11月11日のハプニング


「美琴、んー。」


「お前いきなし何やねん。きっしょ。」


「あ?そら決まっとるやろ!」


それは美琴が高校1年生の昼休憩の事。
美琴を誘拐の如く双子が屋上まで連れていき、
お昼をそのまま一緒に食べて、今日は人気の
チョコレート 菓子の日だと、ランチバックに
その菓子箱を入れて いた美琴は、先輩2人
にニコニコと笑って差し出した。


「あのゲームしようや!」


侑は閃いた様に1本取り出すとそれを齧って美琴
に向け、治は堂々としたセクハラを始める侑を
鋭い視線で睨みつける。


もちろん、彼女がそのゲームに参加出来るわけ
が無く、顔をかあっと赤くさせて、そんな
つもりや無いんです!と手をブンブンと必死に
振っていた。


「美琴、変態の言うことなんてほっとけば
いいから。」


「せや、純粋な後輩の差し入れをいらん事に
使うな。」


恥ずかしがる反応を面白がって、じりじり
と美琴に近寄る侑を呆れた目で見ながら、
角名と銀島が彼を止めて、やるわけない
やろとそれを治がしっかりと阻止をして、
胡座をかく自分の上にひょいっと乗せた。


『治さん、これはこれで恥ずかしい…。』


「今日ちょい寒いから、風邪予防させて。」


「なら、屋上で食おうとか言い出すなや!」


「ここなら俺らだけで貸し切り出来そう
やし、喧しいのが寄ってこんやろ。」


治は暖を取るように美琴を包み、彼女の
持つ箱から1本それを手に取ると、美味し
そうに口にする。

その柔らかく温かい心地良さに、彼は目を
細めていた。


「あー、幸せ。」


『ふふっ、治さん好きですもんね。幸せ
そうで、何よりです。』


「好物だらけで最高やな。」


「美琴、ソイツこそやましい気持ちで
いっぱいの人間やぞ、騙されんなや!」


まったりとした治の表情に、美琴も恥ずかし
さは少し和らいで、賑やかな侑の注意を隣に
いた角名は耳障りだと顔を顰め、さりげなく
美琴を膝に乗せた治側に移動する。


すると美琴は角名にもどうぞとにっこり
笑って、彼も少し嬉しそうにそれを1本
受け取った。


「角名はヘタレやから、無理やもんな。」


侑のその煽りの混ざった一言に、ぴくっと肩を
揺らした瞬間を銀島だけは見逃さなかった。
侑は一人の男に、火をつけてしまったのだ。


突然、その受け取った1本を美琴に咥えさせ、
角名は彼女が治の腕の中にいることに構う
ことなく、両頬を自分の両手で捉えて、
その咥えさせた1本に齧り付き、ポキポキと
突き進み始めるので、周りは唖然とする。


『ひゃっ…!?ひょ…、ふはへんはい!?』


律儀にそれを咥えたままでいる美琴は、言葉
を上手く発する事が出来ないままに、どんどん
と自分に近寄ってくる角名の貫く視線に戸惑っ
て、羞恥 に耐えられなくなったのか、グルグル
と目を回す。


「おい美琴、大丈夫か!?」


コテンと力尽きてしまった美琴は、治の胸に
自分の頭を預け、気を失う可愛い後輩の姿に
治は慌ててペチペチと彼女の頬を優しく叩き、
意識を取り戻させようとした。


「角名お前、何してくれとんねん!」


「待て侑、…こっちも死んどるで?」


「お前、意識失うくらいなら最初からすな!」


もちろん角名も自分からやっておいて、彼が
その距離に最後まで耐えきれるはずが無く、
最後の一口は幸か不幸かポトリと落として、
固まっていた。

その介抱をする役は決まって銀島となって
いて、ギャーギャーと騒がしいその屋上から、
ギィィっと建付けの悪い扉の音が響き、その
音とその人物を目にして、周りはピシリと凍り
付く。


「なんの騒ぎや、階段から聞こえとったで?」


その張りつめた声と表情に、双子と銀島は
青ざめた。


美琴がぐったりとした姿を目にして、その手に
持つ菓子箱の存在にも気がついて、表情は変え
ないまま、北はふぅーっと深い息を吐く。


「菓子くらい、お前らはまともに食えんのか?」


その声でハッと目覚めた角名と侑と治と銀島
は地獄の時間が始まり、その時間の終わりを
告げたのは、美琴が目覚めた頃だった。


「…て事もあったなあ。」


ふと懐かし話で盛り上がり、その事件のきっかけ
となったチョコレート菓子を見つめたまま、その
差し入れのお菓子を口にする。


「ほんま、今の侑やったら俺の持ってるの
咥えるか?とか言いそうやけど。」


「やめえ、想像したやんか。」


『すみません、今戻りました。』


「美琴、おかえり。」


「美琴、お疲れ。」


『あ、銀島さんいらっしゃい!』


学校終わりの美琴が制服に着替えて店に現れ
ると、開店前のその時間に、馴染みの先輩が顔
を出してくれていて、本日はなんと手土産付き。


「…言うても、安モンやけどな。」


『わー、ご当地限定のやつですね!
私コレめっちゃ好きやから嬉しいです。』


軽く旅行に行ってきた彼が渡したそのお菓子に
喜んで、本日のカレンダーと見合わせて、
そういえば!と思い出したように、2人の顔を
交互に見るので、今その話をしていた事を彼女
にも説明をする。


すると恥ずかしい過去を振り返らされ、
美琴は困った顔で笑っていた。

『せや、私も鞄にあるんで持ってきますね!
銀島さんにお礼も兼ねて。』

「え、あのゲームしてくれるん?」

「いや、何言うとんねん。させるわけが
無いやろ。」


休憩室のロッカーから嬉しそうにその箱を2つ
持って来て、1つは銀島に渡し、もう一つは袋
から出すと、誇らしげな顔で治の方向を向いて
いた。


『昔は負けとったけど、今なら治さんとなら、
勝負できそうな気がします!』


「おっとー、そう来たか。」


「…日本酒飲ませとけばよかったわ。」


「治、心の声がダダ漏れやで。」


楽しそうに自分に向けてくる美琴を見て、
真顔で本音を言い始め出した治に、それを
苦笑いを浮かべながら、やり取りを見届ける
銀島。


治が心の中でその可愛らしさに悶絶している
間に、タイミングのいい男、北信介は再び
登場をして、また昔と同じ言葉を彼らに投げ
かける。


『北さん、これはゲームです。せや、北さん
にももう負けん気がする!』


「ほーん、ゲーム…な。」

ただ昔と違うのは、彼女は今は意識はしっかり
とあって、北も彼女の話を何故か真面目に耳を
傾けている。


そしてあろうことか、彼女の肩に手を置いてその
ゲームに参加してその棒に躊躇う素振りも見せず
に齧り付く。


治達は大胆過ぎる彼の行動に慌てて、北の鼻が
僅か数センチで美琴の鼻につく辺りですぐさま
ストップを掛けた。


「ほら、違うやつにされたら嫌な気持ちになる
やろ?わかったんなら、二度とすな。」


「え…俺らが慌てるのを分かっとって決行
したん?」


「さすが、ミスター隙無し。」


『あかん。皆に大丈夫って言うておいて、
全然大丈夫やなかった。』


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