揃った休日に


パチンと大量のナスを鼻歌混ざりで収穫して、
またこの季節がやって来たと嬉しそうにする
恋人の姿に、北もまた喜んで笑みを見せる。


「野菜に妬いてもええかな?」


『そんな!一番はもちろん信介さんやから…
って、言わせようとしましたね!』


「ふふっ、嬉しい事聞いたな。」


『もう、信介さんが意地悪や。』


拗ねた表情を見せる美琴とは逆に、満足そうに
彼女の頭をそっと撫でる北は、最近呼び始めて
くれたその呼び方につい口元が緩んで、好きな
子に悪戯心が芽生えてしまうのは今も変わらず。


「俺も一番は美琴やから、許してくれるか?」


『〜〜〜っ!!?』


そのやり取りは長年のものだが、耳元で囁く
彼からの甘い言葉にはまだ美琴は慣れていない
模様で、顔を真っ赤にさせる彼女はその熱を
冷まそうと冷たいお茶を一気に飲み干した。


「今年も結構出来とったな。」


『昨年より多かったですね。このナスとか、
焼いたら美味しそう!』


「早速昼飯にウチで焼こうか。」


『それ、素敵です!』


気温が更に上がる前に早めに切り上げる彼ら
は、帰り道にこの後の予定を何がいいか考え、
一風呂入った後には口元はさっぱりしたものを
求めていて、北はふと思いついたように口に
する。


「そういや、いつかやろうて言うとった
流しそうめん…今日やるか?」


『楽しそうやけど、お疲れやないですか?』


「まだまだ平気やし、もう竹はちゃんと手入れ
しとるからいつでも出来るで?せっかくやし、
予定空いとる人らも呼んで集まるか?」


『それはすごく魅力的です!』


「なら決まりやな。」


北の提案に美琴も嬉しくいつものメンバーに連絡
を入れて、それは突然企てたはずなのに周りは
待ってましたと言わんばかりに揃って、治や銀島
もその準備にすぐに合流した。


その後にまた北の家に訪れた者が増え、大耳や
赤木だけでなくまさかの侑や尾白も都合が合い、
差し入れだと言って肉やビールも登場し始めるので、そこは一気に賑やかな場となる。


「サム!それ、俺が持ってきた肉やぞ!?」


「一旦エネルギー摂らんと無理。つーかこれの
準備したんは俺と銀やんか!」


『素麺茹でたんで、もういつでも流せます!』


準備で動く面子は年末の餅つきの時と同様で、
移動の合間に治がさりげなく侑の焼いた肉を口
に入れれば、侑からは鋭い指摘が入って賑やか
さは増していく。


「お前らいくつやねん。」


「そうめんパーティどころか、バーベキュー
争奪戦になっとるやん。」


「美琴も後はやるからたまには座っとけ。」


『でもさすがに先輩方に動いて貰うんは…。』


「ほら、ええからここ。」


その間、先輩達は通常運行だとビールを片手に
見届けて、パタパタと動く美琴の持つ素麺の籠
を赤木が取り上げると近くにあった椅子に座ら
せる。


「美琴、しっかり食べとってもそれだけ動い
とったらまた痩せるで?ほら、肉も食え肉も!」


『えっ?!わっ…、すいません!!!』


「赤木さん、お父ちゃんやん。」


「北さんがそれやらんくなってきとたのに、
結局誰かしらのせいで美琴の皿がいっぱいや。」


素麺を片手に器用に美琴のお皿に焼けたものを
乗せ、その勢いに乗せられる彼女はありがたく
受け取っていると、隣にいた北と目が合って
何故か口を開けて彼は待ち、すっかりとその
行為が定着してしまった美琴は、彼に箸を運ぶ。


『美味しいですか?』


静かに頷いて答える彼に美琴は笑って、それを
未だに羨ましく思ってしまう侑は、「俺には!?」
と冗談混ざりで声を上げ、何故か銀島が侑に
箸で差し出して、嘆く声と笑い声が同時に出る。


「お前も懲りんなー。」


「楽しそうにしとったら、安心して余計に
ちょっかい出したくなんねんな?」


「サム、余計な代弁すな!」


北と美琴の事を微笑ましく見ているのは、もう
尾白や赤木達だけじゃない。
大好きだった後輩の幸せを願うのは侑も同じで、
そこは今まで以上に好きな空間で、その中で
楽しそうに笑う彼女を見ていると、不思議と
気持ちはもう満たされていた。


『いっぱい甘えさせて貰ったから、今度は
交代して素麺奉行します!』


「この調子やと余らず食べ切るな。」


『北さんのお野菜、美味しいですもんね!』


「何でか、美琴の方が嬉しそうにしとるし。」


「ほんま、付き合っても変わらずやな。」


尾白の言葉に北もニコニコと笑顔を向けて、
賑やかな声はもうしばらく続き、静かになる
のは片付けが済んだ後の、満たされたお腹と
程よく酔って眠気が襲ってきた時。


ビールが進んで畳に横になる先輩達に続いて、
美琴も久々に口にしたお酒でふわふわするのか、
そのままこてんと転がりそうになれば、彼女の頬は床につかずに恋人の肩に支えられていた。


『ふふっ、信介さんや。』


「珍しいな、美琴がそこまで酔うんは。」


『すみません、楽しくなって。』


「大丈夫、怒っとらんよ。」


柔らかい言葉とその腕の温もりが心地よく、
酔いのせいで恥ずかしさは何処かに飛んでいく。


今は嬉しさが正直に行動に出る彼女はギュッと
北の腕に抱き付くと、その仕草を可愛らしいと
思い、彼女の頭を撫でた。


「美琴が楽しんでくれたんなら何よりや。」


その安心感でうとうとと眠り始める彼女を抱き
上げて、彼女が瞼を開けた時はすっかりと空は
暗くなる頃。


『えっ!?あかん…寝てしもうた。』


慌てて起き上がろうとしたら、ずっとその身体
は恋人に包まれていた模様で、近い寝顔に未だ
に慣れない彼女はボフン!と顔は茹だって、
再び瞼を閉じ直すも眠れず、慌てていると自分
を包む身体は小さく揺れていた。


『起きとるなら言うてください。』


「いや、行動が面白いから様子を見ようかと。」


『せや、先輩方は?!』


「みんな目が覚めたら帰ったわ。」


『あかん…、挨拶もせんと。』


「気にせんでええよ。アイツらも好きな時間に
帰っていったわ。」


失礼な事をしたと反省する美琴をあやす様に北が
彼女の背中を撫で続けると、幼さの残る自分に
少し恥ずかしさを感じる彼女は彼の胸に顔を
埋める。


『まだまだお子様な自分に反省です。』


「心配せんでも皆楽しんどったから。美琴も
疲れとんのに、いっぱい準備してくれたやろ?」


『そんな事ない、北さんに比べたら…!』


「男の俺と比べたらアカンよ。…でも、まあ
大丈夫言うんやったら。」


『んっ…!?』


そう続け、北の優しい笑みから熱の帯びた表情
に変わる瞬間、濃厚な口付けが落とされる彼女
は驚きから目を見開き、真っ直ぐ貫くその瞳に
吸い込まれそうになった。


「賑やかな休みもええかなって思うたけど、
やっぱり俺しか知らん美琴も見とうなった。」


覆いかぶさってコツンと当たる額に熱を感じ、
「もう少し付き合ってくれるか?」と尋ねる彼に
こくんと頷くと彼女は彼の背に手を回し、もう
一度重なる唇にゆっくりと目を伏せた。


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