そこで見ていて


ああ、ちゃんと見てくれとるな。


一瞬だけ、シーズンが始まってからはずっと
会えていなかった、自分の片割れの隣にいる
愛しいその 子に意識を向け、存在を確認する
と、満足をして試合に意識を戻す。


美琴が顔を出すと約束した会場で、気がつけば
この動作が彼の中の習慣となっていて、いつも
と違うこの地でも、侑は変わらないまま、彼女
を愛しく見た。


彼女の目の前にいた赤葦が怪訝な顔をしていた
としても、構わない。
今この時、この瞬間でも、彼女は作業をしな
がら、自分を応援してくれている。


それをよく知っているからこそ、彼はそれ以上、
美琴に意識を向けることは無かった。


『バレーしとる侑さんは、やっぱカッコイイ。』

「美琴、それツムに言うたら絶対調子に乗る
から、本人に言うたらアカンで?」


何回も彼を見て吐いてしまった単純な感想。
そして、それを吐く度毎回丁寧に注意をする、
彼の家族兼ライバル。


ブラックジャッカルもアドラーズも、互いに
1セットずつ奪い合って、展開の早すぎる試合
を仕事の合間に目で追って、本日も同じく、
彼女の一言を聞いて顔を顰める治に、美琴は
笑顔を向けていた。


楽しくトスを上げて攻撃を導けば、相手の
ブロックに捕まってしまい、はしゃいでもうた
あ〜と頭を抱えて悔しがっている侑を見て、
後ろで辛辣な言葉を彼に掛けている佐久早の
態度も何となくわかり、はははと笑う横で
美琴もそのやり取りが彼ららしいと、温かく
楽しそうに見届けていた。


そして、その頃合に応援する先輩がそろそろか?
と彼がボールを手にとった時、そわそわする
美琴の横で、治も温まってきたでと確信した。

先月顔を伏せて、迷いを見せていた彼とはもう
違う表情に、美琴はすっかり安心しているのか、
口元を押えて、また昔と全く変わらない仕草で、
自分の息を止めている。


彼の邪魔をしないように、集中できるように、
それがちゃんと、願い通り上手くいくように。


「美琴、その格好は何なん?」


『あの、侑さんのサーブの邪魔をせんように、
音を絶対に立てんええ方法思いついて。』


「で、なんで息止めとるん?」


『万が一、鼻がムズムズってなってくしゃみが
出たらあかんから、息止めとったら気にせん
でもええかなって。』


「予防は大事やな。」


「美琴は、本当にそういう所が健気というか。」


『絶対決まるんは分かっとるけど、心の中で
神様にもお願いもしとりますよ。』


「美琴〜〜〜っ!」


「お前、美琴に引っ付くなや!」


不思議な行動を取る後輩を不思議に思い、双子
が尋ねれば彼女の答えに北と角名が感心して。


高校時代のそんな会話を思い出して、侑が彼女
のその仕草に胸を鷲掴まれ、抱きつく彼女を治
が角名と一緒に引き剥がし、北が黙って見つめ
ているのが妙に怖かった、過去の思い出。


俺達はわざわざそんな格好せんでええよ?と
彼女が気を遣いすぎないように、治と角名は後
から彼女にそう伝えたことを今となっては、
後悔する時が。


その時から、彼女のこの動作は侑だけの特別な
ものな気がして、もちろんそのサーブに自分も
成功を願ってきたが、まっすぐ侑を見るその瞳
を隣で見たら、チクリと自分の胸が自然と痛む。


こん時だけは、ちょぴっとだけ妬けるな。
でも、この時、この瞬間だけ。
この場面を見れば、そんな気持ちはすぐに消え
て、いるのだが。


今だけは許してやる、悪魔で試合の時だけ。


ブロック3人を巧みに惑わせて、次のジャンプ
フローターサーブもしっかり成功させて、その
手応えに美琴も治も手を小さく握り締めていた。


『よし、侑さん乗ってる乗ってる!』


そして昔は決まり事となっていた歩数から、侑
のお決まりの攻撃と見せかけ、4歩先から至近
距離の回転のしっかりかかった、鋭いスパイク
サーブも見事に決まり、威力に目を光らせた。


『侑さん、ナイスサーブ!』


それが決まった後の快感をコートから離れた
場所で、美琴も治もしっかりと味わっていて、
彼はポンと彼女の頭に手を置き、アレは気持ち
ええやろうなと笑いかけていた。


三刀流になった彼に怖いものなんてないかも!
とくしゃりと彼女も笑い返し、またキリのいい
所で、繁盛という波は押し寄せてくる。


サービスエースばっかりではない、選手達の
持ち味を活かして、より多くの手で支えようと
する彼のその手が大好きだ。


時折、わぁっと歓声を上げて、治と会話して
いる姿も、乗ってきたその後に侑は捉えた。


自分を見てくれた時のその笑顔が、大好きだ。
見蕩れてくれた時のその視線が、堪らない。
自分の調子を乗せてくれる、その糧に感謝を
しながら、彼も次の攻撃に向ける。


自分の調子の良い波が来たところで、昔から
変わらない、自分が活躍した時に向けてくれた
美琴の悦ぶ顔に侑は目を細めると、更に期待に
応えねばと、もちろん自分もこの時間は集中
していて。


『このご縁に巡り会えた私は、ほんま幸せもん
やなあって思う時あります。』


手が空いた時に、その一つ一つのプレイを目に
しながら、ぽつりとこぼした美琴の言葉に、
治もせやなと彼女の言葉を肯定して、また一つ
点を決めた侑に彼女は声援を送るのだった。


「終わったら、いっぱいハグしたろ。」


視線に入ったその時に、侑は自然と試合後の
予定を口に出していた。
そう。このセットを取ったら、この攻撃を決め
たら、この勝負に勝ち、片割れにも勝ったら。


その前にこの怪物達を操って、ネットの先に
いる怪物達の動きももちろん読んで。


ここで勝利を勝ち取った後は、ずっと会いた
かった 彼女の元へとそのまま駆け寄って行こう。


そしてその後は、チームメイトだけじゃなく、
他の野郎達からも守り抜いて、独り占め予定。
もちろん、この自分の片割れもどうにかせねば。


かつての母校のスローガンに、今の気持ちを
付け足して、彼は全部ここにあると培ったもの
をこの場で発揮して、その感性と共にぞくぞく
っと背中には快感が走っていた。


楽しい予定に胸を膨らませようとしたら、同じ
くコートにいる、佐久早の冷静な観察は無視を
する事にして。


佐久早や日向の指さす方向は無視をして、侑は
集中や!集中!とこれもまた、いつもと同じ
流れ で、侑は必死に叫び出すのだった。


「うわ…美琴もアレやるのかよ。」


「止めて、臣くん。あのビーム向けとんのは
美琴とちゃう。
俺だけを見とるって信じとるからな。」


「木兎ビーム打ってる美琴さん、めっちゃいい
顔してますよね?」


「翔陽君、言うたらあかんて言うたやろ。」


「美琴ちゃん、ノリいいんだよなー!」


「そりゃ、俺の美琴やもん、当たり前や。」


「結局、やってる事を認めるんじゃねーか。」


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