とにかく分かち合いたい


『治さん、お土産です。』

「わざわざ、ありがとな…って野菜??」

『北さんのご実家へ行かせてもらって、お野菜
貰って、これは治さんの分です。』

「(ほーん、くそっポイント稼ぎよって
からに…)楽しかったみたいで何よりやわ。」

定休日に可愛いくて可愛くて仕方ない後輩が
わざわざ自分の家まで来て、風呂に入って彼女
はすぐに届けに来たのか、美琴は甘い匂いを
漂わせていた。


満面の笑みで袋を治に差し出すので、それを治
は嬉しく受け取れば、北の実家に行った事実に
仲睦まじく収穫をする2人を想像して、彼は
もちろん大人の余裕を見せつつも心の中では
嫉妬をする。


『この美味しさを分かち合いたいんで、治さん
のお稲荷さんも頂いて帰ってきましたよ。』

余程彼女は美味しかったのか、若干興奮気味で
北の祖母が作った稲荷寿司を掲げるので、自分
に食べさせたいと言ってくれる彼女の健気さに
嫉妬はどこかに飛んで、彼は一緒だけ後ろを
向いて、目頭を押さえた。


「…美琴、一人寂しいから一緒に食お?」


にこりと笑って頷いて彼女が頷くと、治はその
返事に喜んで、とりあえず、上がりと彼女を中に
入れたら、美琴も脱いだ靴を揃えて、お邪魔
しますとぺこりと彼女は頭を下げた。


治は貰った野菜を確認してキッチンに向かい、
すぐにとうもろこしを茹でると、その間に
きゅうりはごま油と塩昆布があったなと言い
ながら、適当に切ったらそれらで和え始め、
彼女は隣の流しでトマトを洗って皿に入れる。


「焼きもろこし、作ろうか。」


『わー、食べたいです。』


「バター醤油でええ?」


『最高すぎます!!!』


そのワードを聞いただけで、キラキラと美琴が
目を光らせるので、治はわかりやすいと笑って
冷蔵庫からバターを取り出そうと開けると、
その今必要とするバターが無い事に気がつき、
「あちゃ。」と残念がる声をあげ、彼女と視線が合う。


「バター、切らしとるわ。」


『私、買ってきましょうか?』


「ほんならビールも欲しいし、一緒に行くわ。」


とうもろこしが茹で上がったところで、一旦
火を止めると皿に移し、彼女はじゃあ一緒に
ときゅうりを冷蔵庫にしまうと、財布とスマホ と鍵を持って、美琴と一緒に家から出る。

「美琴も飲むん?」

『んー、ご迷惑かけたら嫌やし、今回は遠慮
しときます。』

「迷惑ゆうても、すぐ酔っ払って寝るだけやん。
なんなら泊まるか?」

治の提案に甘えていいのか迷い、美琴はうーん
と腕を組んで頭を捻らせ、治の誘惑に悩ませる。


スーパーまでの通り道には美琴の家もあるので、
必要なものはすぐ取りに帰れるのだが、ここ
最近治に甘やかされっぱなしな気がしてなら
ない彼女は彼に申し訳なくなり、これ以上
甘えるのはよくないのでは?とどうしても
考えてしまう。


「焼きもろこし、きっと美琴の飲む甘い系の
チューハイでも合うで?」


治の一声に思わず涎が垂れそうになり、彼は
彼女が遠慮しているのがお見通しなのか、俺が
誘ったんやからいらん気は使うなと笑っている。


『なら、お言葉に甘えてええですか?』


申し訳無さそうに彼女が伺うと、治は満足そう
に彼女の頭をくしゃりと撫で、一緒に店内を
回る時に彼は少しだけ同棲気分を味わえている
気がして、堪らなくなっていた。
実際は残念ながら、違うのだが。


お礼と言って美琴は治がスーパーでの支払いを
払う事を許さず彼女が払い、その後で泊まる際
に必要な簡単な荷物を一緒に持って彼の家に
戻れば、フライパンに乗せたとうもろこしを
美琴は待ちきれない様子で見つめていた。


「そないに見つめられたら照れるわ。」


『あ、今日北さんも同じこと言うてた。』


「お?北さんにも見蕩れとったとか浮気か?」


『ふふっ、働く人みんな素敵なんですもん。』


治の冗談は笑いながら慣れた様に軽く流され、
治さんも同じくらい格好いいからと、優しく
微笑みを向けられたら、嬉し過ぎてそれ以上、
彼女に返す言葉は見つからない。


ずるいわとまたフライパンに視線を戻す治を
彼女は不思議そうに見ながら、先程使い終えた
バターの箱を冷蔵庫にしまった。


「このお稲荷さんうまっ!!!」


『ですよね、ですよね!治さんの焼きもろこし
もすごく美味しいです。』


「美琴のその顔見ると作ったかいあるなぁ。」


2人で食べて大正解といったところか、先程
作ったものを味わって、その美味しさから2人
とも幸せそうに顔を緩める。


『北さんのおばあちゃんのお稲荷さんも
治さんのおにぎりもこのおかずも全部全部
大好きです。』


ふんわりと笑って頬張る彼女の言葉には偽りが
無く、それをよく分かっている治は、何度吐い
ただろう、可愛すぎやろという言葉を心の中で
また吐いて、「欲張りすぎや」とまた大人ぶって
彼女に笑う。


彼が風呂から上がった頃には、うとうとと睡魔
が襲っていたのか、目を擦りながらソファに
もたれて治が風呂から上がるのを待っており、
寝ればいいのにと呆れながらも彼女の優しさに
少し嬉しくなっていた。


美琴をベッドへ運ぼうとしたら、今日は彼女も
恥じらいが残っているのか、それは拒否され、
自分の胸板を彼女の手で押され、何が嫌なのか
が不思議で、彼は首を傾げる。


『あかん、私はソファで十分な身ですから。』


「何を言うとん、お客さんなんやからベッドを
使い。体があと痛くなるで?」


『んー、それは治さんも一緒やん。
治さんの方がゆっくり休まんとダメです。』


「炎天下で仕事した人間が何言うとん?」


じたばたする美琴を軽々と治は運んで、ベッド
へぼすんっと落とすと、彼女は這って再びソファ
へ戻ろうとする。


「あ、こら。大人しくしぃ。」


『ん。じゃあ、治さんもここで!』


彼女は縮こまってその端へと移動をすると、
治の寝るスペースを開けるようにポンポンと
ベッドを叩き、彼の家のベッドはシングルなの
で、彼女の部屋よりもより密着してしまう事に
躊躇いを見せる。


「あー、もうこの子怖すぎなんやけど。」


『大丈夫です、食べませんから。』


「それ、俺の台詞と違う?」


何処でそんなこと覚えてきたん?と彼の心の中
ではこの生殺し状態に嘆き、頭を抱える。


『んふふ、治さんやー。これで公平ですかね。』


「はいはい、治さんですよ。わかったから、
こら。あんま引っ付かんの。」


このままだとこちらの方が、彼女を美味しく
いただいてしまいそうになるので、治は彼女
から距離を取ろうとするが、美琴はそんな事
なんて構わずに治の手を引き、ぽんぽんと子供
をあやす様に彼を優しく包んだ。


されるがままに抱きしめれたものの、彼女の
甘い匂いと柔らかさで、彼の平常心は限界を
迎えそうになる。


そこからは心地よくなったのか、すやすやと
寝息を立て、治は人騒がせなと呆れながらも
彼女に抱きしめられていると、自分も心地よく、
部屋の明かりを消したら、彼もそのまま眠りに
ついた。


翌朝、先に目を覚ましたのは治の方で、彼も
昨夜に色々とされっぱなしは癪に障ったのか、
悪戯心が芽生えて、わざと頬にキスを落として
彼女を起こそうとする。


それで目が覚めた美琴は、昨夜の記憶がちゃんと
残っていたらしく、彼女はいつもの様にまた
やってしまったと罰が悪そうな表情で治を見て、
よく眠れましたと答えながらもタオルケットで
顔を隠すので、結局治の方がその仕草にノック
ダウンするのだった。


「て、美琴服!!!」


『え…?わー!!!また暑くなって、脱いだんかな。
見苦しい姿ですいません。』


「まさかそれ、ツムん時もやっとらんよな?」


『・・・・・・。』


「やったんやな?」


『侑さん、背中撫でるだけやったから大丈夫。
ってんっ、ちょっ…治さん!!!』


「消毒や、消毒。っちょっ、美琴の肌、
すべすべやん!」


『(やっぱり、治さんは侑さんとやる事一緒や。)』


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