君とが一番


「…不意打ちやったな。」


水しぶきの被害が思いの外激しく、いきなり
それを食らってしまった治は呆然とし、美琴
は心配をしながら、濡れた治の頭を手持ちの
ハンドタオで、申し訳無さそうに拭いた。


『大丈夫です?治さん。』


「水も滴るええ男やろ?」


突然の悲劇のハプニングに柄にも無い冗談を
言って一緒に笑い合えてしまうのは、相手が
美琴だからだろうか。


「しばらく外おったら、大丈夫やろ。」


2日目は、温泉街の近くにあった大規模な水族館
まで足を運んで、ペンギン達の館内の散歩で
癒された後に、イルカショーと書かれた案内で
立ち止まった。


そこの水族館はそのショーが有名で、運良く
空いていた1番前の席に座る事が出来て、
久しぶりに目するステージにテンションが
上がり、迫力ある演に圧巻されていると、
4頭のイルカはダイナミックに、幸か不幸か
彼らの近くでプールに飛び込んだ。


全く落ちていない反射神経で治は美琴を庇って
余分に濡れてしまった治だったが、その日は
太陽がよく照らされていたからか、屋外でも
見る所や体験コーナーがあるそこで時間を
潰せば、服や頭はラッキーなことにすぐに
乾いてくれた。


「美琴は、エサ付けるん平気な人?」


『ミミズ系なら北さんの畑でよく見とるから、
へっちゃらなタイプです。ゴキさんや蜘蛛系は
アカンやつです。』


「せやろ?よく、それら出たら半泣きやから、
おかしいな思うて。
美琴が餌を自分で付けれるんなら、今度皆
で釣りに行くんもええかもな。」


『それ、すっごく楽しそうですね!』



なので、彼らがたまたま通りがかったところに
釣堀りコーナーを発見して 、2人が楽しく会話
をしながら釣りをしている間には、すっかり服
は元通りなっていて、室内のエアコンに冷や
されて風邪を 引く心配は無く、一安心。


物怖じせずに平然と、慣れた手つきで針に餌
をつける美琴の新たな一面に、治は驚いた
のか、それを目にしてまた一段と逞しい彼女に、
少しだけ驚かされ、また1つのお楽しみが増えた
彼女は、胸を弾ませた。


『…治さん、来た来た!』


「すごいやん。」


魚が釣れるのを待っている美琴を隣で微笑ま
しく見ていると、釣れたら誇らしげに治に
見せて来て、きらきらと目を輝かせる。


今朝の色っぽい寝起き姿とは打って変わって、
真逆の子供っぽい所を見せる、昔から変わら
ない彼女は彼には好きな部分で、くしゃりと
治が頭を撫でたら、嬉しそうに目を細める彼女
に釣られて、彼も微笑みを返した。


館内に戻れば、再びゆらゆらと幻想的に揺ら
め魚達に見蕩れ、その雰囲気に魅せられた後
に、次は甲殻類コーナーへと辿り着けば、
彼女が先程の会話から、少しそれが苦手だと
治は気がついたのか、強ばった表情を見て、
それを和らげる為に彼女の手をぎゅっと握る。


「コイツら、身が詰まって美味そうやな。」


それらが平気な治は、真剣な顔で水槽にいた
大きな蟹をしばらくじっと見つめていたのか、
手を引きながら美琴に向かってそう言い出す
ので、それを聞いた彼女は、強ばった顔は解れ、
彼の発言にくすくすと体を揺らして笑っていた。


『ほんまですね。そう思うと、ちょっと気が
紛れそうです。』


「せやろ?あっちも美味そうやし…
ほら、アイツらは完璧に天ぷらコースやな。」


『もう、治さん面白過ぎです。』


怖かったその道は、治のお陰で話に夢中に
なって、すっかり平気な道へと一変して、
昔から変わらない彼の優しさに感謝をして、
美琴が素直にお礼を伝えれば、彼は照れ臭
そうに話を逸らした。


「なんや、コイツら見よったら腹減って
きたわ。」


『そろそろ、お昼行きます?ここにある
カフェ、シーフードパスタあるらしいです。』


「それ、ええな。」


治に予定を完全に任せっきりにさせるのは嫌
だった彼女は、前持って調べていた情報を
スマホで観ながら提案をして、治がそれに乗る
と、直ぐに案内を見て店を探す。


そして、テラスにあったそのカフェに到着
して、眺めのいいカウンター席に2人並んで
座れば、海を一望しながら美味しいパスタを
味わえるその空間に感激をして、2人の口から
は同じタイミングで溜め息が漏れて出た。


そしてそのまま2人はお互いの顔を見合わせ、
「美琴、これ食ってみ。」『治さん、これも
食べてください。』と息を揃えて、それを
分かち合おうとして、自分のものを相手に
どうぞと差し出すので、毎度お馴染みのその
やり取りに吹き出してしまう。


『すみません、この海老クリームパスタが
あまりにも美味しいから、治さんにもって。』


「俺も、この海鮮のペペロンチーノが美味すぎ
やからから、美琴にも食べさそう思うて…。」


美琴は、目尻に涙を浮かべて笑っていると、
一緒に頼んでいたピザもテーブルに運ばれて、
彼女はそれを切り分けていると、余分に治が
取り皿をお願いをして、仲良くシェアをして
その味を堪能した。


「景色はええし、飯は上手いし、ほんま
今回はアタリだらけやな。」


『ほんまですね。』


心地良い潮風を浴びながら2人はのんびりと
して、食後のコーヒーで一服しながら、満遍
なく広がる海を眺めて、治が幸せそうに顔を
緩ませてそう零したので、美琴はそれが嬉し
くなって、満足そうに再び彼女はアイスティー
を口にする。


『私も治さんも、楽しそうで何よりです。』


この旅を共に満喫してくれている彼女を見る
と、やっぱり肩の力は抜けて、ここに来れて
よかったと改めて至福の時間を噛み締めた。


「美琴、次はどこに行こうか?」


美琴の喜ぶ顔が見たくなって、次は何を
見せてあげよう、何処を一緒に歩こうか
と、悩みながら近辺地図の確認をする。


「このまま、とりあえず走ってみようか。」


『それも素敵ですね。』


「あ、なんか道の駅の看板が見えたな。」


『わー、気になります!』

結局、彼女にいい所を見せようとしても、
全くのノープランの楽しさの方が勝って
しまって、ここからは行き当たりばったり
の楽しいドライブが2人を待っていて、
ひたすら海に沿って走っていると、見えて
きた看板を美琴が興奮して指をさす。


「美琴、これ半分こせん?」


『はい、もちろんです!』


どうしても、ノープランのまま過ごそうとした
ら、そのまま食い倒れプランに途中で変更して
しまうのはいつもの事で、ムードのある所も
いいが、やっぱり気兼ねなく過ごせる相性の
良い人間は、美琴しかいないと思い知ら
される。


美琴、このままずっと隣におってな。


2日間の贅沢な時間は、あっという間に終わり
を迎えようとしていて、彼が美琴を独り占め
できる時間は残り僅かとなり、それを名残惜し
く感じていた治はそう願い、隣にいる彼女の
手を大切そうに握り締め、寄り添うのだった。


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