室内の醍醐味


合宿二日目の天候は雨だった。
室内のスポーツに天候など関係無いが、せっかく
の合宿にも関わらず、学校と変わらない景色は
つまらない。


「こんなん、いつもと変わらんやろ。」


これが授業終わりだと一番生き生きしているはず
の侑は、灰色の空を不貞腐れた面で見つめた後、
彼の打つ球から感情が素直に出ていた。


「ほんま、ずーっと今日は降っとるな。」


『確かにこの天気やと、侑さんがモヤモヤする
気持ちもわかります。』


「今日は全然アカン。もう飯食うて寝る。」


「美琴、手伝おうか?」


『大丈夫です!これくらいならすぐなので。』


雨音をずっと聞いていると気分が乗らないせいか
コントロールも上手く定まらず、昨夜よりも早め
に自主練を切り上げ、美琴も片付けを始める。


早めに切り上げたといっても、彼らより遅く練習
に残っていた部員はおらず、食堂に行けば昨日と
同じ自主練のメンバーだけだった。


「言った通りに美琴と一緒に飯食えたな。」


『ありがとうございます。お待たせさせちゃい
ましたよね?』


「美琴は作業速いから全然待っとらんて。」


治との約束通りに一緒に食堂に向かった美琴は、
自分の仕事が終わるまで待っていた先輩達にお礼
を言うと、侑が一番に彼女にそう答えて、周りの
人間が少し驚いた顔を見せる。


以前よりも良い点はすぐに誉めてくれて、良い
意味でも悪い意味でも侑は言葉をオブラートに
包まない。
それを分かっていても、 未だに褒められ慣れない
彼女は照れ臭くなって固まってしまった。


「…美琴の隣は譲らんけど?」


「いや、反対側座れるやろ。どさくさに紛れて
美琴を自分とこに寄せるな。」


「うわ、双子に挟まれたら食べ辛っ。」


『そんな事ないです!賑やかな食事も私は好き
ですし。』


「ほらほら、大好きやって俺らの事。」


「大好きとは言うてへんて。」


目を丸くさせた治が咄嗟に自分の方へ美琴を
引き寄せると今度はそれに彼女が驚いて、双子に
挟まれた美琴を角名が憐れむ。


しかし、そんな彼もバッチリ彼女の向かいを押さ
えているので、似た者同士のその光景に銀島は
呆れた目で見ていた。


「美琴、今日のカツカレーのカツ…当たりな気が
せん?」


『わかります。このジューシーさはテンション
上がりますよね。』


美味しそうに口にする後輩を隣に置くと美味しさ
が増すのか、ニコニコと満足そうにする治の反対
隣には向かいに座る侑は気分がまだ乗らないと
いった様子で黙々と同じものを口にし、今日の
メニューは治と美琴の二人で盛り上がっていた。


すっかり治ペースで気が抜けて、美琴は普段通り
に頬張り、向かいでその姿を初めて見る角名は
幸せそうなその表情に目を細める。


「確かに、美琴見ていたら食欲は上がるかも。」


他の先輩達も楽しそうにしていると自分も嬉しく
なって、そうなると残る隣の様子がどうしても
彼女は気になった。


明日は晴れる予報だと聞いていても、少しでも
今日だって良い日だったと思っていて欲しい。


そう願う合宿じゃないと出来ない事、それが
何かを考えると王道なものしか思い付かなくて、
そして残念な事に今回はそんな物はこの合宿に
持ってきていなかった。


『しまった。侑さん達とトランプって思うた
けど、さすがにこの合宿にそんなもの持って
くるわけ無い。』


「…トランプ?」


そしてつい悔やむ独り言は美琴の口からぽろっと
出てしまって、きょとんとした顔で見ている侑に
慌てる彼女は、続けて説明をした。


『あ…、その!侑さんのモヤモヤが飛ぶええ事
でも出来たらなあと考えてたら、皆でゲームとか
が一番やなあって思ってて。』


「ええ事…。」


「美琴、こいつのイライラなんか今に始まった事
やないから、ほっといてもええのに。」


『そんな!やっぱりサポートする身としては、
コンディションが整うように何か気分が変わる
楽しい事も大事やなって考えちゃいます。』


「ほんま、優しい後輩やな。」


些細な事なのに、本心から自分を気にかけている
美琴を見ると、つい触れたくなる侑はくしゃりと
笑い、彼女の頭を撫でる。


『あ、侑さん!!?』


「優し過ぎる美琴にメロメロやー。ええ事って
何してくれるん?」


「アホツム、鼻の下伸ばさんと残りのもんさっさ
と食えや。作った人に失礼やろ。」


「さすがにトランプとかは俺らも持ってきとらん
からな。走らんと出来るもんいうたらかくれんぼ
ぐらいやろ。」


「ええやん、かくれんぼ。宿舎使ってやったら
盛り上がるやろ。」


「またそうやって小学生レベルの会話になる。」


『迷惑にならない範囲でやったら、観察力と
推理力鍛えられてアリかもですね!』


釣られて銀島の言葉に乗る美琴は楽しそうに笑い、
そのままかくれんぼは決行すれば、こんな面白い
機会は無いだろうと何故かその後は3年生も参戦
をして、稲荷崎バレー部レギュラーメンバーでの
かくれんぼは少し白熱した戦いとなる。


「え、まさかの北さんも…?」


「様子見とったけどお前らが調子乗って迷惑
かかるようなところに行かんか念の為や。」


「アラン君が1番に見つかったから次は鬼やな。」


「10分くらい数えてな?」


「ちょっ長っ!カップラーメンものびるわ!」


尾白が顔を伏せて始めたらそれぞれが散らばり、
美琴もひっそりと佇める場所を探して廊下を歩く
ととある扉から腕が伸びて引き込まれた。


『!!!?』


「アカン、声出したらバレる。」


口元を咄嗟に塞いだ大きな影の犯人は美琴を
包んで、徐々に彼女を誘導して下がる先には2段
ベッドがあり、彼女はそこに座らされた。


「まさか自分の部屋におるとは思わへんやろ。」


『ここ、侑さん達の部屋やったんですね。』


ヒソヒソと話しかける美琴に「せやで」と満足気に
答える侑は彼女のお腹に手を回し始め、彼女は
自分の置かれた状況に気がついて羞恥でフリーズ
すると、囁かれる耳元は一気に熱くなる。


「美琴も先輩の部屋に入るなんて大胆やな。」


『だって侑さんが突然引っ張るから!』


「声出したら見つかるて。」


『…むっ!』


「かくれんぼ負けるんは嫌とか、意外と負けず
嫌いやな。」


揶揄う口調で笑う侑に言い返したいが、そのまま
彼の体重に持っていかれて一緒にコロンと横に
される彼の体格の良さを背中で実感してしまい、
再び彼女の思考は停止。


『あ、侑さん?』


「んー?ちょい休憩。ここなら空調も効いとるし
しばらく誰にも見つからんやろうし。」


心地良さそうに答える侑は彼女の動揺を気にせず
目を伏せて、そんな彼の腕の中に閉じ込められた
ままの美琴は侑の様子を伺う。


不思議とそこが落ち着く彼女は、緊張感が自然と
無くなっていって、ゆっくりと目を伏せて外から
聞こえる雨音に耳を傾けて顔の熱を冷ました。



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