念願の夏


「ちょっ…、破壊力!!!」


突然、素直な本音を叫んだ治に美琴は困惑し、
心配なのはお互い様なのだがと言葉を付け足し
たいが何も言えぬまま。


『えっと、そんな大したもんでは…。』


砂浜が反射して眩しく見えるその姿は彼にとって
は念願のビキニ姿で、今、治の暑さはその光景
で吹き飛んだ。


それに向かい合う美琴は、歓喜の余り崩れ落ち
てしまった恋人のリアクションはオーバーだと
困惑し、心配する。


念願のデートと言っても昨年美琴が助っ人で
バイトをした海の家で、今年はおにぎりの販売が
決まり、2人とも水着を着て見事に商品を売り
切った後でせっかくならとそのままデートを
決行し、互いの新鮮な姿に冒頭の状態となって
いた。


『治さん、日焼け酷くなったらあかんから
塗り直しときますね?』


「ありがとう。」


何ともいえない感情を誤魔化そうとパーカーを
脱いで、お互いに一応日焼け止めを塗り直そう
とすれば、彼の肌に触れた美琴もほんのりと頬
が赤く染まり、触れるよりも彼に触れられる事
の方が多い彼女は、以前よりも治の逞しさが
増した気がして不意に胸がドキリとする。


『私は私で目のやり場が…!』


「目のやり場…?もう沢山見とるから慣れた
やろ。」


『うぅ…、そう言う事言わんとってください。』


「美琴、理性とバトル中やからその可愛い反応
は程々にして欲しい。」


美琴が自分の姿を見て恥ずかしそうにするのは
何を今更と不思議そうに見た後で、潤む瞳を
目にしてガッシリと彼女の両肩を掴んだ。


「ここにずっとおるんも時間は勿体ないし、
少し泳ごうか。」


『せや、せっかくですもん!』


意識すると上手く目を合わせられない彼女を
見ると段々と冷静さを取り戻すのか、浮き輪を
片手に美琴の手を引いて砂浜に向かう。


プカプカと波の上に浮かんでいるのは心地良く、
のほほんと寛ぐ美琴の表情を治は優しい眼差し
で見つめる。


「久しぶりにゆっくり出来たな。」


『はい、海もいいですね。』


「俺もや。美琴の楽しそうなトコ、ずっと見とけ
るし。」


『私も海デート出来たの、やっぱり嬉しい。』


美琴もまた、治が楽しそうにしていると嬉しく
なって、そう言ってへにゃりと笑うので、胸の
奥がきゅんと鳴る治は、堪らず彼女の頬にキス
を落とした。


『治さん!!?』


「大丈夫、誰も見とらんよ。」


だからもうちょっと…と美琴に寄り添って波に
揺られ、至福の時間に目を伏せる。
少しそれを擽ったく感じる美琴はクスクスと肩
を揺らして笑った。


まったりとした時間を堪能して、彼らが海から
上がるタイミングは小腹が空いてしまった時と
治達らしい理由。


「海の家の焼きそばって、いつもより上手く
感じるよな。」


『分かります。景色がええからですかね?』


ラッキーな事に昨年のお礼も兼ねてとサービス
して貰った焼きそばを口にして、いい感じに
お腹が満たされた後でとある貼り紙が治の目に
止まった。


「へえ、ビーチバレー大会やて。」


『日向君が食いつきそうなイベントですね。』


「もうプロは出たらアカンやつやろ。」


『よく見たら、優勝者はペアの温泉チケット
って書いてありますね?豪華!』


「へー。男女ペアもOKやて。」


『参加もまだ間に合う感じですかね…。』


その紙を淡々と呼んで無言になる2人は、互い
の目を見て考える事は同じなのか、深く頷く。
おにぎり宮の帽子を被り、砂浜をしっかりと
踏み込む2人の目は本気だった。


「美琴、上げれるか?!」


『最善を尽くします!』


治が滑り込んで取ったボールを美琴が丁寧に彼が
攻撃しやすいように導くと、体勢が崩れて尻餅
をついてしまったが、歓声と共に綺麗に治が
スパイクを決め、ホッと胸を撫で下ろした。


『一年ぶりやからドキドキでした。』


「ツムの特訓の成果がまだ残っとったな。」


最初の試合は相手にセットを取らせずに勝って、
治に手を差し出されて引き上げて貰い、美琴の
身体に付いた砂も世話焼きな彼はポンポンと
手で払う。


『そこは自分で出来ますよ?』


「まあまあ、ええから。」


オマケに余分に彼女のお尻の砂も払って、その
行動は彼氏だからこそ許される特権であり、
バイトの時はナンパされていたという情報も
治の耳にしっかりと入っていた為、自分の物だ
と周りに知らせる牽制も兼ねる。


「よし、この調子で次も勝ち抜くで?」


『治さんのお陰で上手くいきそうや!』


「美琴も前よりも打ちやすくなっとるで?」


コートとは違う感覚に戸惑うが、以前日向から
聞いたコツを少しだけ思い出し、いつぞやの
町内のバレーボール大会を彷彿とさせる勢いで
見事な連携プレーを繰り出して、2人は見事に
優勝してそのイベントを盛り上げた。


『治さん、また温泉行けますね!』


「ほんまやな。前も面白かったけど、今回も
なかなか良さそうなところとちゃう?」


美琴達が嬉しそうに旅館のサイトを見て会話を
したのは、帰宅して美琴の家に泊まる予定と
なった夜の事。


次の旅行は一緒に露天風呂に入れるのではと
期待して、治は上機嫌に一緒にスマホを眺め、
隣にいる美琴のお腹に手を回す。


美琴もまた治の肩にコツンと甘えた様子で凭れ、
2人はお互いに心地良い体勢になっていた。


『楽しみですね。』


「ほんまやな。また、旅行用の服を探すんも
楽しそうやし、次のデートはアウトレットでも
行こうか。」


『それも凄く楽しみです!練習しとらんかった
からヒヤヒヤしたけど、勝ってほんまに良かった。』


「次の町内の大会もいけそうやな。」


『次はいっぱい練習せんと!それに、お店の時
ももちろんやけど、格好良い治さん見れるの
嬉しいし。』


「嬉しい事言うてくれるやん。」


『更にモテモテなのはたまにキズですけど。』


「…美琴。それ、以外とお互い様なん知っとる?」


嬉しくなる言葉と想定しなかった言葉が治の
引き金となって、目を細める治が彼女にキスを
落とすと、緩む笑顔に余計に抱きしめたくなり、
両腕で彼女を包み込む。


「部屋におると、すっかり慣れたな。」


『慣れとらんですよ!ドキドキして心臓が爆発
しそうです。』


「せやったら、いっぱいこっちも練習せんと
あかんな?」


ニヤリと笑う治に慌てる時間も与えて貰えず、
次には深い深い口付けが彼女を待っていて、
彼に敏感な部分に触れられると、考える余裕
すら無くなっていく。


何度も繰り返される甘く蕩けるそれに耐えれる
余裕は美琴にはまだ無く、必死に治の服を握り
締めれば、楽しそうに笑う彼は優しく彼女の髪
を撫で、愛しとると甘い言葉を囁いた。


「一緒にお風呂に入る練習もせんとあかんな。
美琴、すぐ恥ずかしがるし。」


『治さんがエッチな事せんって言うんなら、
ちょっとは大丈夫やと思います。』


「…練習、しよな?」


『・・・・・・。』


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