その声が好き


『お電話ありがとうございます、おにぎり宮
です。』

週の中で、最も繁盛する忙しい日曜日。
手が離せない時に美琴が電話番をして、客から
受けた注文や質問を丁寧に対応をする間に、
治は握ったおにぎりを客へと笑顔で渡していた。


「お待たせしました。」



『注文入りまーす!』


とにかく繁盛するこの時間帯の電話対応は、
美琴の仕事。
今あるその場の注文と電話注文を彼女が優先順位
ごとに貼って、淡々とそれを消化していけば、
ゆっくり息を着く間もなく、再び電話が鳴る。


『営業時間は…』


何度か電話が掛かって来て、最初は美琴も何とも
思っていなかったが、彼女が撮った電話が数回
に一回、先程からどうやら様子がおかしい。


こちらが返事をしていても一言も返ってこず、
最初は電波が悪いのだろうと思い、問いかけて
みたものの、それを切っても20分おきに同じ
ような電話がかかってくる。


彼女は少しだけ不気味に思うも、やりたい作業
は山のように残っていたので、彼女はそのまま
静かに電話を切り、客の注文を聞きに回った。


美琴が電話を取るたびに、少しずつ表情が
曇っていく姿を彼も不思議に思い、彼女に
声をかける。


「どうしたん?」


『いや、大丈夫です。』


心配する治が手を止めないように美琴は
笑ってそう答え、何事も無かったかのように
作業に戻ったので、彼もそのまま彼女を気に
かけながら、自分も手を動かした。


不審者ちゃう。これは、きっと気のせいや。
彼女はそう思い込みながら、客に笑顔で会計
を済まし、治にも心配をかけないように笑顔
を向ける。


電話注文の客も順調に消化していき、そして
少し客が引いた所で、再び電話は鳴り始めた。


『お電話ありがとうございます、おにぎり宮
です。』


その電話はまた先程と同じように無言だった。
もしもし?とこちらが声をかけてもやはり、
向こうからの返事は全く、彼女はそれに警戒を
する。


しばらくすると、今度は電話越しから荒い
息遣いが聞こえてきたので、彼女もさすがに
我慢の限界が来たのか、治の方へ助けを求める
よう半泣きで視線を送り、彼女が震えながら
首を振れば、すぐさま彼が受話器を受け取る。


「なんや、不審者か!?貸してみ。
…お客様、いかがなさいましたか?」


不安そうな彼女の手を安心させるように握り、
治が低めの声で丁寧な言葉を混ぜながら交代し、
彼が様子を見て怒鳴ろうと意気込んでいると、
段々と彼の表情が歪み、…ほーん。と納得した
ような表情に変わる。


「…角名、何しとん?」


『えっ、嘘。角名先輩??』


治が発した名前はかつての彼らの仲間で、
自分もよく知った人物の名が出てきたので、
美琴もまさかの展開に目が点になる。


「無理。まさか、美琴が電話に出るとは
思ってなくて。」


電話越しでも彼が顔を真っ赤にする様子は
安易に想像がつき、やっと言葉を発した角名
に治はアホなん?と呆れた顔で呟いた。


角名の言い分としては、今回たまたまこちら
でイベントがあったらしく、夜に治の店に顔を
出す旨を伝えようとして問い合せた所に美琴が
電話に出る。


彼女の声だとすぐに彼は認識したらしく、
久しぶりの彼女の声と大人びた話し方をする
彼女の成長に感動してしまい、喜びで言葉を
詰まらせてしまったとのこと。


何度か挑戦したものの、必ず彼女が電話に
出てしまうので、彼はその度に悶絶して、
先程の状態になってしまったらしい。

「いや、まじ声出せや。可愛い後輩を怯え
さすな。しかもクソ忙しい時に!」


「忙しい時間にかけたのは謝るけど、お前も
電話かけてみたら絶対にわかるよ。
美琴がちゃんと働いてるって感動で
堪らなくなるから。」


「知っとるわ。いつも横で感動しまくりや。」


治の隣にいた美琴は、突然電話の相手に
向かって自分のことを褒め言葉を沢山吐き始め、
彼女は恥ずかしさから顔を真っ赤にしていると
治は優しく笑って、彼女の頭を優しく撫でた。


「美琴、怖がらせてごめん。」


『あ、ほんま。角名先輩や!』


治が美琴に謝るよう促して電話を再び交代
して、角名が彼女にぽつりと謝れば、彼女も
声を聞いて、ホッとしたのか優しく微笑む。


近況を確認し合うように会話を続け、
彼女達が『お待ちしてますね。』「うん。」
と会話を続ければ、治が時間切れだと
急かして受話器をまた奪い、さっさと来い。
と厳しく言い放って、そのまま受話器を置くの
だった。


『角名先輩って私のこと苦手なんかな?
昔から時々謎の距離感ありますもんね。』


最初の電話が無言だった事が少しだけ悲し
かったのか、電話を切った後に美琴が肩を
落とし、眉毛を八の字にして笑うので、治は
そんなことあらへん。と彼女を元気づける。


寧ろその逆で、彼のスマホのフォルダには
彼女の写真の割合が高く、彼女への溺愛ぶり
は北に負けない程なのだが、その事はわざと
彼女には告げずに、彼の到着を2人は待つ。


『角名先輩、お久しぶりです!!!』


「美琴も元気そうだね。」


『(治さん、全然目を合わせてくれません。)』


「(ほっとき、気にせんでええから。)」


治は自分の店の制服姿の美琴を目にし、
再び感動して顔を伏せる彼を面白がって見て、
美琴は不思議そうに首を傾げて。


最後はちゃんと彼女の目を見て話をして、
制服姿はばっちりフォルダに収めていて。


この距離感から絶対近寄らせてなるものかと
治は密かに企むのであった。


「てか、まだ先輩呼びなんや?」


「可愛いくない?先輩て呼ばれる方が。」


「ちょっと、俺にも呼んで。」


『ええっと…治先輩?』


「…ほんまや、ちょい可愛い。」


『私は距離感感じて寂しいです。』


「じゃあ、治さんでえーからな。」


「何それ、ズルい。」


『角名さん?倫太郎さん?
んー、…どっちがええですかね?』


「…美琴。そろそろ角名が酸欠になるから、
そのへんにしとき?」

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