「あかん、上半身見ただけでも既に可愛い。」
「うん、今回は侑に同意。」
「ほんま、美琴は何着てもしっくり来るんやな。」
24日、無理矢理に近いが予定が空いたことに
感謝をしながら暖簾を潜り、ガラリとお馴染み
の扉を開ければ、ひょっこりとサンタ帽を被る
治の横で、同じく帽子と赤と白の衣服を纏った
美琴が嬉しそうに顔を覗かせた。
店に来た侑と角名と銀島の順は、それぞれ彼女
の姿を目の保養だと、彼らは一息吐く。
つい先程まで、おにぎりのオードブルの持ち
帰りが多かったが、今はもうその波が落ち着い
て、今宵はこの店でもクリスマスパーティが
行われる予定となっていた。
『荷物、お預かりします!』
「このまま持って入ってええんなら、冷蔵庫に
入れとくわ。」
銀島の手に持っている袋が見えた美琴は、すぐ
に彼の元へと駆け寄ろうとして、彼女の全身を
拝見したかった侑と角名は、そわそわしながら
彼女に視線を向けていた。
「あー、そっちか。」
「タイツはタイツでありやな。破るん楽しそう
やし。」
一体彼らは、何を期待していたのだろうか。
希望通りの丈だが、膝上のワンピース姿の下は
タイツを着用していて、2人はがっかりするのか
と思えば、反応はその真逆。
角名の何かが刺さったようで、額を押さえて
今回は彼女拝めた幸せを噛み締めて、侑はうん
うんと頷きながら勝手に妄想を始め、その視線
が辛い美琴は、反射的に銀島の後ろに隠れて
いた。
「お前らええ加減にせえ、変な目美琴を見るな。」
「は?お前は今日1日真横で拝んどる癖に。
贅沢過ぎやろ!」
「忙しくて見る余裕ないわ!生殺し状態や!」
『ええっと…。』
「お前ら、程々にしとかんと美琴が困っとる。」
治が2人の自由な行動をもちろん許すはずが
無く、一睨みして本音混ざりにそう吐けば、
侑との言い争いが始まってしまい、困った顔で
見上げている美琴と目が合った銀島が、2人
を止めた。
「「銀、美琴と距離が近うないか?」」
「いや、俺とばっちりやん。」
「鼻の下、伸びとるで?」
「変ないちゃもんつけんな!」
すると、今度は銀島の後ろに美琴が隠れている
のが気に入らないと、矛先は2人揃って銀島に
向かい、助け舟どころか、今度は銀島が美琴に
助けを求める。
『治さん、仕込んだチキンの準備を。』
「せやな、そろそろ揚げようか。」
美琴も慌てていると冷蔵庫が目に入り、意識
をそっちに向けさせようと、彼女にそう呼び
掛けて治の手伝いをしようと、銀島の持つ袋の
ものを手に取り厨房に戻ろうとしていた。
「何や、外まで聞こえて賑やかやったで?」
「ほんま、はしゃいで小学生かいな。」
「美琴の好きなやつ、あったで。」
すると、今度は尾白、赤木、大耳、北がやって
来て、北が美琴へケーキを手渡し、箱の隙間
からは彼女の大好きなブッシュドノエルが。
そこには可愛らしくもサンタが乗っかっていた
りして、彼女は感動の声を上げて北を見ると、 彼は満足そうに目を細めていた。
「よく見たら、治と美琴もサンタさんやん。」
「お客さんに好評で、今日と明日はこれで接客を
しようかと。」
「美琴、スカート短うないか?」
「赤木さん、見るとこヤラシイー。」
「何言うとん、女の子が足冷やしたらアカン
やん。そら、気になるやろ。」
「先輩らはただのオカンやった。」
侑の茶化している言葉に通動じない先輩達の横
で、美琴は楽しそうにくすくすと笑っていて、
アンタの事やで?と尾白は呆れた顔を向けて
いた。
「美琴も相変わらず鈍感やな。」
大耳も変わらない彼女に安心するような、少し
心配になるような。
尾白には、考え出したらキリがないで?と声を
かけられ、大耳もそれもそうやなと楽しそうに 笑っている美琴を見守る。
「美琴、そろそろ出来上がるから皿出して!」
『はーい!銀島さん、グラスお願いしちゃって
も大丈夫ですか?』
「おうよ、任しとき!」
集まれば、高校の頃と変わらないやり取りを
繰り広げているその間に、ちゃっかり揚げ物を
済まして いた治は彼女を呼んで、店には香ばし
い香りが漂っていた。
皿を準備した後に、美琴が作っておいたポテト
サラダの周りにブロッコリーを乗せてリースに
見立てて、あらかじめ用意しておいた飾りも
乗せていく。
「そういうのは、やっぱり美琴のが上手やな。」
『ふふっ、美術は得意でした。』
「食べるん、勿体ないなあ。」
『でも、メインディッシュは治さんには敵わん
から、もっと頑張らんとですね。』
「嬉しいこと、言うてくれる。」
そこからは会話は少なく、美琴と治の2人が
黙々と作業を進めれば、銀島が出来上がった
料理を座敷に置いて、クリスマスディナーは
見事に完成。
「何や、サムは見せつけよってからに。」
言葉を交わさずに、2人が息を合わせて作業を
する姿を見ると、侑はその時だけは自分には
敵わないと思ったりして不貞腐れた顔をするが、
並んでいく料理は美味しそうで、彼のお腹は
バッチリと鳴っていた。
『侑さん。私も頑張って作ったから、いっぱい
食べてくださいね。』
「その後、美琴も食うてええ?」
その音を聞いて、一緒にこの空間を楽しんで
いて欲しい美琴は、侑にも気にかけていて、そう
言って首を傾げると、その仕草に胸がきゅんと 締め付けられた侑は、彼女に釣られて首を傾け れば、その先には北の鋭い視線が刺さった。
「侑、面白い冗談やなぁ。」
「ぐふっ、北さんがおるの忘れとった…。」
「ほんま、お前はアホやな。」
『私よりも料理のが美味しいと思います。』
「いや、美琴も真面目に答えなくて大丈夫
だから。」
角名がさりげなく、美琴を避難させようと背中
を押して、そのタイミングで彼はそっとら彼女
の為に用意していた小さな小箱を渡し、その
行動を治はしっかりと見逃さなかった。
「角名、そのプレゼントはまさか指輪とちゃう
よな?」
「んなわけないじゃん、だとしたらどんだけ
重い男なんだよ。」
「え、お前が言うん?」
「銀も黙って。ただの化粧品だから。」
「ほんまや、美琴の好きなブランドのやつやん。
角名、お前もちゃっかり抜け駆けか!!!」
「ほらー、五月蝿いのが騒ぐじゃん。」
自分の株を上げようとする角名を侑がヘッド
ロックすれば、捕まった彼は面倒臭そうな顔に
変わって、すっかりお礼を言いそびれた美琴は、
乾杯で侑が離れた時に、彼にひっそりと耳打ち
をした。
『今度、ちゃんと角名先輩にお礼しますから。』
言葉が思いもしないものだったからなのか、
角名はその囁かれた声を耳にしたら、へなへな
へなっと力が抜けると机に突っ伏して、反射で
隣にいた銀島は咄嗟にさらに置かれた料理を
避けた。
『角名先輩、大丈夫ですか!?』
「お前、倒れるなら一言言えや!」
「無理でしょ…、不意打ちとかずるいし。」
「もう面倒臭いわ、そこらへんに転がしとけ。」
「美琴、ほっといたらええよ。」
慣れた口調の先輩達はまた始まったと、悶絶
する角名を放っておいて、目の前にある御馳走
とお酒を堪能しながら、なかなか進歩が見れ
ない彼らを尾白だけが哀れんだりもしている。
「なんや?今日信介はいつもやけど、治も
なんか静かやん。」
「そうですか?」
賑やかなパーティはもう暫く続いて、治と北の
2人がこの時だけは妙に静かなのには後から
理由があった。