リベンジ


コツンと頭の上に感じる、小さな重みと幸せ。
何度危ないと注意してもそれを止めない彼は、
お腹に手を回して、恋人が作るものを覗き込む。


『あっ、つまみ食いは反則です!』


「ああ、我慢出来んかった。」


そして器用に彼女の焼いていたウインナーを一口
摘んで、注意をする彼女に悪びれもせずに彼も
また腕の中にいる彼女のぬくもりに小さな幸せ
を感じるのが2人の恒例の朝だった。


「美琴、確か今度連休貰っとったよな?」


『はい、有難いことに頂きました。』


「ほな、その日空けとってな?ここに行こうと
思うとるから。」


『ここってもしや…!?』


洗い物中も嬉しく美琴の後ろに引っ付いていた
侑のお願いに彼女が頷くと、サプライズよりも
直ぐに彼女の喜ぶ顔が見たい彼は、スマホで次
の予定の場所を伝えるとにっこりと笑みを見せ、
キラキラと目を輝かせる彼女の反応を楽しんだ。


『ナイトプールもあるんですか!?私行った
こと無いから楽しみです。』


「せやろせやろ?せっかくやし、水着も一緒に
選ぼうな?」


『はい!!!』


「…という訳でサイズチェック。」


『ちょっと、どこ触ってるんですか!?』


「美琴、サイズアップしとらんか?」


『もう、侑さんは人の話を聞いてください!』


どさくさに紛れて両手を美琴の胸元に添える侑
は怒り出す彼女に構いもせずに「育てたかいが
あった」と真面目な顔で自分を褒めて、その手は
彼女に弾かれる。


『侑さんが意地悪ばっかするから、ネットで
1人でのんびり選ぼうかな。』


「美琴ー、そんなつれない事言わんとってやー。」


『今、侑さんの事素敵やなって思うたのに。』


「それ、もう1回言うて?」


口を尖らせてそう呟く彼女に顔を寄せ、可愛ら
しい拗ね方に意地悪をしたくなる侑は、軽く頬
にキスをする。


『侑さん!!?』


「相変わらず面白いリアクションやなー。」


顔が一気に熱くなる美琴に目尻を下げて、今度は
唇に口付けを落として、逃げ出さないように腰元
をガッチリホールド状態で彼女を堪能する。


「ほんまに可愛い。」


『侑さん、恥ずかしいからそれ以上は…!』


「本気で言うとんやから、恥ずかしがらんで。」


侑のペースにすっかりと乗せられてしまう彼女
は、未だに突然訪れるその行為に慣れなくて、
耳元で囁いてくる侑の言葉に耐えれず彼の胸に
顔を埋めた。


結局水着はネットショッピングとはいかず、侑と
一緒にお店で選んで試着後もしっかりとチェック
して、いつぞやのデートの時みたいだと過去を
懐かしく振り返り、上機嫌で当日を迎えた侑を
見上げる。


『侑さん、嬉しそう。』


「当たり前や。デートらしいデートなんて久しく
しとらんかったやろ?」


有名人にも関わらず相変わらず人目を気にせず
彼女の手を繋ぐ彼は美琴にそう答え、嬉しそう
にしている侑を見ていると自分も嬉しくなり、
目を細めていた。


『わー、凄い綺麗!!!』


「へー、結構ええやん。」


『ライトアップが素敵ですね。』


そして、次に楽しそうに目を輝かせていたのは
美琴の番で、夜空の下ほんのりと照らされた水面
は幻想的で初めての光景。


平日の夜に予約したのが良かったのか、人も予想
よりも少なく、周りを気にすること無く穏やかに
過ごせそうだった。


「にしても、美琴の破壊力!」と心の中で叫び出し
そうになっていたのは、念願のプールデートが
出来た侑の方。


デート中の服装ももちろん良かったが、暗がり
で周りにも見えにくいと思っているのもあって、
美琴が恥ずかしがる素振りも無く、侑の手を握り
締めて笑いかけるので、尚更彼の中の高揚感が
増した。


『ずっと泳いでみたかったから嬉しいです!』


「美琴がそんなに喜ぶとは思わんかったわ。」


『ふふっ、侑さんはやっぱり色々知っとるから
凄いですね。』


侑も昨年の彼女とのプチデートを意識していた
ようで、彼女からの嬉しい褒め言葉にニヤけ
そうな口元を笑顔で誤魔化す。

先程からこちらが堪らなくなる発言をする美琴の
眩しい笑顔に耐える侑は、楽しみはこれからだ
と自分の理性を必死に保とうとした。


プールに浸かれば冷静さは戻っていき、自分が先に入って彼女に手を差し出せば、それは少し
照れ臭かったのか、美琴の頬はほんのりと赤く
なっていた。


「何を今更照れとんねん!」


『今、すごく贅沢な事をしている気がして。』


「ええから、おいで。」


『きゃっ!』と小さく悲鳴を上げる彼女に笑い、
彼女を支えると反射で首元に手を回す美琴らしい
反射に、侑の胸の奥は疼く。


「ん?美琴って泳げんかったっけ?」


『むっ、私は人並みにクロールも平泳ぎも
出来ますよ?』


今の行動は侑が引っ張ったのが原因なのだと、
侑の疑問に美琴は答える形で平泳ぎで彼の前で
周りを泳いで見せて、戻ってきたら『ほら!』
と誇らしげに侑に抱きついた。


濡れた髪の毛と柔らかいその感触に、侑は再び
ムクムクと別の欲が湧いてしまい、悪戯めいた
言葉でそれを誤魔化そうと、余裕がある振りを
続ける。


「今日の美琴は大胆やな。こっちは全然嬉しい
けど。」


恥ずかしがり屋の彼女だとこれなら自然に自分
から離れると思ったのに、きょとんとした顔は
しているが、今日はいつもと様子が違っていた。


『ここなら、侑さんにギューってしとっても
恥ずかしくない気がして。』


へにゃりと笑って滅多に無い美琴からの小さな
アプローチに侑の心は射抜かれ、目を見開いて
一旦動作が停止したと思えば、その後すぐに
思い切り抱き締め返し、彼女は項垂れる彼の顔
色を伺った。


『嫌でしたか?』


「嫌も何も…美琴は俺を溺死させたいん?」


『そんなつもりやなくて、いつもこちらが
侑さんにドキドキされっぱなしやから、たま
にはお返しも必要かと。』


「やったら、またお返しのお返しはせなあかん
よな?」


『お返しのお返し…?』


侑の満面の笑みと共に、両脚がふわっと浮かぶ
感覚がして、侑に抱き上げられた状態から逃げ
出そうとした時にはもう遅かった。


『んっ!?』


彼からの熱いキスをされ、こんな所で!?と
美琴がパニックになるのを狙うかのように、彼は
プールから上げると軽々美琴を担ぎあげてその
場から去ろうとする。


『うう…侑さん、恥ずかしいからギブアップ
です。』


「俺に勝とうなんざ、百年早いわ。
美琴、まだこれからやから覚悟しとき?」


下ろしてください!とすぐに白旗を上げた美琴の
声も聞く耳持たず、侑はそのままニコニコと
プールサイドを平然と歩き、その先の時間は
自分の部屋で過ごそうとする。


「いっぱい可愛いがったるからな?」


優しく囁くその声で、これから何が起きるか
しっかりと分かっている彼女は俯いて静かに
頷き、もう既にドキドキする出来事でお腹が
いっぱいだと感じている彼女は既に心に余裕
は無くないのか両手で顔を覆った。


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