実家にいると、自分でやらなければならない
ことは甘えてしまい、今年も家族からも好評
だった北家で作ったお餅を美味しくコタツの中
で口にしながら、美琴はぼんやりとテレビを
眺める。
するとスマホから着信があって、美琴は誰から
のものか確認せず、つい間の抜けた声でその
電話を取れば、電話越しからはくすりと笑い声
が聞こえてきた。
「ふふっ、小狐さんは冬眠中でしたか?」
『ん?…あっ、いや!ちょっと待ってくだ
さい!』
母校の先輩でも無く友人達でも無い、柔らかい
口調で話すその人物の声に驚いて、スマホ画面
を美琴が見直すと、そこには赤葦京治と書かれ
てあり、美琴は家族の目も気にして、どたどた
と慌ただしく自室に戻った。
その声で額の熱が戻るのは一瞬だけで、今は
電話越しでくすくすと面白がっている赤葦の
反応の方が恥ずかしく、顔は熱い。
「美琴ちゃん、いきなりごめんね。電話しちゃ
って大丈夫だったのかな?」
『全然大丈夫です!今実家だったので、つい
気が緩んでしもうて。』
「うん、慌てた美琴ちゃんは可愛かった。
もっと肩の力を抜いてくれたらいいんだよ?」
『赤葦さんにまで甘やかされたら、もう
ダメダメ人間になってしまいます。』
「ダメダメ人間の美琴ちゃんも見てみたいなあ。」
『またそんな事いうて…ってせや、赤葦さん
あけましておめでとうございます。』
大事な挨拶もせずに、ほんまにダメダメになる
とこやった!と本来は一番に向けるべき挨拶を
忘れていた美琴は急いで赤葦にそう言って、
彼も美琴と交わしたかったその挨拶を耳にして、
心を温めながら、彼女に挨拶を返す。
「うん、あけましておめでとう美琴ちゃん。」
赤葦の正月休みは、仕事の忙しさもあって本日
だけ。
その為家で過ごす予定となってしまった彼は、
ついその声を聞きたくなって、電話を掛けて
しまった。
電話越しでも伝わる、美琴の可愛らしい雰囲気
に癒されながら、彼女のその言葉を聞いて、
自分の方が先にその挨拶をしなければならない
のにと、彼女の前だとダメダメ人間は俺の方だ
と考える赤葦には耳が痛い。
「美琴ちゃん、また会いに行くから。」
その返事をする美琴の表情を生で見たかったな
と思いながら、自分に笑いかける美琴を目に
浮かべ、赤葦は口元を緩ませた。
他愛も無い話をしながら、その休みを充実した
ものになった幸せを感じていると、こんな時で
も仕事の電話でキャッチが入ってしまって、
楽しい時間は終わりを告げる。
『赤葦さんも、力を抜いてくださいね?』
優しい言葉に、思う存分気は抜けているんだけ
どな。
と赤葦はまたクスリと笑って「ありがとう」と
お礼を言って電話の相手を切り替えた。
「あかん、美琴に会いたい。」
「おい、なかなか会えん俺の前でそれ言う
んか?」
一方、その頃。同じく実家で思い出したかの様
に懐かしのゲーム機を取り出して、2人並んで
テレビ画面を見つめ、真剣にコントローラーを
動かし、美琴に会わずに3日も経っていない
のに、治はそう言い出して、侑は贅沢な悩みを
吐く片割れを睨んだ。
「あっ、サムのせいで間違えたわ!」
「は?人のせいにすな。」
「お前が腹立つ事言い出すからや!」
何年経っても変わらない喧嘩に、2人の母親
からはうるさいと怒った声が聞こえてきて、
八つ当たりで侑はコントローラーを投げる。
しかし治はご機嫌ななめな侑に構う事は無く、
マイペースに嫌な予感がすると顔を顰めていた。
「なんか、今美琴に会わんと嫌な予感するわ。
…こう、何かを邪魔せないけん気がする。」
「…サムはほんま唐突に変な事言い出すよな?
嫌な予感するんやったら、電話して会いに行け ばええやん。お前のそういうのよく当たっとる
し、俺も美琴に会いたいし。」
「いや、せっかくの家族水入らずの時間を邪魔
したらアカンやろ?あと、ツムは要らんし。」
「お前、ほんま面倒臭いヤツやな。 」
「今やと、大事な娘さんいただきますとか余計
な事言いそうやし。」
「おう。今のお前美琴の家族目の前にすると
突拍子も無い事を言い出しそうで、俺より
怖いわ。」
双子が話題に出すのは、思いを馳せる彼女の事
だが、2人は願望を口にするだけで今現在美琴
がいる場に足を運ぶのは何となく緊張するから
か、腰は上げようとはしない。
「どうせ、明日一緒に初売り行くしなあ。」
「おい、今日大阪に帰るん知っとってわざとか。」
結局会うやん!と怒声を上げる侑を無視して、
今頃ぼんやりと炬燵でのんびりしているであろ
う美琴を治は頭に浮かべて、ぽやぽやしとる
美琴も可愛いやろうなと目尻を下げながら、
テーブルにあったポテチを開け始める。
「太って美琴に嫌われろ。その間に侑さんの
華麗な姿で魅了させたるから。」
「華麗?カレーの間違いやろ。黄色っぽいし。
…いや、カレーにも失礼やわ。」
「サム、お前ほんまに後悔すんなや。」
美琴は俺が貰うからと今年の抱負をさりげなく
吐き合う彼らはゲームの二戦目へと突入する。
それ以上は互いに何も言わずに、互いに再び
ゲーム画面を黙々と見つめていた。
「…最っ低。」
元チームメイト達とは違う県で、ベッドの上で
バッチリ朝寝坊を決めながら、スマホ画面に
映る愛しい後輩をじっと見つめ、角名はそう
言葉を零した。
いや、本心は言葉とは反対で悪くなかった。
枕に項垂れながら、新年早々疚しい気持ち剥き
出しの自分に、彼は呻き声を上げる。
彼は、つい先程までとんでもない初夢を目に
していたのだ。
何故か、夢の中では静岡のアパートに自分は
いて、何故か晴れ着姿でインターホンを押した
美琴が玄関の前には立っている。
実際だと、その姿を目にしただけで眩しくて
卒倒ものなのに、夢の中の自分は軽々と腕が
上がって美琴の手を引いてそのまま彼女を招き
入れる。
身体は勝手に美琴の唇に引き寄せられていた。
『んんっ、先輩、やあっ…!』
「美琴、姫始めって知ってる?」
白い肌にその赤い振袖はとても似合っていて、
邪魔するものがいない空間で、角名の手は器用 に帯を解くと襟元を広げて白い肌に赤い華を
付け足してゆく。
潤ませたその瞳を見るといよいよスイッチは
入って、甘い吐息を沢山聞きたくなったところ
でそこからはもちろん自主規制。
「何だよ、姫始めって…!」
ベタ中のベタな台詞に彼はダサすぎだろ!と
自分で自分を突っ込みながら顔を上げ、片手で
頭を掻き乱す。
すると、ピコンと先程夢の中で乱してしまった
後輩から、可愛いらしい年賀メールが届き、美琴
に対する申し訳無い感情がみるみる湧いて
しまった。
「ああ、よりにもよって…。」
夢の中に近い、赤い晴れ着姿を目にして再び枕
に突っ伏して、可憐なその姿に悶絶をする。
正夢にならなかった事にホッとするような、
寂しいような。
「やっぱり、本物が可愛い。」
今年もよろしくねと一言だけ、美琴には返信を
して、写真を眺めながら夢の彼女と見比べて、
角名は本音をぽつりと吐いて、癒されるその姿
に一息漏れる。
そして、別の人間から続けて送られてきたその
写真に、言葉を失うのは角名だけでは無く、
同じく別の場で送られてきた双子もショックで
叫び声をあげていた。
「今俺は、この子めちゃくちゃに乱したい。」
「ツムは言葉を慎めや。…またなんか来た
けど。」
「何で美琴は北さんと初詣デートしとるん!?」
「しかも、晴れ着姿とかずるいやん!」
「あ、また写メ来たで?」
「アラン君と大耳さんと赤木さんって…ああ、
何や。甘やかし隊も一緒なら、デートとは
ちゃうな。」
「いや、にしても声掛けろや!!!」
「クソ。明日の帰りに美琴と行く予定やったの
に先越された。」
ほっと一息、早速尾白に甘やかされて甘酒を
与えられた美琴は一息吐く。
美琴が彼らに声を掛けられたのは出発の2時間
前。
せっかく実家にいるならと、彼女の母親譲りの
振袖を身に纏い、温まるそれに顔を緩ませる
美琴を目にして、満足そうに「平和やな」「せやな」
と赤木と大耳も眺めていた。
「美琴が転んだらあかんから。」
夏のあの日と同様に、そう言った北は慣れない
草履を心配して、歩き出す美琴を嬉しそうに
支えていると、残りの3人は2人の姿を今年も
温かく見守る。
「アイツらが見たら発狂もんやな。」と赤木は
一つ下の後輩の反応を想像して、置いてきて
よかったと平穏を楽しみたい大耳も頷く。
『今年も皆さんにお世話になりっぱなし
ですね。』
そう言う美琴はふんわりとした笑顔を北に向け
て、年始からいいものが見れたと目を細める。
翌日には、悔しさでいっぱいの治から熱い抱擁
が待っているのだが、その出来事をまだ知ら
ない彼女は、呑気に双子や角名は今何をして
いるのか考えていた。