元気を出して


「美琴、ごめん…相談なんやけど。」


マネージャー仲間が先に謝って美琴に話を切り
出すのは、今の役割から抜ける時で美琴はそれも
これで最後なのかと視線を落として頷いた。


相手を縛ることなんて出来ない、自分の力不足
だったのだと反省し、肩を落とす美琴は応援して
いるからと告げられ、眉を下げて笑う。


『ありがとう。』


悲しさよりも先に覚える事の方がまだまだ沢山
ある事を今は有難く感じながら、一人になって
作業量の増えた業務を今朝も黙々と続けた。


『落ち込まない…はやっぱり無理あったかな。』


「美琴は優し過ぎんねん。」


『ちゃう。私は楽しい方が勝っとるから、
分かってあげれんかった。』


「全部が全部、分かってあげようとするから
優し過ぎやって言うとんのに。」


全くへこまない…というものには無理があって、
先輩もいないこの場でクラスメイトに励まされ
たら、少し泣きそうにもなってしまった。


「まあ、あん中で今まで弱音出んかっただけ
でも凄いと思うよ?」


『うーん、何でやろな。確かにちょっぴり
先輩らは怖く見える時もあるけど。』


本音が少しだけ漏れて、深いため息をつこうと
したその時、自分の教室から思いもよらない
人物がひょっこりと窓から顔を出すので、彼女
達は固まり、その距離に美琴は息を呑んだ。


「美琴ー、今日は連絡事項とか無いん?」


その先輩は登場しただけで周りも騒然とするの
だが、他の目を気にしない様子で美琴が自分の
真下にいるのも関わらず、ニコニコと満面の笑み
で名前を呼んだ。


『!!!?』


「何や、そこにおるやん。」


侑がキョロキョロと辺りを見渡すと、指を指す
美琴のクラスメイトと目が合って、見下ろした
先にすっかりお気に入りの後輩を見つけて嬉し
そうにすると、ブンブンと必死に首を振る美琴
に「そうか、そうか」と笑い続けた。


『宮先輩、わざわざここまで来てくださったん
ですか?!』


「せやから、侑でええっちゅうのに。連絡事項
は無いんやな。」


侑の質問にこくこくと必死に頷くと、そのまま
彼は立ち去ると思っていたのに、何故か腕を
掴まれるので、周りの目が自分に集中している
と泣きそうになる美琴は、目の前にいる友達に
助けを求めた。


「ちょっと、この子借りてもええ?」


「あっ、どうぞどうぞ!」


『ええっ!!?』


もちろん、自分の友人が有名人である宮侑に適う
はずも無く差し出され、美琴が羞恥で嘆く声を
上げても構わず侑に連れていかれてしまった。


『あ、侑先輩…!連絡事項は忘れずにちゃんと
お伝えするので、教室に来るのだけは…。』


「ホンマに、言わんとあかん事無いよな?」


『…先輩?』


逃げ出すつもりは無いのに、侑に腕を強く掴ま
れたままに付いて行くと、階段を上った先の扉
で突然立ち止まる彼は、何故か少し悲しそうに
美琴を見つめた。


「違うとは分かっとったけど、さっき職員室に
寄って、黒須先生の机にあった退部届を見た。」


『一人、マネージャーの子は辞めますけど
私じゃありません。』


「知っとる。けど、お前も一人になったら心細く
なって、練習におらんなるんかと思うて。」


せやからと言葉を続けながらその扉を開くと、
そこは屋上に繋がった扉で、侑達を待っていた
治が扉が動くのと同時に、来たか!?と焦った
様子で彼らに駆け付けた。


「美琴、ツムに変な事されとらん!?」


『治先輩も?』


「せやからお前はどんな目で俺を見とんねん。
あとサムはすぐに下の名前なん、納得いかん。」


練習後は最低限の事しか自分の話をしていない
せいか彼もまた静か過ぎる美琴を心配しており、
彼女が気になっていたのか、すぐに様子を伺う。


「美琴は辞めるつもり無いて。」


「良かった。部室でマネージャーが一人になるっ
て聞いて、心細くなって辞めるんやないかって
気になったから…。」


「だから、気にし過ぎだって言ったじゃん。」


「でも人でなしと一緒やで!?気持ちが変わる
かもしれへんやろ。」


「美琴は嫌な顔一つも見せんから、読めん時は
確かにあるもんな。」


そこには、双子だけじゃなく銀島や角名も一緒
にいたらしく、彼らは地面に座って横から口を
出して、先輩達が自分を気にかけてくれていた
事に驚く美琴は、パチパチと瞬きをした。


『先輩達が優しすぎやから、まだまだ頑張らな
あかんですね。』


日々を重ねて、自分が期待に応えれていたのだ
と知る彼女は、必要とされている彼らの言葉が
嬉しくて、励まそうとしてくれた事に感謝して、
嬉し涙がほろりと流れる。


「なっ…!?ホンマに嫌々とちゃうよな!?」


『侑先輩の注文、嫌やなんて思った事無い
ですよ?』


初めて見た後輩の涙に動揺する侑は不安そうに
彼女の視線に合わせて屈んで、慌てた様子の治
は、自分の袖口を伸ばして彼女の涙を拭い、
角名が「それじゃダメでしょ」と呆れた顔で治に
ティッシュを渡した。


『すいません、嬉しくなるとどうしても我慢
出来なくなるんです。』


「泣き虫でも全然ええって!もっと自分を主張
せな。侑ほど厚かましくならんでええけど、
ちょっとは見習い?」


『ふふっ…、はい。』


「美琴ー、厚かましいは否定するとこやろ?」


銀島の言葉に鼻を赤くして笑う美琴を見ると、
放っておけなくなる先輩はもう1人増えて、
言葉には出さないけれど、わしゃわしゃと侑に
頭を撫でられる彼女を静かに見守る。


『角名先輩もティッシュ、ありがとうござい
ました。』


「…あ、うん。」


美琴が泣き止んで、お礼を言ってふんわりと角名
に笑いかけると、上手く視線を合わせられない
彼は小さく返事をして、異変に気が付いたのは
美琴以外の全員だった。


「サム…、角名ってもう少し女子と普通に会話
しとったよな?」


「ああ、必要最低限なら。」


「でも、今のはあからさまに…。」


顔を見合わせて、今までそのやり取りには意識
を向けていなかった彼らは、彼女の事に関する
事は不自然な程に静か過ぎていたと振り返り、
再び角名を見る。


小さく震えているその姿は、分かりやすく彼の
感情が表に出ていた。


「「「美琴とやっと部活以外で会話出来て
喜んどる!!!」」」


騒がしい出来事がまた一つ起こるのは、この後
の事。

今の美琴は先輩達との絆が深まった事を嬉しく
思い、そのやる気を放課後の練習にしっかりと
活かした。


「侑、美琴呼び出して1年の教室から連れ出した
ってのはほんまか?」


「お前、3年の教室でもマネージャーの弱みを
握っとるって噂になっとったで?」


「北さん、誤解です!その噂…何で?!!」


「また、勘違いさせるような連れ出し方でも
したんやろ。」


「サムも一緒に説明しろや!!!」


「お前が頻繁に美琴の教室に行きそうやから
嫌や。」


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