「北さん、家は俺のが近いから送りますって。」
「いや、俺もいつも通りこの子を送ってあげんと
落ち着かんし。」
侑と角名は忙しい中顔を出した為、名残惜しく
も早めに帰宅し、シャンパンを口にしてふわ
ふわとしている美琴を挟んで、2人はどちらが
彼女を送るのか交渉をしていて、それを見届け
る周りはもう一緒に帰れと呆れた顔で言い除け
ていた。
『今日は私もそこまで酔っ払ってませんから、
大丈夫れすよ。』
「美琴、それは酔っ払ってないやつの行動と
ちゃうやろ?それ、俺のグラスやし。」
「それ口当たり甘いやろうけど、結構度数ある
んとちゃう?美琴大丈夫なんか?」
「あかん、赤木さんと関節キスとか許さんで!」
「治は小学生か!」
『じゃあ、私とします?』
「ほれみい、誰か水や水!!!」
「侑と角名を先に返して良かったわ。」
結局、北も治もどちらも譲らぬまま、2人で
美琴を送り、彼女が賑やかなパーティから帰宅
すると、美琴は身なりはちゃんと整えて、楽し
さの余韻に浸りながら、ぐっすりと深い眠りに
ついた。
治は25日になったその日には、企ていた事が
あったのか、早朝に予定通り目覚めるとむくり
と起き上がり、美琴が気が付かない間にあらか
じめ準備しておいた物を取りに行こうとした。
すると、同じく彼女の向こう側にいた人物も
同じタイミングで体を起こしていて、その行動
が自分と全く同じで、2人は目がバッチリと
合ってしまう。
考えは、きっと全く一緒だ。
美琴が酔っ払って、記憶が曖昧なまま寝落ちを
するのも想定済みで、彼女が目覚めた頃合に
プレゼントを枕元に置いて、彼女の喜ぶその顔
でクリスマスの醍醐味を味わう。
「奇遇やな。」「奇遇ですね。」
今日だけは譲ってなるものかと意思が硬かった
理由がわかり、治も北も気まずそうに苦笑いを
浮かべる。
そんな中、美琴は楽しい夢を見ているのか、心地
良さそうに眠り続けていた。
『え、ほんまにサンタさん!?』
小さな争いも、その驚きと感動の混ざる表情を
目にしたらどうでもよくなったりもして、半分
寝惚けた美琴の一言に、2人は思わず吹き出した。
「良かったなあ、サンタさん来て。」
『北さん?ああっ…せや、私ったら…
すいません!』
「美琴らしいリアクションやな。」
すっかりと深い眠りで彼らの存在が頭から抜け
ていた美琴は、その聞きなれた声に間を置き、
部屋の照明が明るくなるのと同時に状況の整理
が着いたのか、一気に顔を赤く染めた。
子供っぽい発言の恥ずかしさと共に、2人が
自分の為に準備してくれたものだとも気が付き、
2人に申し訳無さそうに自分の頭を抱え、自分
を責めた。
『ほんまにアホや、私は。』
「いや、全然ええよ。寧ろそのままの純粋な 美琴でおってな?」
目を輝かせたその表情が可愛らしく見えていた
のか、2人は全く気にしておらず、北は楽しそう
に笑って、治はそう言って彼女の頭をポンポン
撫で、そうしていると、支度を始めなければ
ならない時間が迫っていた。
『プレゼントは、帰ってからのお楽しみ
ですね!』
「せやな、これからまた今日も頑張らな
あかん。」
「こっちも、今度の餅つき手伝うてくれる
お礼やな。」
『私の方が2人にお礼せなあかんのに…。』
「「じゃあ、お礼はまたデートやな。」」
貰ってばっかりだと美琴しょんぼりと落ち込ん
でいると、再び彼らは声が揃ってしまい、表情
は真顔だが、心中は嫌そうに顔を見合わせる。
『…じゃあ、3人でデートですね。』
しばしの間沈黙が走り、口を開いた美琴の言葉
に治は肩を落とし、北は声を出して笑い出した。
「美琴、それはデートとちゃう。」
「ははっ、このまま一緒に初売りコースやな。」
そこからは、和やかな雰囲気で手早く支度を
済ませて、北も治達もそれぞれ、朝の早い仕事
が待つ彼らは別れ、今日も沢山のオードブルが
待つ治達は張り切って店に向かった。
「美琴、今日も稼ぐで?」
『お役に立てるように、頑張ります!』
今の間の通勤路だけ、美琴を独り占め出来る
時間をしっかりと味わって、そこからは製造
盛り付けのラッシュを終えたら、また賑やかな
来客は次から次へとやって来る。
「ほんとだ、美琴ちゃんサンタめっちゃ可愛い!」
「ぼっくん、お触り禁止やからな?」
「それ、お前が言うんだ。」
「揚尾さん、忙しいのにごめんね!」
『ふふっ、賑やかなクリスマスを過ごせて
満足です。』
そして最後に第2弾といったところか、前回
試合で聞きつけていた、ブラックジャッカルの
メンバーは昼の試合を終えて、会場が近かった
からとその足で店までやって来て、治は「ツム、
来すぎやろ。」と呆れた顔を向けていた。
「お前ばっかり、二日連続で可愛い美琴を
拝めるとかずるいやろ!」
「いや、仕事やし。」
「美琴、宮みたいな変人に絡まれてないか?」
『お客さん、皆さん優しいから平和ですよ。』
「臣くん、どさくさに紛れて失礼やで?!」
「その言い回しやと、どっちか分からんし。」
昨日とはまた違った空気の賑やかさに、美琴は
楽しそうに笑っていて、ガラガラと引き戸が
空くのが見えて、美琴はすぐに扉に向かった。
「こちらに揚尾美琴さん宛にプレゼント
が届いてますけど、いらっしゃいますか?」
『あ、はい。私ですけど…。』
「あ、じゃあここにサインを。」
ボールペンでサインして、爽やかに帰る配達員
を見送ると、突然の出来事に彼女は首を傾げた。
「美琴宛てって、大丈夫なん?」
『はい、大丈夫みたいです。』
侑は突然の彼女への贈り物に心配していたが、
その送り主の名前を目にして柔らかく笑い、
その表情から、治は誰からか分かってしまった
のか、怪訝な顔を見せていた。
「これ、赤葦からじゃん!」
木兎も気になって、美琴の隣にひょっこりと顔
を出し、その差出人の名前を目に口にして、
この場にいないもう1人の邪魔なサンタの登場
に、治は頭を悩ませる。
『可愛い、ブリザードフラワーや。』
「クリスマスに花を贈るとか、アイツやる
じゃん。良かったね、美琴ちゃん!」
「ほんま、油断も隙もない奴やな。」
大胆な後輩の行動に感心する木兎とは違い、
その包みの中身の花言葉を侑は血相を変えて
スマホで調べ始め、佐久早も中身が分かると
凄い形相でそれを見つめ出す。
「こいつらだけでも面倒臭えのに。」
「佐久早さん、顔が怖いですよ。」
日向もこの空気はマズいと感じ、彼らを宥める
と、ほんのり頬を染めてそれを見つめていた
美琴のその表情を侑も治も気に入らないのか、
ひょいっとそれは治に取り上げて、店に飾られ
てしまう。
「ここなら、美琴も店に来るの楽しみになる
よな?」
「おー、サム天才やん!」
美琴の部屋には絶対に飾らせてなるものか。
こういう時の双子の団結力は凄まじく、赤葦が
引き金となって、この日だけはどうしてもと治
は美琴にひっそり耳打ちをした。
「美琴、今夜は付き合うてな?」
今宵は自分との時間を作ろうと治は決意した
のか、誰にも聞こえない声で誘い出した。
『クリスマス、お疲れ様会ですね。』
「まあ、そんなとこやな。」
『私の家で、映画鑑賞会しませんか?』
「美琴のプレゼントの反応見たいし、賛成。」
侑達を見送り、締めまで平穏に作業が終われば、
彼に告白の勇気は無いまま、今宵は美琴と
二人きり。
他の人間に取られてしまう不安は、彼女がただ
隣にいるだけで自然と無くなっていき、治は
自分を単純な人間だと呆れながらも、自分だけ
に向ける笑顔に今は満足していた。
『わー、ルームウェア可愛いです!』
「美琴見とったら、色々飛んだわ。」