「美琴が辛い時はいつでも連絡してね。
俺は美琴から沢山元気を貰ったから。」
北と向かい合った時、思い出されるのは大好きな
その人の柔らかく笑う姿だった。
遠い地にいるその人を想うと胸の奥は熱くなり、
同時に会えない切なさも込み上がる。
「それだけ美琴に想うて貰っとるなんて、その人
は幸せ者やな。」
自分の気持ちを伝えようとすれば、言葉を詰ま
らせる美琴に北はそう呟き、現実を受け止める
彼は彼女の背を押して歩いた。
「きっと、それは相手も一緒やと思うで。」
そう言って自宅まで彼女を送り届け、それが誰
なのかを分かってしまった彼は、その人物なら
美琴を任せられると優しく微笑む。
『北さん、ありがとうございました。』
「ええ報告、聞かせてな。」
彼女が幸せならと何度も言い聞かせていた彼は
別れたその道の空を見上げ、自分の今までの
想いは閉じ込める。
「後は頼むで、角名。」
それは、頼もしく思う後輩に投げかけた言葉。
やっぱり少し悔しいなと悲しく笑う北は、再び
彼女の幸せを願っていた。
北と別れ、ベッドへ座り込む美琴はスマホを
見つめると、最後に角名と会った時の会話を
振り返った。
「遠慮なんかしないで甘えたらいいんだよ?」
心も温まったその日の言葉を素直に捉え、今は
優しさに甘える自分を許して欲しいと思う彼女
は、その声が聞きたくなって、角名に電話を
掛ける。
「美琴、どうしたの?」
すると彼は直ぐにその電話に出て、こんな時間に
彼女からの連絡が来るとは思わなかったのか、
その声は驚いていた。
『すみません、倫太郎さんの声が聞きたく
なっちゃいました。』
しばらく黙り込む角名に、やはり彼を困らせて
しまったと再度謝ろうとしたら、彼からは考えて
いた逆の言葉が返ってきて、美琴の緊張は緩む。
「嬉しい、美琴にそう言って貰える日が来る
なんて。こっちは全然大丈夫だから。」
寧ろ大歓迎だよと暖かい言葉まで貰い、溢れる
感情を彼に伝えたいと思う美琴は、震える声で
彼の名前を呼んだ。
寂しさを堪えたあの秋の夕日、寒空の中並んで
歩いた夜の街。
距離を感じていてもいつも自分を見守っていて
くれて、時には励ましてくれて、勇気もくれて。
離れていて彼との胸が擽られる思い出は沢山
あり、自分にとってかけがえのない人。
『私…やっぱり倫太郎さんの事が。』
「美琴、ごめん。ちょっと待って。」
募ってきた想いを角名に伝えようとしたら彼女
の言葉は制止され、この恋は報われない覚悟をしていると、彼は「えっと…そうじゃないな。」
と再び静かになり、電話越しから彼の深呼吸の
音が聞こえてきた。
「言葉を遮って申し訳ない。…だけど、その言葉
は俺から言わせて欲しいし、何より会ってから直接伝えさせて欲しい。」
『えっ…?』
「俺も今、美琴にすごく会いたいと思ってる。
だからあと3日待って。絶対にそっちに行く。」
美琴の笑顔を見たい。
電話を切ってすぐ、頬に嬉し涙伝った3日後、
インターホンが鳴り、玄関の扉を開けると彼女
はずっと会いたかったその人物に思い切り抱き
締められた。
「ずっと美琴が好きでした。」
『私も…大好きです。』
自然と二人の唇は重なって、嬉し涙を流す美琴
の頬を彼は優しく指で撫でる。
彼もまた、自分を見たら安心して笑うその笑顔
が好きだった。
夕陽に映る弱音を吐かないその横顔も、特別な
日に必死に駆け付けてくれる一生懸命さも。
「今日は美琴の事、ちゃんと見れる。」
『ふふっ、目が合って嬉しいです。』
気持ちが通じ合った2人は微笑み合って、やっと
叶ったと幸せを噛み締める角名は、このまま彼女
を絶対に離さないと心に誓い、もう一度そっと包み込んだ。
「お前、免疫付いたんとちゃうんか!?」
侑の声が室内に響くのは、それから数日後。
赤葦にもしっかりと自分の気持ちを伝えた美琴
は晴れて角名と恋人になれ、仕事場からその
勇姿をこの度も見守っていた。
試合を終え、自分のユニフォームを身に纏って
店に出る恋人の姿を確認した角名が、前と全く
変わらずの反応を見せるので、見兼ねた侑は
すぐにそれを指摘する。
「だって、俺の彼女が可愛過ぎでしょ。」
「あ〜、どさくさに紛れて惚気とるんもクッソ
腹立つし。…確かに可愛ええけども!!!」
「侑、あんまり美琴を見ないでよ。手を振るのも
禁止だから。」
「何なん、独占欲強ない!?」
自分のツボに入る際に角名の動作が止まるのは
やはり治らずで、しかし他の輩が彼女を見る時
は以前よりも氷の如く鋭い。
ただでさえ可愛がっていた後輩を取られて面白く
ない侑は、厳しい口調の角名に口を尖らせて
「美琴は絶対に騙されとる。」と小さい声で呟いた。
『あれ、こっちに気づいてくれた気がするん
やけどな。』
「さっき、一瞬だけ目が合った気がするな。
ホンマに瞬速だったけど。」
治も侑と角名のやり取りを察したのか、呆れた
顔を彼らに向け、なかなか成長しない友人に
疲労の一息を治は吐く。
「成長はせんけど…誰よりも美琴を想っとるん
は、アイツやしな。」
認めた無いけど流石にお前の愛には適わんしなと2人の交際を本人達から耳にした時、治は
正直な感想を角名に伝えた。
「美琴、角名の愛は重いでー?」
『ふふっ、頑張って受け止めなきゃですね。』
治に冗談を言える余裕があるのは、相手が信頼
していた仲間だったからか。
くすくすと2人で笑いながら、侑と角名とまた
目が合う美琴は恋人に手を振って、また後でと
口パクでメッセージを送る。
「また…?え、ちょっと。」
「は!?アカン、タンマ!美琴、それはアウト
やて!」
この後を想像する角名は、既にキャパオーバーな
模様でドサッと侑の方へと倒れ込みそうになり、
「野郎を支える為の筋肉やない!」と侑は嘆く。
『あれ!?倫太郎さん、今日調子悪いんです
かね!?さっきはあんなに決めとったのに。』
「ちゃう、その逆で絶好調やろ。…まあ先が
思いやられるけど。」
『後でいっぱい褒めてモチベーション上げな
あかんですね。今日はいっぱい甘やかします。』
「美琴はほんまに優しいな。」
治は瀕死状態の角名を思い浮かべていたが、意外
と2人きりになれば平気で、至って普通の恋人の
様に過ごせていたりもする。
「美琴、愛してる。」
『えっ…、はい…、ちょっと!!!』
積極的に変わる恋人に、逆に真っ赤に茹だるのは
美琴だったりで、自分に重なるその熱に彼女は
蕩けていった。