君に会いたくて


「…ツム、冷やかしなら帰れや。」


帰省と遅めの昼食ついでに美琴の顔を見ようと
店へと寄れば、彼女の隣にいる自分の片割れは
相も変わらず暖簾を潜った瞬間に、侑に冷たい
視線と冷たい言葉をすぐに送っていた。


「いや、冷やかしとちゃうやろ。
ちゃんとここに食いに来とるやん。」


苛立ちで眉を顰める治を美琴が彼の背中を撫で
ながら宥め、侑は侑でその2人の距離感に少し
嫉妬をしつつ、侑はカウンターに座る。


『侑さん、ご注文は何になさいますか?』


「んー、せやな。美琴のテイクアウト出来るん?」


「帰れ。」


美琴が注文を伺うと侑は頬杖を付いて、彼は
語尾にハートマークが付く話し方をするので、
単発入れずに治がそう言ってさげずむ眼差し
で侑を見る。


美琴はまたそーやってふざけてと大笑いして、
どこが面白いねんと、隣の治はこつんと彼女の
頭を優しく小突くのだった。


「もう、変わらず美琴は笑うてくれるなぁー。」


『侑さん、いっつも面白い事言うんですもん。』


「全然、しょーもないことばっかやろ。」


しぶしぶ治が侑におにぎりを提供すれば、侑が
近況報告を面白可笑しく美琴に伝える。
すると、彼女はクスクスと侑が欲しいところで
笑い出し、侑もそんな彼女を見て満足そうに
笑顔を向けた。


昔から変わらないその反応は、侑にとっては
堪らない瞬間で、彼女に会えば少し辛い事も
忘れられそうだった。

「美琴、今日は何時上がり?」


『今日は4時までいます。』

侑が食べ終えて彼女の上がる時間を確認すれば、
何とあと10分後には帰るという。
治は本日のシフトをミスったと後悔しながら、
素直に答える彼女を見て、頭を抱えた。

「んなら、これから俺と出かけん?予定は
無いんやろ?」

『はい、今日は大丈夫ですよ。あ、でも…。』


今日は本当に何も予定が無かった彼女は、授業
も休みで制服を着たままで出勤し、そのまま
制服で帰る予定だったらしく、自分の帰りの
格好が気になるのか、自分の服と睨めっこを
する。


彼女の仕事終了の時間は、悩んでいる間に過ぎ
ており、侑は大丈夫やと彼女を攫うように店
から出て行き、店を空ける訳には行かない治は
「やられた。」と悔しそうに下唇を噛み締めて、
2人が去るのを見届けるしか無かった。


「うん、よう似合うとるわ。」


試着室で全身着替えさせられた美琴は恥ずかし
そうに鏡で自分の姿を確認する。
侑は自分のお気に召したのか、可愛いをひた
すら連呼して、楽しそうに頷いていた。


そして、侑はこれ全部下さいと店員にタグを
切って貰ったら、さっきまで身に纏っていた店
の制服は、ショップ袋に入れられて、侑好みの
服に身を纏った彼女はあたふたと財布を出して
いた。


『さっ、さすがに払います!』


「俺が勝手に着せたんやからええって。」


財布のしまわせ方はどこか治とそっくりで、
彼女はそれを見て少し可笑しくなりながらも、
侑の優しさにちゃん感謝をして、お礼を言う。


侑がスムーズに支払いを済ませれば「行くで。」
と美琴の手を引き、店から出て行こうとした。


彼らが店を出る前ににもしかしてバレーの…と
店員から声をかけられそうになると、今の時間
はプライベートやからと侑は人差し指を立てて
彼女達に笑って黙らせ、美琴は恋人と勘違い
されたらどうしようと顔を青くしていると、
侑は不服そうに眉間に皺を寄せた。


「何や、嫌なんか?」


『侑さんには、私なんかよりもっともっと素敵
な人がおるやん。』


「おったら、お前に服なんかプレゼントなんか
せんわ。」


服をプレゼントする意味をわかって欲しいのに、
お互い寂しいですねと美琴からは鈍感な言葉が
返ってきて、侑はうっさいわ!と苛立ちを誤魔
化す様に彼女を自分の元へと引き寄せる。


「じゃあ、寂しくないように付き合うてな。」


『もちろんです。』


侑さんの面白い話も沢山聞きたいし、と彼女の
無邪気な笑顔を向けられたら、その笑顔が眩し
すぎて、紳士な自分を演出しようとしてしまう。


「治とも2人で出かけたりするん?」


『そうですねー、味の勉強によく飲み屋さん
とか連れて行ってもらいますよ。』


やはり自分がいない間の治と美琴の様子が、
とても気になるのか、先程の質問を投げかける。


すると、今度、遠征も行く予定です!と彼女の
口から、思わぬお泊まり発言に侑はもちろん
驚いて、聞いとらんけどと顔を歪ませるので、
美琴は不思議そうに首を傾げていた。


侑の頭の中には、言うわけないやんと言い返す
治が浮かんできて、何とも腹立たしい。


「アイツばっか美味しい思いしよってからに。」


『侑さんも今度治さんと美味しいもの食べに
行ったらええやないですか。』


「美琴ー、そういう意味ちゃうねん。」


彼女の反応を見れば、治と美琴が自分と同じく、
先輩と後輩の関係以上の発展が無いことに安心
はするものの、鈍すぎてため息は止まらない。


アホやなーと頭を撫でれば、彼女も顔をムッと
させて睨むので、全然怖くないでとつい彼女を
揶揄って、彼は笑った。


「ちょっといつも行かへんよーなとこ行って
みるか?」


『ぜひぜひ、行ってみたいです!』


それなら彼女にいいところを見せてみようと、
そのまま映画に行ってみたり、お洒落なバーに
連れて行ってみたりとロマンチックな場所に
移動してアプローチを試みるも、侑さんはモテ
ますもんねで彼女にサラッと一蹴りされた。


「ほんま、美琴はお酒弱いなー。
気をつけろや、変なやつに食われるで?」


『大丈夫ですよー。女友達か侑さん達としか
飲みませんし。』


侑さんなら安心やもんと酔ってふわふわした
彼女は無防備に侑に笑顔を見せるので、信用
してくれている彼女に疚しい気持ちを抱いて
いた彼は、良心から胸は痛くなる。


とりあえずタクシーで家まで送れば、彼女が
心配なのでちゃんと部屋まで一緒に行き、
部屋からは試しにお姫様抱っこをしてみたら、
普段なら恥ずかしがって拒むのに、今はきゃー
と嬉しそうに彼にしがみついた。


「お前はほんま、襲うで?」


『やーん、侑さんそんなことせんもん!』


酔った時は甘え癖が強いのかと、美琴の新たな
一面を発見しながら、ベッドに彼女を座らせ
て、化粧は近くにあったメイク落としで落とし
てあげながら会話をする。


ある程度片付いたところで、「またな」と侑が
美琴の頭を撫でて、その場を立ち去ろうとした
時、美琴は1人が寂しくなったのか、帰らない
でと目を潤ませて彼の服を掴み始めるので、
侑は彼女のその言葉をもちろん拒否するわけが
無く、彼女をゆっくりと組み敷いて、さすがの
彼もその言葉にスイッチが入ってしまった。


『一緒にいてください。』


ほら、またそうやって煽る。


我慢の限界が来そうな侑は心の中でため息を
吐いた。
でもここは我慢をせねば、このまま彼女を壊し
てしまいそうな勢いだ。


「美琴、 その言葉、後悔すなや…?」


そう言って美琴の顎に指を添えて、そのまま唇
に口付けを落とそうとしたら、気持ちよさそう な寝息が聞こえて来て、あまりの早さに侑は
思わず「は?」と低い声が漏れる。


「って寝とんかいっ!しかも爆睡やん!」


そばにいると聞いただけで安心しきったのか、
緩みきった顔で寝息を立てている彼女を見たら、
何とも力が抜けてしまう。


それに、寝ている彼女を宜しく頂くのはさすが
に自分のポリシーに反するので、侑も諦めて
そのまま彼女の横で眠ろうとした。


「暑くて寝れるか。」


お酒も入っているからか、それとも愛しいあの
子の隣にいるからなのか、汗ばんで今はどうも
眠れそうにない。


彼はごめんなと一応一言詫びながら、彼女の家
のシャワーを借りて、1度着た汗臭いそれは着る
のに勇気がいるので、彼は結局パンツ1枚で彼女
の横に添い寝する。


これぐらい許せと美琴の額にキスをして、侑は
思い切り美琴を抱きしめて、その心地良さに
彼も自然と眠りにつくのだった。



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