再び巡る


ずっと、待ち続けていたその日。
いつか、また、絶対にと何度も電話で交わした
約束の日がやっと訪れ、待ち合わせていた駅で
美琴の姿を見つけた赤葦の口元は、嬉しさから
緩みそうになった。


「美琴ちゃん、お待たせ。ずっと、待たせて
ごめん。」


『そんなそんな、全然待ってません。赤葦さん
こそ、移動大変でしたよね?お疲れでした。』


「こっちこそ、全然苦じゃなかったよ。しかも、
いつも美琴ちゃんの方が来てくれているのに。
この前は、ありがとう。」


彼女の反応に抱擁を交わたい欲動を堪え、赤葦
が美琴にお礼を言えば、彼女は自分のお節介は
少しやり過ぎだったと恥ずかしそうに笑い、
彼は謙遜する彼女に目を細める。


「そんな事ない、あの時は本当に助かったん
だから。美琴ちゃんの顔を見ると、やっぱり
元気が出るよ。」


『そう言って貰えると救われます。それに
赤葦さんのその言葉は凄く嬉しい。お客さんに
も一番言われて嬉しくなる言葉なんです。』


赤葦の言葉を素直に喜んで受け止めた美琴は自信
がついたと歩き出し、美琴のそんな様子を赤葦
は相変わらず面白いと思いながら、彼女の隣に
並んで歩いた。


『じゃあ、今日は赤葦さんの元気が出るコース
をしっかりエスコートしますね!』


「ふふっ、お願いします。」


張り切る美琴を赤葦は微笑ましく見守って、彼女
に行きたい場所を聞かれたが、赤葦は今回は
彼女にお任せをする。


美琴の行くお気に入りの店や場所もまた、彼好み
の店が多く、時折こちらも小説で登場した事の
ある場も混ぜていたりもして、赤葦は興奮気味
に景色を写真に収めていた。


「いざ、目にするとやっぱり感動するね。」


『喜んでもらえて何よりです。赤葦さんが
以前、連れてってくれた時の私もそんな気分
やったんですよ?』


「じゃあ、今の俺は美琴ちゃんと同じ気持ち
だね。」


『そうですね、そんな所ですね。』


目を輝かせている赤葦を見れば、美琴も満足
そうに微笑み、その時のお返しがやっと出来た
事を彼女は嬉しそうにする。


今度は、どんな顔を見せてくれるのだろうか。
この子と色々知っていきたい、傍にいたい。
美琴と過ごせば過ごす程、赤葦の中ではその
気持ちは膨らんでいき、その次に思うのは、
自分も彼女をもっと知りたいと思うのだった。


「美琴ちゃん、一つだけリクエストを聞いてくれ
ないかな?」


赤葦の願いに美琴も頷いて、彼らが次に足を
運んだのは、美琴が何度も通った母校の道。


「そっか、宮兄弟とは一緒に下校はして
なかったんだね。」


『ですね、帰り道は昔は逆方向やったんで。』


美琴がよく立ち寄っていた店や大好きだった
その時のお菓子や小説、思い出話を懐かしく
しながら、赤葦は夕日に照らされるその影を
見つめて、当時の彼女を想像する。


そこではやっぱりバレー部の話も沢山出てきて、
彼女と過ごした彼らを赤葦は羨み、自分がもし
も彼女と同じ学校だったら…と考えているとこ
ろで、不思議そうにする美琴が赤葦に声をかけ
ていた。


『赤葦さん、気になるものでもありましたか?』


「ううん、美琴ちゃんの事を俺も知れて良かった
なって。」


『じゃあ、またあの時の私と同じ気持ちや。』


柔らかく笑う美琴は赤葦の言葉に嬉しそうに
答え、私はここが大好きですと空を見上げる。


まだ少し冷たい空気も彼女は心地よさそうに
歩き、赤葦もそれに心穏やかな気持ちになった。


「久しぶりにこうして、ぼんやりと歩いたな。」


『赤葦さん、お仕事お忙しそうですもんね。』


「そうだね、ここ最近はバタついてしまったな。
美琴ちゃんのお陰で、どうやら力は抜けた様だ。」


ぐっと赤葦が腕を伸ばしたら、どうやら本当に
芯から力が抜けていたらしく、次に彼から聞こ えたのはお腹の虫の音。


「俺としたことがこんな失態を見せるなんて。」


『ふふっ、リラックスしてくれとるみたいで
安心しました。』


それを隣で聞いた美琴は、照れ臭そうに目を
伏せる赤葦にくすくすと笑い、彼に食べたい
ものがあるのか、彼女は尋ねる。


赤葦は2人だけのこの時間を邪魔される事を避け
て、明日の楽しみにしたいからとらしい理由を
付けて、別の気になる店に行こうと赤葦から
提案をした。


『学校の近くにこんなお店あるんですね。ここ
は知らんかった…というわけで冒険ですね!』


「うん、そんな所かな。」


全く疑う気持ちを抱かない美琴に、赤葦の方が
罪悪感を抱いてしまいそうになりながら、彼女
も過去の自分が足を運ばなかった店へと向かう。


『ローストビーフ、最高でしたね。』


「本当に最高だったね。久しぶりに当たりの
店に入った気がするよ。」


その店で新たな発見をした彼らは互いに顔を
見合せ、今回もいい店に巡り会えた喜びを共有
出来た事が嬉しいのか、店を出てからも食べた 物の感想を述べ、微笑みあっていた。


駅までのんびりと会話をして歩き、彼らが別れ
る時間もあと少し。
すっかり暗くなった空に、時間の早さを実感し て、彼は次に会える時の事を考えた。


『赤葦さん、しっかり楽しんでいただけ
ましたか?』


「すっごく楽しかったよ。素敵な案内を本当
にありがとね。」


『ふふっ、お返しができて何よりです。』


「また、今度は…」


何処で会おうか。その言葉を発する前に、赤葦
はふと言葉を詰まらせる。


果たして、自分に次はあるのだろうか。
美琴の周りにいる人物や自分の環境から、会える
時間が限られている現実に赤葦はこのまま彼女
を離したくないという気持ちにさせられるのか、
彼はぐっと唇を噛み締め、駅に到着すると立ち
止まる。


『赤葦さん、どうしました?』


「また次に…ってなると、決心が着かなくなり
そうだから。ちゃんと聞いて欲しいんだ。」


このまま後悔なんて、したくない。
柔らかく笑う赤葦に頷いて、彼の心配をする
彼女はじっと赤葦を見つめていた。


「あなたの事がずっと好きです。よろしければ、
俺と付き合ってください。」


向かい合った先の真っ直ぐ貫くその瞳に美琴は
目が離せずにいて、ゆっくりと呼吸を整える。
息を整えて、ちゃんと彼に返事を返したいのに、
はっきりと告げられた言葉に戸惑いが隠せずに
いて、上手く言葉が見つからず、彼女の口元は
震えていた。


仲良くなってから、余計に感じてしまうくらい
に自分には勿体ないくらいの魅力的な人で、
憧れる部分も備わった誠実なその人。


『赤葦さん…、私…。』


彼の気持ちを考えれば考える程に、美琴は言葉
にならないまま動けずにいて、目頭がとても
熱くなる。


じんわりと落ちていく水分をゆっくりと拭われ、
自分には熱すぎる熱が、彼女に重なろうとした。
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