悪戯希望でお願いします


『よかったら、飴ちゃんどうぞ。』


小さい子供の目線に合わせてしゃがみ込み、
カゴに沢山入った飴を見た子供は、嬉しそう
にその中の一つを受け取った。


魔女さんや!と子供達の喜ぶ声が聞こえていて、
バイト仲間で話し合って決めたコスチュームは
好評。


おにぎり宮だけではなく、本日は土曜日という
のもあって、商店街一体がハロウィンイベント
一色で、お祭りモードと化していた。


どの店も何かしらの催し物をし、この店では、
カボチャメニューを限定追加と、帰りには飴を
1つプレゼント。


店の負担はかけまいと、自腹でお手頃な値段で
購入をして、女子達は魔女というテーマはお揃い
にしてみたりもして、仕事をしながらイベントを
しっかりと楽しんでいた。


「美琴のは、スカート短こうない?」


『大丈夫です、中見えないようにちゃんと
下も履いてますよ?』


「おん、せやな…ありがとう。」


『治さん、何でそこでお礼なんですか?』

しゃがみ込んだ時は治も少しヒヤッとしたのか、
心配をして声を掛ければ、用意周到な彼女は露出
対策はバッチリで、厨房に戻っていた彼女は誇ら
しげにふわっとスカートを翻し、久しくそんな姿
を見ていない治には破壊力抜群だった模様で、
彼は眩しさから目頭を押さえる。


すると、治のリアクションを不思議に思ったの
か、美琴は目に異物でも入ったのかと、心配を
するのだった。


そんな彼も本日はキャップではなく、美琴が
100円ショップで購入した、猫のカチューシャの
被り物を付けて、そのギャップが女性に人気が
あったらしく、いつもよりも若いお客も増えていた。


「美琴、それ破壊力凄いな。…治はそれ
何やねん。」


『銀島さん、来てくれたんですね!』


「美琴チョイスや、可愛いやろ?」


そして治ばかりではなく、美琴も立派な客引き
の効果はあって、銀島も店に現れると、まず
美琴が目に入ったのか、一番に吐いた言葉が
それだった。


「これは写真、撮ってもええの?」


「生憎、写真撮影は禁止となっております。」


「でもこれ…侑らから写真寄越せってうるさいねん。
お前、今メッセージを無視しとるやろ。」


「やかましいから、ブロックしたわ。」


珍しい銀島からの催促も、治は眉一つ動かさず
にバッサリとお断りを入れて、相変わらずの彼
には銀島も苦笑い。


「お陰様で、こっちはとばっちりやからな!」

そして変わらないのは治だけではないと言い
たいのか、シーズンが始まり、忙しいはずの
プロのバレーボーラー達は、今日のイベント
を嗅ぎ付け、合間合間に、銀島に連絡を送り
付けていたらしく、うんざりとした顔で、治
にその並んだ大量のメッセージを掲げる。


どうやら彼はあまりにもしつこい彼らに根負け
して訪れたらしく、彼も予定は全くなかった
ので、ここまで来たのだった。


『写真撮影、ダメやったんですか!?しもうた、
店員なのにさっき子供と一緒に撮っちゃった。
すいません、浮かれてました。』


「いや、美琴には言うとらんかったら、
怒らんけども。」


『私も思い出残したいし、大人も知り合いなら
一緒に撮りたいです。』


「んー、そう言うならアリにしようか。」


「美琴、ありがとう。」


銀島のお願いを治が渋っていると、それを
可哀想に思ったのか、美琴が上手く治を
OKの方向で持っていこうとしてくれたので、
銀島も彼女に感謝をする。

すると、彼女は任せてくださいと張り切った
口調でポケットからスマホを取り出して、
何故か治の方向へカメラを向け始めるので、
2人は彼女の行動に目が点になり、先に口を
開いたは治からだった。


「ん、美琴。何しとん?」


『治さんがもう少し寄ってくれたら、銀島さん
も入りそう!』


「いや、ちゃうちゃう!美琴の写真!
なんで野郎の写真なんかいるねん。」


『え、私!?楽しそうな治さんの姿を見たいん
かと思うてました。』


「美琴も相変わらずやったか。」


頭を抱える銀島に、恥ずかしそうに美琴は
笑って言われた通りに立たされると、そのまま
銀島にカメラを向けられたら、どういう顔を
すればいいか正解がわからず、照れ臭そうに
カメラを見つめていた。


「…美琴、なんかエロくなったな。」


『へっ!?』


「銀、変な目で見るんやったら帰れ!。」


『えっと…その、あっいらっしゃいませ!』



「やましい気持ちは一切無いから、そこは信じて!
(いや、この写真が妙に色っぽくなっとるから!)」


突然の銀島の爆弾発言に、美琴が顔を真っ赤
にして驚いていたら、その横で見事な瞬発力
で、治は彼女を見せに引っ込め、鬼の形相を
銀島へと向けた。


羞恥で少し泣きそうになった彼女に慌てて銀島
は必死に撤回をしていると、扉の開く音が聞こ
えて来たので、彼女はまたすぐに接客に回り、
銀島は治に聞こえる声でそう言って、彼にだけ
にその写真を見せた。


「それ、俺に送ったら他の奴には送んなや?」


「遅いわ、撮ったのと同時にアイツらに送って
しもうたわ。」


「は!?何しとんねん!」


「送らんかったら、もっと面倒臭いことになる
やろ?」


銀島の言い分に深くため息をついた時に限り、
その画像の既読マークが付くのは早いもので、
それぞれが彼ららしい返信を銀島へとすぐに
返す。


「侑からは、今すぐ配達頼んだら、その格好
なんか?…と、角名からは、治は職権乱用すんな、
後ろ姿も送れ…って、さすがにそこまで撮ったら
変態やし!」


「…無視や、無視。」


その返事に治と銀島の2人は顔を見合せて、
こくりと深く頷く。


「ほら、おかかと鮭お待ち。」


そして、出来上がった品を銀島へと差し出し
て、その間に鳴った電話は相手が誰かがわか
っているからか、美琴ではなく、治が取る。


「何でお前やねん!」


「行かせんから、お前は大人しく練習
せえ。」


「サムだけ美琴のイタズラ楽しむ気やな。」


「アホか、美琴は真面目に可愛らしゅう
仕事中じゃ。」


「侑はホンマは、暇なんか?」


電話越しの兄弟喧嘩に銀島は呆れた声を上げ、
ガチャりとその電話を切るのと同時に会計を
済ませた。


『銀島さん、また来てくださいね。』


可愛い後輩からは、帰りに飴も1つ受け取り、
ちゃっかりそのイベントを楽しんで、治の
見ていないところで、彼女の頭を撫でたりも
してみたり。


「ありがとう、美琴も頑張ってな。」


その優しい笑顔には、人を惹きつける魅力が
あるのか、恋心は無くとも目じりはつい下が
ってしまい、その後には治の鋭い視線が待って
いた。


「お前も大変やな。」


「うっさいわ。」


治に哀れみの目を向けたら、じっとりとした目
で彼からはそう返ってきて、銀島は笑いながら
店を出ると、治は礼を言いながら見送った。


そして、すれ違った客はまた男性客が入って
来て、この男にも嫉妬の目を向けるのか、
さすがにないか、と考えながら、残りの休日
の過ごし方に段々と思考は偏っていく。


「出張兼休日出勤バンザイ。
小狐ちゃん、これは写真とお持ち帰りOK?」


残念ながら、銀島がふと浮かべた疑問はあながち
間違いではなかったらしく、その男の登場に、
治はまた顔を引き攣らせていた。


『黒尾さん、来てくださったんですね。』


「美琴ちゃんに悪戯しちゃおっかな。」


まだまだこのイベントは、苦労を抱えながら
もう少し時間が残りそうだ。
そしてこの厄介な男も更に、厄介な男を巻き
込んでいくのだった。


「お電話ありがとうございます、おにぎり宮です。」


「東京まで、配達の指定出来ますか?」


「申し訳ございませんが、当店は県外の配達は
承っておりません…て、させるわけないやろ。」


「赤葦、電話早いねー。」


『黒尾さん、赤葦さんに何を送ったんですか?』

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