いっぱい食べる君が好き


『あかん…これはあかんよ。』

ここ最近、美味しいものを色々と頂いて
しまっ美琴は、自覚があるのか、久しぶり
に乗ったそれの数字を見て、顔面蒼白で
悲鳴を上げる。


そして夏休みも終わり、いつも通りの生活を
送っていた彼女は、わざ1駅余分に歩いて
大学へ向かい、また1駅余分に歩いて、今度
はバイト先へと向かってみた。


『治さん、私今日は1個で大丈夫です。』


「あれ、美琴調子悪いん?」


「調子悪いなら、ここに来たらアカンやろ。」


午前中に授業が済んで、少し早めにバイト先へ
と向かえたその日は、お昼ご飯は治のおにぎり
で、丁度、こちらに配達に来て、一服していた
北も、食べる事に遠慮気味な美琴を見て、心配
した顔を見せていた。


『いや、そうやなくて…。』


北の隣に座り、美琴が返事に困ってキョロ
キョロと視線を泳がすので、2人はそれで
察したのか、彼女をまじまじと見つめて、
いや大丈夫やろと声を揃えて答える。


「は、許容範囲どころかやっとええ感じやのに。」


「こっちは、それくらいの方が安心やで?」


相談する前に、2人にはきっぱりとそう言って
否定され、彼女もその返事から相手がいけな
かったとまず、おにぎりを減らそうとした事を
後悔した。


いつも通り、お皿の上には大きめなおにぎり2個
と味噌汁が置かれてしまい、もぐもぐと食事制限
は諦めて口にすれば、一気に元気になってしまう
その美味しさに彼女の顔が緩む。


「美琴、無理なダイエットは絶対にしたら
あかん。」

北にそう釘を刺されると何も言い返せず、素直
に首を縦に振るしか術は無いので、治も自分は
口出しする必要は無かったことに安心をして、
腕を組んで美味しそうに自分の作ったものを
食べている後輩を嬉しく眺めてた。


「何より、その顔見んと気分が違うしな。」


「あっそれ、なんか分かります。」


北も治と同じく、彼女をじーっと微笑ましく
眺めていたのか、頬杖を着いて言葉を零し、
治も彼の言葉に共感するので、先輩2人の会話
を聞いていると、美琴は『このまま色々と与え
られてしまって、真ん丸になるのでは?』と
少し自分の心配をした。


『あかん…このままやと、甘やかされて
大変なことになってしまう。』


「ん、何か、言うたか?」


自分の心配はしながらもきっちりと完食は
して、食器を流しへ持って行くと手早く洗い、
2人の甘やかす言葉から逃げようとしていたら、
タイミング良く電話が鳴り、彼女はすぐさま
それに出た。


「お電話ありがとうございます、おにぎり宮
です。…ふふっ、もう誰かと思うた。」


彼女の反応で、その電話の相手が誰かを察した
治は、またかと半分不機嫌気味にギリギリの
大量注文の支度を始め、美琴は到着時間を
彼に伝える。


「配達は、別の子にお願いしてな?」


『いや!今日は、私が行きます。』


「んー、会いたいのはやまやまやけど…」


『侑さん、私やとあかん?』


「俺の方が、美琴に会いたいに決まっとるやん。」


北は忙しくなる前に店を後にしていて、2人の
電話の声を聞いていた治は、甘やかそうとした
事を後悔しながら、息を荒くして迫る美琴に負け
て、配達は彼女が行く準備を始め、またその
配達先に頭を悩ませる。


「アイツ、どんだけチョロいねん!」


止めて欲しかった片割れに文句を吐き、なか
なか重量があるそれを美琴はカロリー消費!
と言いながら、治の手も借りずに車にそそくさ
と詰め込んで行き、彼は心配をしながらまた出発
をする彼女を見送った。


『日向君はお客さんやし、私の仕事やから
手を出したらあかんよ!』


「あっうん、…わかりました。」

前回と同じ配達先に到着をすれば、今回は日向
がそこに待っていて、前回のように代わりに
運ぼうとしたら、美琴にピシリと厳しめに言い
放たれるので、彼は彼女の気迫に負けて、彼も
反射からその手を引っ込める。


「美琴ちゃん力持ち!」


「お前が運んでこないとか、珍しいじゃん。」


「揚尾さんに止められちゃいました。」


そして、侑の仲間達の休憩室へと商品を持ち、
顔を出せば、久しぶりの美琴の登場からか、
皆が嬉しく待ち構えていて、彼女も優しい彼ら
に感謝して、笑顔で挨拶をした。


「美琴ちゃん、久しぶりー!
この前はありがとなっ…て、あれ?」


『木兎さん、今日はホンマにダメです。
大事な大事なファン感前に手首に負担が…!』


「美琴、どないしたん。」


毎度お馴染みの如く、木兎が美琴の隙を見て
持ち上げようとしてみれば、今回は気配を感じた
彼女がその手をぐっと止めるので、木兎は首を
傾げ、侑もらしくない彼女に驚いたのか、目を
丸くした。


しかし、侑は手首に負担と聞いてすぐにピンと
来たのか、可愛いらしいなーと笑い出すと彼女に
近寄り、そのまま木兎では無く、侑がヒョイっと
持ち上げる。


「ほら、まだまだ許容範囲内やな。」


『侑さんも、治さんとまた同じ事言うて!』


「ほな、この後に運動でも付き合うたろか?
ただ、ちと激しくなるけど…ええ?」


『え、練習もキツイのに大丈夫なんです?』


「んー?簡単な運動やから大丈夫やし。」

侑の提案に期待の眼差しをキラキラと向ける
美琴を見ていた佐久早は、よからぬ事をまた
言い出したと勘づいたのか、ずかずかと侑に
近づいて容赦なく彼を蹴り、そのまま美琴を
引き剥がして、自分の元へと引き寄せた。


「臣くん、痛いわ!」


「汚い手で触るな、美琴が穢れる。」


侑が触れた箇所を手で払うと、除菌シートで
綺麗に手を拭いて、また新しく出したシートで
美琴の手を綺麗に且つ丁寧に拭いていた。


「ストレッチとかなら、俺でも付き合えるから。」


『佐久早さんのストレッチは、ちょっと見学して
みたいです。』


「なんや、ストレッチの方が響きがやらしいやん。」


「でも、ツムツムみたいなあからさまな疚しさは、
全く感じないよ?」


「ぼっくんに指摘されるんだけは、嫌やった!」


そのまま、今回は1番に彼が注文したおこわを
受け取って、また仕事モードに切り替わった
彼女は、テンポよく彼らにおにぎりを配って
行く。


「美琴ちゃん、いらっしゃい。
今ちょうどシュークリームあるけど食うか?」


『えっ!?あ…、その…。』


「美琴、人の好意を無駄にしたらあかんでー。」


『ぐっ…ありがたくいただきます。』


すると、先程のやり取りを見ていなかった明暗
が休憩室へ入って来て、彼女に自分の差し入れ
分のシュークリームを渡して、頬張る彼女を
温かい目で見守る。


「食べてる美琴ちゃん、いいよねー。」


犬鳴も小動物みたいにに小さくなってシュー
クリームを素直に頂く彼女を楽しんで見ており、
周りの空気から、やっぱり食事制限のダイエット
は諦めざる負えない状況と化していた。


『ファン感で美味しいもの食べてしもうたら、
また丸くなる。
あかん、この前買い換えたばっかやのに。』


「もしや、美琴ちゃんが増えてる所って…」


「ぼっくん、それ以上は慎もうな。」

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