縁を結ぶ


『北さん…?』


気がつけば、もう一度美琴を抱きしめていた。
自分の中では割り切ったつもりなのに、本能が
そうはさせないのか、北の頭に浮かぶ言葉とは
裏腹に、身体は勝手に美琴を引き寄せていた。


「すまん、美琴。分かっとっても、どうも身体が
言うことを聞いてくれん。」


ずっと想いを寄せていた彼女を易々と手放す余裕
などあるはずが無く、彼は想いを伝えるように
彼女を抱きしめ、その次に彼が告げたものは、
美琴に向けた自分の気持ち。


「ずっと、ずっとお前を想っとった。一人の
女性として、大切にしたいって考えとった。」


それを叶わぬものだと思っているからなのか、
力を緩めた北の目はどこか遠く、悲しさも秘め
ている。


「せやから、この気持ちだけは美琴に伝えさせ
て欲しかった。」


彼のこの告白は、決別の目だ。
これで終わりにしようという意志は、北から
美琴にも伝わり、ゆっくりと彼が離れていくの
と共に、彼女の胸が締め付けられる。


これは終わりなんかじゃない、何度あなたに
救われた事か。


美琴は今までの想いが過ぎり、それが尚更気が
つかされた自分の想いを強くさせ、彼の頬を両手で包む。


重なる唇に北は目を丸くさせ、彼女はゆっくり
と彼から離れると、北の決意は否定された。


『これでお終いやなんて、言わんでください。
私も、北さんの事が…。』


ポロポロと涙を落としながら言葉を詰まらせ、
彼女もまた彼の手に腕を回して、自分の想いを
伝えるように彼を抱き締めた。


『大好きです。』


「美琴…。」


恥ずかしがり屋だった小さな後輩は、はっきり
と自分に気持ちを伝え、自分の事を大切だとも
言ってくれている。


『ずっと、北さんが頭に浮かんでました。』


そんな彼女の大胆な行動にも北は驚いて、震え
る声で続けた彼女からの思わぬ発言に、彼も
堪らず彼女の涙を指で拭い、目を細めた。


「ありがとう。」


柔らかく笑う美琴に愛しさが溢れる彼は、今度
は彼の方から口付けを落とすと、彼女もそれに
身を委ね、北は長年の想いが通じた幸せを噛み
締める。


隣にいる恋人の手を握れば意識しているのか、
先程まで大胆な行動を取った恋人は、ぼふんと
茹だってしまう程に動揺をするので、彼は思わ
ず吹き出しそうになった。


「ほんま、美琴のリアクションは想像付かんわ。」


『なっ、笑わんといてください!!』


あたふたとする彼女を見ると、やっぱり意地悪
を言いたくなって、口を尖らせる彼女に彼は
「可愛いから、ええよ。」と微笑む。


『また北さんは、意地悪言うんやから。』


そのやり取りは変わらないやり取りだが、二人
の絆はそれ以上。
決してこの手を離さないと北は心に近い、彼女
が遠くに行かないように身を寄せた。


「「「「いや、絶対に適わんヤツやん。」」」」


美琴が先輩4人に緊張しながら伝えたのは、その
数日経ってのおにぎり宮での事。


彼女の卒業を祝って皆が集まった際に、彼女の袴姿に見とれる時間も無く、嬉しそうに報告を
する美琴の後ろから、絶対に手を出すなという
圧を感じ、よかったなと目尻を下げている銀島
以外の治、侑、角名は文句を言う隙すら与えて
貰えなかった。


「あの人には、やっぱり負けたか。」


そして誰よりもその相手に納得をした男、宮治
は悔しそうに笑い、しかしそれは納得した様に
も見えた。


「あの子の赤い糸の先は、そんな気がしたわ。」


「せやな、サムでは無い思うたわ。」


「うっさいわ、お前にだけは言われたくない!」


落ち込む暇もなく、小さな口論からお馴染みの
の喧嘩が始まりそうな2人の間には、変わらず
彼らの後輩が入り彼らを止める。


『何で、そうなるんですか!』


大好きだった後輩を目の前にすると、どうしても思いつくのは最後の悪あがき。
発想は同じなのか、目が合う双子が互いに頷く
と、美琴の頬にキスを落とそうとする。


「度胸だけは、認めたるわ。」


しかし、その次には間髪入れずに北が入り、
2人がしでかそうとしたことに勘づいたのか、
その眼光は鋭かった。


「侑、治。」


「いや、その…魔が差したといいますか。」


「欲に負けたといいますか…。」



「本当に、馬鹿じゃないの?」



こってりと2人が北に絞られている間に、角名
は呆れた様子で彼女を避難させ、綺麗な身なり
の彼女に、哀愁が漂うため息が漏れてしまう。


『…先輩?』


「美琴、綺麗だよ。北さんのお陰かな?」



それは、彼の中の精一杯の強がり。
角名の言葉に、ぽわんと頬を赤く染める彼女を
見て、胸の奥がチクリと傷んだ。


「あー、青春やな。」


「ほんまやな、青春や。」


「先輩達、その目はやめてください。」


じっとりと角名が睨む視線の先には、赤木と
尾白がそれを見届けながら一杯口にしていて、
彼を茶化すその空気に角名は正直、救われる。



「小狐ちゃん、卒業おめでとう!
そして、どうやら春も訪れたようで。」


そして、失恋モードをかき消す事態はまだまだ
続く模様で、突然にガラガラと扉が開き、予想
もしなかった人物の登場に美琴は目を見開き、
ニヤリと笑うその男は大きな花束を持っていた。


「お兄ちゃんからのいつぞやのお返し。」


『黒尾さん!!!』


嬉しそうに受け取る彼女を見て、黒尾の発言に
も否定しなかったのが気になり、周りも目が点
になる。


「お兄ちゃん…?」


「どうも、そちらが彼氏さんですよね?美琴の
兄です。」


「嘘つけぇ!この子は関西生まれ、関西育ちや
ぞ!?そのポジション譲るわけないやろ!!?」


「じゃあ、関東の兄って事で。」


「そんな胡散臭いアニキ、認める訳ないやろ!」


がっしりと勝手に北と握手を交わす黒尾を見て
双子が怒り混ざりの野次を飛ばし、それにも
動じない黒尾は飄々とした態度で彼らに返す。


コントみたいな彼らの空間に美琴も思わず
笑って、楽しそうな彼女の横にさりげなく並ぶ
黒尾は、ひっそりと耳打ちをした。


「赤葦は、元気そうだから安心しな。」


黒尾の一言に驚く彼女にニヤリと笑い、「ヤケ酒
に付き合ったからね」と彼は彼女に構わず親指を
立てる。


「ケジメもついたって。」


美琴が赤葦に自分の本心を告げたのは、北と
帰った日の翌日。


赤葦は彼女の前では平然を装って、彼が感情を
表には出さないタイプだと分かっていた美琴、
自分が心配する立場では無いのは分かっていた
が、どうしても彼が気になっていた。


「アッチも美琴ちゃんが心配してるだろうから
伝えといてくれって。」


優しく微笑む赤葦の笑顔が目に浮かび、黒尾
からの伝言にほっとする気持ちと申し訳ないと
思う気持ち。


その感情は彼女の表情に出ていたらしく、黒尾
には辛気臭い顔は禁止と指で弾かれてしまった。


「あーー!!!ネコの主将が嫁入り前の娘に
手を出しよった!!!」


「あ?兄がんな事するわけねーだろ!」


「この人、一番付き合い短いはずなのに以外と
図々しいな。」


彼女に触れただけで、すぐさま指摘する侑は目
を光らせ、負けずに言い返している黒尾に角名
が冷たい視線を送る。


『ご縁に感謝ですね。』


彼らを見ていると楽しかった日々を振り返り、
ぽつりと言った一言に、北は困った顔で笑い
かける。


「せやな。」


おにぎり宮の盛り上がりは、まだまだ続き、
彼女も治を手伝おうと笑顔を向ける。


「これからも、よろしゅうな。」


しっかりと頷いて返す彼女の立ち振る舞いは、
頼もしい社員だった。


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