今頃になって


その季節は行楽日和、収穫日和とお互いに会う
時間が限られてしまう繁盛期。


今年は評判が益々上がった影響で楽しみにして
いた稲刈りも町内の運動会での大量の注文が
入った日と重なって、恋人同士ではなかった学生
時代よりも会う頻度は低くなっていた。


「美琴、無理しとらんの?」


『お互い朝が早くて北さんも忙しいから、最近は
泊まりもなかなかなんで。』


「理解してくれる彼女ってのは、男はほんまに
ありがたいって思うけど、たまには我儘言うても
ええんやない?」


『我儘も言わせて貰っとると思うてますよ。
この前も行きたい場所に連れてって貰っとるし
同じく北さんも…。』


「それ、我儘やなくてお願いやん。」


北に会えない寂しさを周りに見せず、かえって治
を心配させる程に張り切った姿を見せ、北と美琴
の平穏な会話が目に浮ぶ治は困った顔で笑った。


そんな先輩を不思議に思いながら、美琴は淡々と
おにぎりを詰め、綺麗に並んだそれらを嬉しそう
に眺めた後に言葉を続ける。


『ちょっとでも顔見れて、元気そうやったら安心
するからそれで大丈夫です。それに、ずーっと
続くって訳でもあらへんし。』


それは彼女の本心が現れてしまったのか、美琴が
治にそう話したタイミングで外からは突然雨音が
聞こえ始め、店の扉を開けると思った以上に雨が
降っている事に驚く彼女は困った顔で外を見つ
める。


『あちゃ、天気予報で言うとりましたよね。
傘、忘れて来ちゃいました。治さん、お店の傘を
お借りしてもええですか?もちろん明日ちゃんと
持っていくので!』


「それはええけど、帰り面倒やない?家まで車で
送ってやるのに。」


『いや、今回は自分のミスなのでさすがに申し訳
無いので!』


「いや、通り道やからついでやし。」


『待ってください。治さん、まだやる事たくさん
ありますよね!?私も一緒に…!』


「明日最後にまた忙しいもんが待っとるんやから、
気にせんと先に帰すわ。美琴よりも更に俺はタフ
やからな。」


『そんな!!!』


「その代わり、明日も期待しとる。」


『お手間かけます』と相変わらず遠慮気味な後輩
に治は笑って、先に彼女を返してあげようと車の
キーを手に取ると、カラカラと店の扉が開いて、
傘を持つその人物の登場に美琴は目を丸くした。


『北さん、何で!?』


「美琴、この前ウチに来た時に忘れとったやろ?」


『そういえば、そうやった…かも?』


「忙し過ぎて、傘の居場所も忘れさせとったな。
北さん、ちょうどえかった。この子、連れて
帰って貰ってもええですか?」


「何となくそんな気がして迎えに来たわ。」


北が頷いたらすぐに治は美琴を仕事から上がらせ、
追い出される形で店を出た二人は、少し小降りに
なった道を二人並んで歩く。


迎えに来た北の持つ傘は何故か1本だけで、それ
を疑問に思う美琴が彼の顔を見上げると、北は
笑って彼女を自分に引き寄せた。


「一度、やってみたかったんや。」


『〜〜〜〜!!?』


それは、安心を通り越したいつもと違う感覚。
その距離が久しぶりなせいか、美琴の胸の鼓動は
ドクドクと早まって、一気に体温が上昇するのは
隣にいる北も感じているが、彼女が照れている
様子まではまだわかっていない模様。


「やっぱり引っ付いとると温かいな。」


『そ、そうですね!』


あかん、何で!?と美琴が戸惑って裏返った声も
北には気づかれず、その日はそのまま別れて次に
二人が会ったのは、お互いやっと取れたデートの
日だった。


その時も北に手を繋がれて歩き出すとやっぱり胸
の鼓動は激しくなって、改めて自分がそうなって
しまった理由に気がつくのは、帰宅中の車内に
いる時。


「美琴、何かあったんか?」


自宅前に到着すると切ない気持ちが押し寄せて、
今日一日美琴に違和感を感じていた北が彼女を
心配して顔を覗き込むと、彼女の方から彼の肩に
寄り添うので、彼は少し驚く。


『あかん、私…北さん不足やったみたいです。』


「俺不足…?」


『北さんの隣やとドキドキ止まらんなって、
でももう帰らなあかんって思ったら胸の奥が
苦しくなって…。』


もう少しだけ一緒に…と願う欲張りな自分は彼に
嫌われてしまうのではと不安そうに伝える美琴
の頭を北はそっと撫で、少しだけ身体を離させる
彼にやっぱり無理を言ってしまったと落ち込み、
彼女が謝る前に、北は再び車を走らせた。


「そんな悲しそうな顔せんでも、俺も同じ気持ち
やから安心し。」


そう言ってまた頭を撫でる彼は、彼の家の方面へ
移動したが、その先からは美琴の知らない道へと
進んで、彼に行き先を尋ねたら楽しそうな返事が
帰ってきた。


「ずっと内緒にしとった場所やな。」


山道を上った所で車は止まり、先に車から降りた
北は彼女が体を冷やさないように、自分の上着で
包んだ。


『北さんが風邪引いちゃいます!』


「これくらい、大丈夫や。それよりもここから
足元に気をつけてな?」


そう言って手を差し出した北は美琴が転ばない
ように支えて歩き、辿り着いた場所は誰もいない
天文台。


天候が良かったのもあって、見上げたら満天の
星空に思わず美琴は感動の声を上げた。


『わあ、綺麗!』


「前から見つけとって、ようやっと来れたな。
人の作ったもんも好きやけど、やっぱり自然には
適わんな。」


『北さんはやっぱり凄い。』


喜ぶ美琴を見たら満足そうに目を細め、後ろから
抱きしめる北の温もりでまた胸の奥が締め付け
られる美琴の顔は熱くなる。


『やっぱり、北さん不足は重症みたいや。』


「求められるんは光栄なんやけどな。それに、
不足しとんは美琴だけやないで?」


ギュッと包まれる力が強まって、後ろから重なる
唇で返事は塞がれ、彼からの大胆な行動に少し
驚く美琴はギュッと彼の袖を掴んだ。


何度も落とされたキスで胸はいっぱいで、一向に
治りそうもないドキドキに嘆く美琴に北は笑って、
耐えきれない彼女は向かい合って彼の胸に顔を
埋めた。


『うう…、もっともっと好きになりそう。』


「それも残念ながら同じくやな。まだ美琴不足は
こっちはまだ治りそうにないわ。」


『まさかの立場逆転!?』


「せやから安心しって言うたやろ?」


美琴が顔を上げたら、彼の手は自分の頬に触れて
いて、自分だけでは無かったという安心感に彼女
も目を細める。


『ずっと大好きです。』


これで彼が満たされればと思い、背伸びをして頬
にキスを落とすと、しばらく瞬きをして固まる北
は顔を真っ赤にさせ、顔に手を当てた。


「美琴、それは不意打ち過ぎや…。」



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