楽しみだったイベントに胸を弾ませ、待ち合わせ
は久しぶりの地元の駅で、学生時代の光景が目に
浮かぶ角名は懐かしさを感じていた。
自分を待ってくれているのは、想いを寄せた
後輩だと過去の自分に教えてあげたい。
高校生の頃に戻った気分になり、少し緊張も
して目印にしていた場所に辿り着くと、自分の
到着にまだ気が付かず身だしなみを整える。
手鏡と睨めっこする姿が愛らしく、口元が緩め
ば鏡にそれが写ったのか、振り返って慌てて鏡
をしまう美琴に角名はクスリと笑った。
『いらっしゃったのなら教えてください!』
「うん、美琴が面白いから観察しようと思って。」
『絶対、今の私変顔してましたよね?』
「凄く、真剣な目だったね。」
「可愛かった」と耳元で囁く角名にずるいと口を
尖らせて、顔を上げるとゆらりと揺れる簪は
美琴にとても似合っていた。
美琴の魅力を引き立たせる北の祖母には敵わない
と思う悔しさと、素敵な彼女を見れた感謝が
混ざる複雑な気持ち。
今は後者の気持ちの方が勝る彼は、彼女の小さな
手をそっと絡め、慣れない下駄で転ばないよう
にゆっくりと歩き出した。
「去年は会えなかったから、美琴の浴衣姿見れて
嬉しい。」
『倫太郎さんもすごく似合うてます!
やっぱりスタイルがええから着こなしますね。』
「褒められても何も出ないよ。」
『本心です。ずっと倫太郎さんと行きたいと
思っとったから、嬉しい。』
『それに凄く眩しいです』と真剣な顔で言う
彼女の方こそ、自分の為に髪を結い上げ、慣れ
ない帯を結んでと準備をしてくれたのだと想像
したら、彼の胸の奥は熱い。
繋いだ手の力がぎゅっと強まるとそれを握り返す
美琴 は角名に微笑み、屋台までの道のりが段々と
楽しくなっていく。
「美琴にそんなに褒めて貰えるなら、着て来て
良かった。」
『ふふっ、本当に素敵です。…って、私は少し
言い過ぎなんやろか。』
「確かに、ちょっと恥ずかしくなってきたかも。」
『あの…、倫太郎さんに恥ずかしがられたら
私もうつっちゃいます。』
まだ花火すら見ていないのに持つだろうかと悩む
のもお互いに両思いで、歩きながら先程の自分の
発言に照れ腐さを感じ、上手く目を合わせられ
ずにいる美琴達は、途中から言葉を詰まらせた。
「高校生カップルか!」
否、高校生の方がまだマシだと補足を入れて、
おにぎりの入った袋を差し出す現在の美琴の
上司、宮治は見かけた2人の相変わらずの距離の
美琴達にそう指摘して、仏頂面を見せる
角名とは逆に、美琴は困った顔で笑っていた。
「シャイな美琴は可愛らしいから許せるけど、
角名、遠くから見たらお前挙動不審やったぞ?」
「え、観察出来たの?よくこの人混みで見つけ
られたね。」
「そりゃ、毎日見とるからすぐ分かるやろ。
つーか、嫌でも目に付く。」
治も今年も店を出していると聞いて、せっかく
だから顔でも出すかと足を運べば、治は美琴に
向けた満面スマイルと対照的に角名には顔を
顰め、「自慢か?」と悪態をつく。
「昨年はどっかの誰かさんが腹立つ程素敵な写真
送って来たから、今日はお返し。」
「お前のいらん親切さに、ある意味尊敬する。」
『写真?治さんのおにぎり食べながら見る花火
は素敵やねって話でしたよね??』
「美琴、これオマケしとくな?」
「本当に気持ちいいくらい態度が違うよね。」
「そっちもやろ。お兄ちゃん、美琴が心配に
なるわ。」
「兄になった覚えが無いんだけど。」
「もれなく侑もや。」
「余計にいらない!」
先程まで物静かだった恋人が徐々に饒舌になって
いき、仲の良さに面白くなって治と角名の会話を
クスクスと笑って聞いていると、「笑いすぎ!」
と声を揃えて同時に美琴に視線が向くので、彼女
はさらに笑った。
「ほら、デートの時間が勿体無いやろ?そろそろ
行った行った。」
『治さん、今日はありがとうございます。』
「いつも頑張っとんやから今日くらい楽しみ。
なかなかこういうデートも出来んやろ?」
治は追い返す手振りで2人を見送り、お礼を
言う美琴の嬉しそうな表情は、角名にしか引き
出せないと思うのか、目を細めた。
「ほんま、綺麗になっとる。」
それは独占欲の強い彼には聞こえない声で吐く
治の本音。
これでよかったと満足する治は、並ぶ二人を
お似合いだと見守り、その後は余計な事を考え
ずに済む忙しさに感謝した。
デートが再開となった美琴達は、治に会った影響
で話しやすさが戻ったのか、他にも見たいもの
は無いか屋台を散策する。
「遠慮なく、欲しいものあったら言いなよ?」
『ありがとうございます。でも、浴衣やから
そんなに食べれへんかも。』
「食べるのくらい手伝うって。」
せっかくならおにぎりの他にもと辺りを見回し
て、イカ焼きと袋入りのりんご飴を購入した
美琴は満足そうに花火の見える場所まで歩いた。
二人分、ちょうどよく見れるスペースが空いたの
を発見すると彼らはそこに腰掛け、花火が上がる
と待ってましたと美琴がおにぎりを美味しそうに
頬張る姿が角名には微笑ましく見える。
「やっと美琴らしいって感じ。」
『はっ、つい油断して…!』
「別にいつも通りでいいのに。」
『好きな人の前では、やっぱり女の子らしい
所を見て欲しいなって思うから。』
角名の浴衣の袖をぎゅっと握る美琴の視線は
下がり、待ち合わせの時の仕草も思い出す角名
は、堪らず彼女の腰元に触れると身を寄せて、
目を合わせる余裕はない彼は花火を見つめて
いた。
「充分、魅力的過ぎて心配になるくらいなのに。」
『り、倫太郎さん…!』
「花火の音で誤魔化せてるけど、ずっとドキドキ
はしてる。」
袖に触れていた手を掴まれて、左胸に添えられ
て伝わる鼓動はいつもよりも速く、それと同時
に重なる唇の熱に、彼女の頭は溶けそうになる。
羞恥で力尽きて、コテンと彼の肩に頭を預けて
彼を見上げると自分と同じくらい顔は赤く、
「分かってくれた?」と尋ねる角名をまともに
見れなかった。
『うう…、倫太郎さんの予測不能な行動に身が
持たんかもしれん。』
「美琴が突然可愛い事言い出すから…。」
大胆な恋人の行動に戸惑う美琴はその甘さに見事
にギブアップの声を上げ、角名もすっかりいつも
ペースに戻って心の中では悶絶をして、会った
時よりも初々しさが出てしまう。
「綺麗だね。」
『綺麗ですね。』
ただ、お互いにずっとこのまま一緒にいたいと
想うのは同じで、滅多に味わえない至福の時間
をお腹いっぱいに味うと、徐々に甘い時間にも
慣れる2人となった。