最近はちゃんと食べてくれ
とるから、安心するな。」


『んー。甘やかされ過ぎるんは、不安です
けどね。』


そういいながらも、彼女はまたパクリと口に
したら空を見上げ、美琴の白い肌は月明かりに
照らされて、彼には少しだけ眩しく見える。


それを眺め、彼女がそそいでくれた日本酒を
またコクリと口にすると、よりいっそう、
それを美味しく感じる気がした。


「ばあちゃんが、美琴と話出来て喜んどったわ。
ほんま、今日は来てくれてありがとな。」


『こちらこそ、呼んで貰えて嬉しいです。』


美琴は祖母の若い頃の話が面白かったからか、
その内容を思い出してにっこりと笑い、北に
素敵なお話でしたと言葉を返す。


『私も自分磨き、もっと頑張らんとですね。』


「頑張るんはええけど、絶対に無理はしたら
あかん。」


後輩の成長を邪魔したくないが、それ以上魅力
的になってしまったら、心配事が増えてしまう
と考えた北は、複雑そうに笑い、彼女を応援を
する。

団子をぱくりと口にした後に、北の祖母が作る
梅酒をソーダで割って、そのちょうどいい甘さ
と酸っぱさで、その至福の時間に顔が蕩ける。


そんな彼女と並んでのんびりまったりとした
時間を過ごしてしまったら、北もお酒のペース
が自宅にいる気の緩みもあるのか、いつもより
も早く、そして量も多く飲んでいるようだった。


『北さん、今日は甘えんぼさんですか?』


「何のことや?」


腕や頬を掠める夜風は、人肌を恋しくさせて
しまうのか、北は無意識に美琴に寄り添って
いたらしく、彼の逞しい腕と彼女の華奢な腕が
コツンとぶつかっていた。


彼女もお酒でほんのりと体温が上がっている
からか、その温もりに触れていたくなって、
しらばっくれながら、彼女にわざと軽く体重を
掛ける。


『ふふっ、北さんが珍しい。』


「ちと、飲みすぎたかもしれん。」


美琴は普段のお世話のお返しをするかのように、
彼の髪をゆっくりと梳き、サラサラとした髪の
毛に感動をしながら、シャンプー同じの借りた
のにとその指通りの良さを羨ましく思う。


北はそのマッサージに近い手つきに癒され
ながら、睡魔に襲われながら目を細めた。


「嫁入り前までは、我慢せなあかんよな。」


『ん、何か言いましたか?』


「いや、こっちの話や。」


今この時にふと彼女の腿に頭を乗せたら、さぞ
居心地が良いだろうと、侑が考えそうな邪念が
自分の頭にも浮かんで、それだけはあかんなと
止まらなくなりそうな自分を想像したのか、
再度あかんと言い聞かせ、ぐっとその欲を堪え
る為に、下唇を噛み締める。


「侑や治の事、偉そうには、言えんな。」


そして彼は堪える自分が可笑しくなったのか、
突然そう言って声を出して笑い出すので、何の
事かわかってない美琴は、戸惑いながら彼の
様子を伺って、不安そうに彼の名前を呼ぶ。


いつもと逆転の立場が慣れないのか、あたふた
とする彼女を見れば、余計に面白くなって、
彼は体勢を起こすと、楽しそうに彼女の頬に
両手で触れた。


「今日の美琴があまりにも綺麗で、調子が
狂うわ。」


蕩けた目で褒める北の笑顔は、月明かりのせいで艶っぽく見えてしまい、美琴もそんな彼の姿
に慣れていないからなのか、ぼふん!と噴火
しそうなくらいに彼女の顔は紅潮をして、その
視線に耐えきれずに自分の両手で顔を隠す。


『北さん、どうしちゃったんですか。』


酔っ払い過ぎですと慌てながら、とりあえず
場所を変えねばと、残りの梅酒を一気に飲み
干すと、北を立たせて、背中を押して歩き出す。


彼が歩けなくなる前にと彼の部屋まで辿り着け
ば、カチッと灯りを付けたと同時に目にした、
ぴったりと並べられた布団に更に彼女の頭は、
再び茹だる。


「せや。客間は怖いやろう思うて、こっちに
敷いたんやった。」

『北さん、私が怖がりなんを配慮してくれたん
ですよね。私も酔っ払った時は、北さんより
酷いんやし、まだマシやから。』


「美琴、こっちおいで。」


『あ、北さん。待ってください!』


自分が酔っ払った時に招く時は記憶が曖昧で、
恥ずかしさもどこかに行ってしまうが、今日は
どうしても変に意識をしてしまう。


恥ずかしさから美琴の思考がオーバーヒート
しかけ、いつもと立場が逆転をして、北の方が
彼女に構うことなく、彼女の手を引いて布団の
横になると、慣れた手つきで灯りを消した。


『うぅ…この格好は恥ずかしいです。』


「大丈夫、絶対に手は出さんから。」


彼はそう言うと彼女を自分のぎゅっと包んで、
彼女が抜け出そうとすれば、そう言って抜け
出すことを拒み、大切そうに背中を撫でる。


北にそう言われてしまうと、彼女も何も出来な
くて、彼を受けいれたら、そのまま彼の胸に手
を置いた。


すると、彼女も飲み干した梅酒のアルコールが
体に一気に回ったのか、その彼の熱も撫でられ
た背中の気持ちいいリズムも重なり、ゆっくり
と彼女も意識が遠のいていった。


アラームの音と朝日で目が覚めて、北が驚き
から目をぱちぱちと瞬きをさせているのは、
彼女とは違って、記憶が頭の片隅には残って
いるからなのか。


すまんかった。と小さい声で美琴に謝りながら、
手の甲を口に当てて顔を逸らすので、彼女は
お互い様ですねと、彼に優しく微笑み返す。


素面に戻った彼を見る目は、昨日とは少し違い、
安心した表情に変わっており、彼は少しだけ
それを寂しく感じてしまうのだった。


「俺ももう少し、魅力的にならんとあかんて
ことやな。」


『北さんは、もう十分素敵です!』


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