『いつもありがとうございます、おにぎり宮
です。』
美琴が配達に来れば、いつも被っている黒い
キャップとは違う赤いその三角帽子を見て、
そのイベントはそろそろかと、彼女の到着を
待ち侘びていた彼らは季節を実感した。
「く〜〜っ、久しぶりに顔を合わせたと思う
たら、可愛らしい格好しよってからに!」
「美琴ちゃんサンタだ!」
その装いは帽子のみだったが、侑は癒され中
なのか胸を押さえ、木兎も嬉しそうに褒めるの
で、その言葉を擽ったいと美琴は感じながら、
お礼を言った。
『ふふっ、12月はクリスマスにちなんでこの
帽子なんですよ。これ、子供達に好評やから
本番は服装もサンタさんにしようかと。』
「揚尾さん、クリスマスも仕事なの?」
『せやねん。友達は彼氏さんと過ごすらしゅう
て寂しい事に。治さんのお陰でお客さんと
楽しく過ごせそうやわ。』
「なんや、翔陽君。俺の前で美琴を誘うとは、
ええ度胸しとるやないか。」
「いや、そんなつもりはなくて…!」
日向はただ、クリスマスも働く事を驚いていた
のだが、侑に勘違いされしまった彼は侑に肩を
組まれ、侑の言葉を青ざめながら必死に否定を
する。
「まあ、まだタチ悪い奴が身内におるわなあ。」
アイツに先手を打たれた。
美琴をデートに誘おうと思っていた侑は、それを
自分の片割れに邪魔されたのが気に入らない
のか、顔を歪ませる。
そして先日、美琴が赤葦の元へ行った事や、北が
彼女を今話題のイルミネーションが人気の公園
に連れ出した事も小耳に挟んで、自分との時間
がなかなか取れていない事が、今は大事な時期
でもあるので、仕方の無い事だとわかっていて
も、気に入らない。
「美琴、今日は俺の家な。」
『ええっ、侑さんのおうち!?』
「あ?寝言は寝て言えよ。」
もちろん、侑がそれに我慢なんて出来るはずが
なく、背後から美琴を抱き寄せると耳元で囁き
始め、彼女も突然のその音にぞくりと背筋に
熱いものが走る。
明日も講義が待っている美琴の予定もお構い
無しに提案をして、それが想定済みだったのか、
その行動も気に入らなかった佐久早は、ギロリ
と侑を睨んでいた。
「させるわけないじゃん。」
「どいつもこいつも、何やねん!」
そしてその声はもう1つ加勢され、ああせやっ
たと悪態を付く侑の反応とは反対に、扉が開く
のと同時に美琴は彼の姿を目にして、ぱあっと
顔を晴れさせる。
『角名先輩!!!』
「こっちも注文してるんだから、侑は邪魔を
しないでよ。」
「待ちきれんで取りに来とるやん!」
『先輩、会いたかったです!』
本日の試合相手となるその人物は待ち切れずに
現れ、角名の後ろからはひょっこりと古森も顔
を出していて、「あ、噂の美琴ちゃん!」と彼女に
会えたことを嬉しそうに視線を向ければ、美琴
は慌てて古森にも丁寧に頭を下げた。
「美琴が萎縮するだろ。」
「ああ、ごめん。聖臣も相変わらずそう
だね。」
『とんでもないです、先輩がお世話になり
ます。』
「いやいや、こちらこそ。」
本当に可愛らしい子だねーと目尻が下がりそう
になった所で、鋭い視線が古森に集中し、彼は
まずいと危機感を感じたのか、顔を引き攣ら
せた。
そして角名は美琴と会うのが久しぶりだから
なのか、視線を向ける場所に困って、目を
泳がせる。
何故か久しぶりだと目を合わせてくれない
先輩に、美琴も寂しくなったのか、しょんぼり
とし始めた。
「(お前はまた、そうやって…。美琴が落ち
込んでしまうやろ。)」
「(だってよく見たら、サンタ帽とかずるい
じゃん。スマホ、ロッカーに置いてきたよ。
どうしてくれんの。)」
「(んな事知らんわ!)」
こそこそと侑と角名の会話は聞こえるが、内容
がいまいち聞き取れず、不安を更に募らせて
いると、見兼ねた木兎は彼女の両肩をポンと
叩いて、ねえ!と注目させた。
「美琴ちゃんのサンタ帽可愛くない!!?」
今、まさにその会話をしていたんですけどと木兎
にツッコミを入れようとしたが、そんな指摘も
彼の前では意味をなさない。
「…知っとる。」「…知ってる。」
侑と角名の同じ表情の息の揃った返事が面白か
ったのか、真顔の2人を見ると美琴は吹き出し、
侑が男前に失礼やで!と指させば、彼女は
ごめんなさいと謝りながらも、さらに笑い
始めた。
「美琴がいっぱい応援してくれるなら許す!」
『侑さん、ごめんなさい。今日は実は
こっち側なんです。』
この配達で今日のお仕事は終わりだと彼女は
告げて、この後治の屋台も到着予定となって
おり、そこで侑は、彼女がここの配達を許さ
れた意味を納得してしまう。
いつもより大きめのトレーナーを着ている
ことを不思議には思っていた。
それも今ここで、理由は解決する。
彼女がゆっくりトレーナーに手をかけて、木兎
が後ろで「美琴ちゃん、大胆!」と興奮気味に
顔を手で押えながらも、隙間からしっかりと
見ようとしていて、佐久早も動きは止まり、
目は見開いている。
ガバッとトレーナーを脱げば、以前大きめを
買ってしまったと恥じらっていた、角名の
背番号が書かれたそれに、侑は嘘やん…と
嘆きの声を上げていた。
『ブラックジャッカルさんの部屋で、この
格好ってあかんですよね。ごめんなさい、
でもチケットは先輩から頂いてしもうて。』
「大丈夫、そっちのユニフォーム着てる
美琴ちゃんを後悔させればいいだけの
ハナシだし。」
「木兎さん、かっけぇ…!」
木兎と日向や他のメンバーは今日は理由が仕方
ないと言いながらいつもと変わらない様子で、
ショックを受けている侑を心配して、美琴は
近寄った。
『侑さん、次はちゃんと侑さんのユニフォーム
を着ますから。』
「…ぼっくんの言う通り、振り向かせるん
燃えるわ。」
美琴の心配は無用だったのか、顔色を
伺って寄り添えば、侑は彼女をまた自分
の元へ引き寄せて、エネルギーを補うよう
に、彼女の香りをしっかりと吸い込む。
『んんっ、もう侑さん!』
「ほらほら、恥ずかしがらんともっとこっち。」
首筋に侑の髪の毛が当たって、その擽ったさ
から羞恥も混ざって離れようとすれば、侑に
それを見事に拒まれる。
そして、そろそろ角名と佐久早に怒られそうや
なと考える頃には、古森の慌てる声が聞こえ
始めて、不思議に思った侑が顔を上げた。
「ちょっと、角名はちゃんと息してる!?
…っておい、聖臣もかよ!!!」
一方は大胆な行動の先に、自分の物を身に纏う
彼女に動揺してフリーズしたのか、白目を向いて
固まっていて、もう一方は、その行動に心の準備
が追い付いていなかったのか石化中で、古森は
馴染みの人物の慣れない反応に戸惑い、それぞれ
の頬や肩を叩いてみても、無反応。
『2人ともどうしちゃったんですか!?』
美琴は彼らに失礼な行動を取ってしまった
とすっかり勘違いをしていて、泣きそう
になりながら、2人に謝り始め、古森は
「逆にこっちもごめんね。」と角名や佐久早
の代わりに、困った顔で謝る。
「いや、お前ら試合大丈夫なんか?」
侑の心配は、いざコートに立ってしまえば
大丈夫だったりするのだが、今はあまりにも
免疫のない2人の心配を彼も珍しくするの
だった。
「ウチのがお世話になります、おにぎり宮
です。…って何なん、この地獄絵図。」
「サムまで来たら、ややこしゅうなるわ。」