それぞれの反応


せっかく彼女の声を自分の耳に入れようと、
嫌われてしまうことを覚悟して、1本の電話
を入れたというのに、それは彼女の厄介な
上司兼先輩に見事に邪魔をされ、思わず赤葦
の口からは、自然と舌打ちが出てしまった。


その後にはドンマイと腹の立つのスタンプの
おまけ付きの黒尾ののメッセージと、美琴からの
お目汚しをすみませんと謙虚なメッセージが
届いて来て、きっと2人は同じ場にいるのだと
考えたら、何故そこには自分がいないのだろう
と余計に彼は、悔しさしか沸いて出てこない。


「その逆、凄く可愛いかったのに。」


会いたくなりましたと、美琴への返信は素直な
言葉を送り、先程黒尾から届いた、笑顔で写っ
ているその写真を目にすれば、会いたさはただ
募るだけ。


隣に並んで笑ってくれた時のことを思い返し
ながら目を伏せ、ちょうど手元にあった
スケジュール帳で来月の予定を確認すれば、
とある日付をじっと見つめる。


「赤葦さん、大丈夫ですか?」


「すみません、緊急事態に取り乱しました。」


休憩の合間に、普段目にしない赤葦の姿を見た
同僚は驚き、彼の顔色を伺って声をかけてきた
ので、彼も我に返り、自分のデスクへと戻って
行く。


11月17日に行われるその大きなイベントは、
彼女もスタッフとして参加だということを知り、
今度会えますねという彼女から言葉を糧に、
残りの作業をこなそうと、彼はパソコンに手を
かけるのだった。


「信じら、れ、へ、ん!!!」


連絡に集中出来ひん!と突然ヒステリックな
声を上げ始める侑に驚いて、日向の肩は跳ね、
他の周りの仲間たちは、また始まったかと
慣れた様子で、侑のその様子をスルーする。


「どうしたんですか、侑さん。」


「多分ね、美琴ちゃん関連。
去年もさ、このシーズンと何かしらのイベント
が重なっちゃって、その場に居合わせれなくて
発狂してたんだよね。」


「くそ、うるせぇ。」


のたうち回っている侑を見ながら、冷静に日向
に説明をする木兎は普段と違って落ち着いて
見え、そんな侑を鬱陶しそうに佐久早は眉間に
皺を寄せる。


普段なら、練習終わりに直ぐに会いに行ける
のに、今日だけは寄りにもよって名古屋に
いたりで、無謀な配達を願えば、彼女の声を
耳にすることなく、治とただ喧嘩するだけに
終わってしまう。


「さっき、チラッと見たけど美琴ちゃんの
魔女っ子姿、可愛かったね。」


「ぼっくん、プライバシー心外やで!」


まあまあと宥めながら、彼らはまたコートに
戻り、しばらくすれば美琴からは労いの言葉
が届くだろう。


「はよ、美琴に会いたいわ。」


ボールを手に取り、調子を取り戻した彼は新しい
それを思い切り打ち込み、ユニフォームを着て、
目を輝かせて見てくれる彼女を少しだけ想像する。


「美琴は、おにぎり宮の制服だろ。」


「臣くん、余計な事言わんといてくれる?!」


自分のものだと漂わせる侑が気に入らなかった
のか、佐久早はポツリと通りがかりに吐いて、
侑はまた集中力が切れそうになるのだった。


「…一言も喋らないね。」


「喋らねーな。」


普段から口数が少なめのチームメイトは、いつ
にも増して、ただ黙って真剣な眼差しでスマホを
見つめており、古森も鷲尾も顔を見合わせる。


プライベートを覗き込むのはらいかがなものかと
躊躇っていたが、あまりにも彼がそれを見つめる
時間が長いので、2人もつい気になって彼の見つ
める画面を除き見してしまった。


「この子って、おにぎり宮にいた子?」


「お前、よく覚えてるな。」


「あの聖臣がこの子の手を躊躇うことなく
握ってんの目撃して、その衝撃で覚えてる。
ほら、稲荷崎のマネージャーだった子でしょ?」


「あー、そういえば木兎と赤葦も気に入ってた
あの子か。一生懸命過ぎて、よく試合会場で
迷子になってて、赤葦が面倒見てたわ。」


「他校の子なのにね。…でも、確かに可愛い子
だね。ちょっとした、色っぽさもあるし。」


古森と鷲尾はその写真の面影から思い出した
のか、懐かし話で盛り上がりそうになって
いたら、その合間に出てきた美琴のエピソード
が気になり、そこでやっと角名はそこで「その
話、知らない。」と声を発した。


「うわ、やっと喋った!」


「可愛さは認めるけどさ、美琴をそんな目
で見るのは禁止ね。あと普段はふんわり系
だから。」


「悪い、彼女だったりした?」


「・・・・・・。」


「じゃねーんだな。」


古森の質問に黙り込む角名を見て、聞いては
いけない質問だったと後悔するのも遅く、
さっきの話詳しく教えて欲しいと言い出した
彼の目は鋭かった。


しばらく会うことの出来ない寂しさを補うかの
ように、彼は彼女の話を求める。


『…っくしゅん!』


所々で噂話をされた美琴は、突然くしゃみ
が出てくるのですぐさまそれを手で覆って、
治は彼女の体調を心配して、すぐにカウンター
席に座る彼女の肩にブランケットを掛けて
あげていた。


「風邪引いたんか?」


『いや、寒気とかは無くて鼻がムズムズして。
誰かが、噂でもしとったんですかね?
17日に備えて、絶対に風邪は引きません。』


「楽しみにしとったもんな。」


心配をする治に恥ずかしそうに美琴は微笑み、
鼻を擦りながら、次のその予定に使われる、
遠征に向けての御品書きを作る作業を再び
再開する。


『あ、しもうた。この格好やからあかんかった
かもですね。』


「せやったな、似合いすぎとるからそのままで
おらせてしもうたわ。」


書き終えて気がついた美琴は、自分が見に
纏っていたレース部分を引っ張り出して、
治は不意打ちに見えそうになる隙間を
慌てて押さえて、心の中ではその幸運に
ガッツポーズをする。


「じゃあ、風邪予防ってことで。」


邪魔者がいつもよりも多く感じたその日だから
か、独占欲がいつになく増す治は、背後から
美琴を抱きしめて、その温もりを今は自分
だけのものにしようとし、それに恥ずかしが
って逃げようとする彼女を彼は逃さない。


『ちょ、治さんどうしたんですか?』


「今は、お菓子くれても悪戯するで。」


『これは悪戯なんかな?すごく温かい
です。』


子供っぽい素振りを見せる治に美琴は優しく
笑顔を見せ、残りの作業をさらっと済ませる。


「今日はほんまに疲れたから、美琴で元気
貰うからな。」


今日の一日を振り返り、珍しく電話番を自分より
も彼の方が取っていたことを思い出したのか、
彼女は罰が悪そうに、手元にあったキャンディー
の包みを開けて、彼に口を空けさせて放り込む。


『じゃあ、悪戯覚悟でお菓子プレゼントですね?』


「…何それ、可愛すぎやん。」


不意打ちの甘やかしに、すっかり骨抜きにされた
治は本日の疲れが一気に抜けて、へなへなへなっ
と力が抜けて、彼女にもたれて身を屈める。


そしてこの愛しさから、今後の大きなイベントは
大丈夫なのだろうかと、またもや悩み事は増える
一方だった。


「治、美琴、2人してその格好は何や。」


「しもうた、もう一人おるのも忘れとったわ。」


『北さん、トリックオアトリートです!』

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