どきどきサプライズ


その日は、せっかく予定を空けていたという
のに、その数日前にまさかの美琴が急用が
出来たからと言って、別の人間とシフトを
交代しており、その日は彼女に会わずに、
1日を終わる予定となっていた。


ただその日を一緒に過ごせないだけで、子供
みたいに駄々を捏ねる歳でもない。


こればかりは仕方ないと、客が引いてしばしの
休憩をと思っていると、同じく本日が特別な日
となる人物から、電話が掛かってきた。


「今日、チームメイトと飯行くことになっとって、
皆からサムも来いって誘いがあったんやけど、
お前行けそうか?」


「おん、予定無いしええよ。」


「え、行けるん?美琴は…?」


「今日用事あるから、急遽休んどる。」


互いに、心の奥底で抜け駆けをされたのでは?
と疑っていた2人は、予定の相手が向こうじゃ
ないことに安心したのか、同時にため息を漏ら
した。


「何を振られとん?」


「そっちもやろ。」


そして、何を安心しとんねんと互いに息ピッタリ
に指摘して、きっと電話越しで同じ顔をしている
であろう、電話の相手の顔が頭に浮かび、眉間に
皺を寄せる。

プチッと治が電話を切れば、その後に侑から
集まる店の名前と地図を載せたメッセージが
届いた。


1人よりはマシだろうと考えながら、早めに商品
が売れたその日は、すぐに閉めることが出来、
タクシーに乗って向かって、自分の家族のチーム
メイトに挨拶をして、頭を下げるのだった。


「サムサム、お疲れ様!」


「治さん、ここどうぞ!」


本日のもう1人の主役に合わせて、海鮮系が
メインの居酒屋で、日向と木兎が到着した彼を
手招きして、日向はすぐに彼の座る席を指した。


彼が座ったところで飲み物はすぐに到着して、
お祝いの言葉を貰いながら乾杯の音頭を取り、
治からすれば、久しぶりに顔を合わせる馴染み
のメンバーと懐かしい会話をし、本日の主役の
2人は充分に楽しめていた。


ここの店の刺身の旨さに、つい可愛い後輩が頭
に浮かんで、今度は彼女も連れてこようかと考え
て、口元を緩ませる。


すると、隣にいた侑も同じ事を考えているの
か、似た表情を見せるので、ここまで思考が
一緒だと、さすがに治も嫌気がさしていた。


「今日の用事って、何やったんやろな。」


毎年欠かさずに、自分達にお祝いの言葉を
くれた彼女が、珍しくここにはいない事に、
やはり未だに違和感があるのか、治がぽつり
と言葉を零す。


「…俺らと、同じ誕生日の彼氏が出来たとか?」

少々飲みすぎた模様の侑は、先程まで上機嫌の
はだったのに、治の言葉を隣で耳にすると、
やはり彼女がここにいないことに寂しいと感じ
たのか、突然切り替わったように顔を曇らせた。


彼の落ち込む時は、ネタが滑った時しか知らない
周りは、いきなりネガティブな言葉を吐き始めた
ので、物珍しく侑を眺めた。


「は?彼氏が出来たとか、そんな空気は
無かったで?」


「お前が知らんだけなんちゃうん?
アイツは…、ほら、あの…赤葦君とか。」


「え!いつの間に赤葦とそんな事に!?
俺、何も聞いてねーけど!!?」


「木兎さん、それだと話が余計にややこしく
なります。」


よからぬ妄想は次へ次へと広がって、2人は
唸り、突然、自分のよく知っている人物の名前
を挙げられた木兎が驚いて大きな声を出すので、
日向が慌てて話に食いつく木兎を止めた。


他の先輩達は一旦そちらに視線を向けるものの、
その後は放ったらかしで、マイペースに飲んで
おり、同じく素面でこのテーブルにいるはずの
佐久早は我関せずで、「認めねえ。」と美琴に
彼氏がいるという情報だけは耳にしたのか、
眉間に皺を寄せてスマホをじっと見つめていた。


さすがにこの空気の中、素面の自分1人で相手を
するのは辛くなり、この空気が少しでも変わる
ことを願っていると、バチンと照明が暗転。


お馴染みのバースデーソングを明暗達が歌い
出し蝋燭の火がゆらゆらと揺れ、双子の前に
今すぐに会いたかった人物がケーキを持って
現れ、嬉しさから、彼らは言葉を詰まらせて
いた。


「揚尾さんが来てくれて良かった〜。」


『日向君、遅くなってごめん!』


この集まりの2週間前、美琴はスケジュール
帳と睨めっこしながら、頭を悩ませていた。


彼らとの付き合いが気がつけば5年以上経過して
いる事に気がついて、その間に2人へサプライズ
のお祝いを試みた彼女は、今年は何をしようかと
知恵を絞らせても、いい案が浮かばない。


大人になっていくにつれ、互いの時間は合わず、
侑に至っては、まもなく大切なシーズンを迎え
ようとしているので、下手にこちらから誘え
出せない。


『2人には、ほんまにいっぱいお世話になっとる
しなぁ。』


今年は、平日なのもあって、一緒にお祝いする事
を諦めてしまおうかと弱音を吐きそうになって
いる所に、彼女のスマホには1本の電話。


『もしもし、日向君どうしたん?』


「あ!揚尾さんにお願いがあるんだけど…」


『…うん、わかった。それなら、私からもお願いが
あるんやけど。』


日向が侑の誕生日を祝う幹事を任されていた
らしく、彼から相談の電話がかかり、そこで
彼女にケーキをサプライズで運んでもらえるか
と言うお願いだった。


同じく頭を悩ませていた彼女には、好都合の相談
事で、お願いを引き受ける代わりに、せっかく
なら2人を祝いたいと、彼女はそこに治もその
場に誘うようお願いをする。


そして本番当日、今回は運が悪くも電車の遅延
で、少しだけ到着が遅れてしまい、事前に内容
を把握していた犬鳴が、美琴の姿を見つけると、
さりげなく店員に知らせたのだった。


「えっ、美琴ちゃん!!?」


『侑さん、治さん、おめでとうございます。』


うっかり口を滑らせてしまいそうな木兎も一緒
になって内緒にされていた為、この場に居ない
はずの美琴が現れたことに彼も驚いて、彼女は
2人に蝋燭の火を消すよう促す。


蝋燭が消されると拍手が起きて、部屋は直ぐ
に明るくなって、はっきりと彼女の顔が見え
たら、すぐに2人は彼女に飛びつきそうに
なったので、慌てて日向がケーキを守って、
大惨事は免れた。


治にはわしゃわしゃと頭を撫でられ、侑には
頭をぐりぐりと頬擦りをされて、大男2人から
の激しめのスキンシップに戸惑う美琴、他の目も
気になり恥ずかしくなって逃れようとしたが、
彼らの力にはもちろん適わず、仕方なくされるが
ままとなる。


「はぁー、本物の美琴やんな?」


『はい、本物の美琴ですけど。
2人とも、どうしちゃったんですか?』


先輩達があまりにも自分が来たことを喜んで
くれているので、彼女はまずそれに驚いて、
日向と美琴は顔を見合わせる。


「美琴ちゃんいないから、寂しかったん
だって!」

木兎の発言と、日向が教えてくれた事情を聞く
と彼女は困った様に笑い、紛らわしいことして
すみませんと2人に頭を下げる。


『たまには、驚かせようと思ったんやけど
悪戯が過ぎましたね。ごめんなさい。』


2人は彼女と過ごせたら、そんなことはお構い
無しだったのか、皆でケーキを食べて笑い、
ちゃんと彼女からプレゼントも受け取って、
それは最高の時間となる。


「そないに悩むんやったら、今度は美琴が
プレゼントでもええんやで。」


侑が耳元で揶揄うと、耳元まで美琴の顔が
真っ赤であたふたし始めるので、それを見た
治が怒り出し、いつ通りの喧嘩が始まる。


もうしばらくこの関係は続くだろうと、
彼のチームメイトは呆れた顔で仲の良い3人
を見届けるのだった。


「ところで、翔陽君。いつの間に美琴の連絡先を
知っとったん?」


「ほんま、油断も隙もあらへんなー。」


「えっ、えっ!!?」


「お前ら、後輩を脅すな。」

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