「晴れ女が一緒やと、安心やな。」
太陽に照らされた黄金色の稲穂が垂れ下がり、
辺り一面の絶景を後悔しないようにしっかりと
目に焼き付けて、気合いを入れて軍手をはめる。
『今年もお手伝いに来れて、良かったです。』
今年も稲刈りのお手伝いを出来ることを喜んで、
畑の手伝いの時同様、完全防備で自分の出来る
限りのお手伝い。
北がコンバインを操作して、美琴は運ぶのを
手伝う為に、軽トラックを運転して、自分が
ミッション車もちゃんと取得していた事をこの
日だけは誇りに思う。
外周からどんどんと狩られていくその景色は
何度見ていても飽きなくて、その後農機で
狩ることの出来ない部分は手作業で行い、
時折その好きな瞬も美琴は楽しんだ。
「美琴毎年ありがとな、ほんまに助かるわ。
軽トラの運転も様になっとるし、段々と
似合うてきたな。」
『んー。褒め言葉は嬉しいんですけど、女子
としては、軽トラが似合ってしまうんは複雑
ですね。』
一旦休憩をしている時に、北にそう褒められて、
素直に喜んでいいのか分からない彼女は、複雑
な顔を北に見せて、彼はその反応が面白くて
笑っていた。
「すまんすまん、ちゃんと働いてくれるんが
助かるから、素直に褒めとんやで。」
『わかってますよー。』
「拗ねたんか?」
『子供やないから、拗ねてません。』
口を尖らせた彼女の顔色を伺って、北は美琴の
顔を覗き込むと、いつの間にやら準備され
た採れたて1粒を喋っている隙を狙って、
そのまま口の中に放り込まれた。
『…美味しい。』
「んふふ、稲刈り中の醍醐味や。」
そう言って彼は破顔して、彼の掌にはまだ数粒
あり、それが輝いて見えた美琴は、その甘さに
思わず言葉を失い、北が丹精込めて作ったそれ
をやっぱり好きだと、彼女も顔を緩ませていた。
『新米が楽しみ過ぎです。』
「準備出来たら、もうしばらく待ってな。」
『それじゃあ、今のうちにいーっぱいカロリー
消費せなあきませんね!』
腕を伸ばして、後半の仕事にもやる気を見せる
美琴の笑顔は、逆に北には眩しく見えて、その
愛しさから彼は目を細める。
「ほんまに、頼もしい子やな。」
籾の入った袋を彼女は必死に運んでくれたりと、
やらなければならない作業を手伝いに来てくれ
ていた人達と黙々と作業をこなせば、久しぶり
の力仕事は体が悲鳴を上げていた。
『私、自分の運動不足を思い知らされました。』
「ん、トラック乗れるんか?」
『あっ、それは乗れますよ…って北さん!』
片付けまで済ませると、彼女が普段の倍の力仕事
に息を切らせて、その場にしゃがみ込んでいると、
自分よりも更に力仕事を済ませたはずの北が、
彼女を躊躇うことなく担ぐので、美琴は戸惑い
を見せるが、彼は動じること無く、助手席へと
彼女を乗せた。
『私重たい言うたのに…。しかも、北さんの
方絶対に疲れとんのに!』
「こんなん朝飯前やろ…って何や、体重
変わっとらんのとちゃう?」
彼の逞しさを改めて実感した美琴は、顔を
真っ赤にさせていたが、慌てる美琴に動じる
ことも無く、ケロッとした顔で彼女に
そう言い除ける。
そして、寧ろ健康のためにもカロリーを取るべき
だとまで、彼に真顔で言われてしまうので、
そのまま何も言い返せず、彼女は助手席の中で
小さくなるのだった。
「帰り道に食いたいもん、考えときや。」
『うぅ…、せっかくカロリーをいっぱい消費
したはずやのに。』
「適度な運動は大事やから、今度走るんは
付き合うたるわ。運動言うたら、芋堀りかて
待っとるし。」
『なんて魅力的なお言葉…!』
「芋好きやもんな、せやからそれまでの
カロリー消費は付き合わないかんな。」
『私、北さんのそうゆう所は大好きです。』
「ふふふっ、せやからいっぱい食うてな。」
嬉しくなる言葉を耳にした彼は、少し照れた
様に助手席の彼女を一瞬目にしたが、『でも
そうやって、甘やかすとこは嫌や。』とその後
に可愛い嘆き声も聞こえてきたので、彼は彼女
の頭をくしゃりと撫でながら笑った。
北の家へと戻って来れば、また彼の祖母は嬉しく
美琴を迎え入れて、彼の家でお風呂を借りた
彼女と縁側に座らせて、そこで世間話を楽しく
しながら、のんびりとお茶を啜るのも、仕事を
終えた彼女のもう1つのお楽しみ。
「いつもお世話になります、宮です。
これ、つまらんもんですけど…。」
「治、よう来たな。上がり。」
『あ、治さん!今日はお休みを
ありがとうございました。』
「何言うとん、俺の分も頑張ってくれた
んやから、こっちこそ感謝やわ。」
そうしていると、最後の楽しみへと突入を
して、手土産を持った治が北の家に到着し、
彼が台所を借りて、そこからは打ち上げと
いう名目の楽しい宴会が始まり、久しぶり
の賑やかな食事を彼の祖母も喜んで共にする。
『おばあちゃんのお稲荷さんも治さんの
野菜の天ぷらも最高や。』
「素材がええねん、素材が。」
「採れたてやから、否定は出来んな。」
「美琴ちゃんがお嫁に来てくれたら、
毎日この野菜を楽しめるんやけどなあ。」
「はっ、すいません。それは勘弁して
ください!」
「何でお前が答えんねん。」
冗談のつもりで吐いた言葉を何故か治が真面目
に捉えて必死に阻止すれば、すぐさま北が指摘
するので、「あらあら。」と言いながら、2人の
反応にクスクスと笑う。
「美琴ちゃんも隅に置けんねえ。」
『へっ!?そんなんとちゃいますよ!
恐れ多すぎですって!!!』
そう言って彼の祖母は立ち上がって席を外す
と、恥ずかしさを取り繕うように勢いよく
グラスを取り、ぐびぐびっとそれを口にして
いた。
『…んっ、これ苦い?』
「美琴、それ梅酒とちゃうやん。」
「しもうた、またグラス間違えたんやろ!」
一気に飲み干していたのは、またもや治のグラス
に入った、普段は全く飲み慣れていないビールで、
隣にいた治が慌てて彼女の手から取り上げたが、
時は既に遅く、ぐるぐると酔いが回った彼女は、
そのまま治に倒れ込む。
「美琴、大丈夫か!?」
『全然、大丈夫れす…ちょっと眠気が。』
「治。布団用意したるから、そっち運ぶで。」
北はそう言って立ち上がり、彼女の為に準備
された布団は、再び北の部屋となっていたので、
さすがの治も目が点になる。
「危なっかし過ぎて、まだまだ結婚どころや
ないな。」
「いやいや北さん、突っ込むとこはそこだけ
じゃ足らんて。しかも、まだ付き会うても
ないのに、何を言うとるんですか。」
「冗談に決まっとるやろ。」
「目が半分本気でしたよ?」
本日はそのまま帰る予定となっていたが、彼女
が突然のこの状態となってしまい、北の思わぬ
発言から、このまま帰る訳にはいかなくなった
治もそのまま一緒に彼の家に泊まることに。
『あかん…またアホなことしてしもうた。
それもよりによって、先輩の家なのに…。』
久しぶりに二人に挟まれて目覚めた翌朝の彼女
はあたふたとした素振りを見せて、2人から逃げ
出そうとしていたが、2人の逞しい腕から開放
されることなく、手で自分の顔を覆うことしか
出来なかった。