いつでも迎えに

つい二ヶ月前の話だというのに、その風景が既に
懐かしく、胸が熱くなった。

ゴールデンウィークに帰省した美月が母校に足を
運べば今は合宿の真っ最中で、その当時はまだ
初々しさがあった元一年生達もしっかりと今の
一年生達に指導をしている姿も見え、既に彼女
は感動しそうになる。

『凄い、皆が大人になってる。』

「…ぐすっ。」

「湯田泣くな、音が聞こえちまうだろ?
場合によったらアイツらの邪魔になっちまう。」

「まあ、俺らの先輩は来なかったお陰でのびのび
練習出来たし…な?」

体育館の扉から、そう言って入るタイミングを
失う元バレー部4人。
下から美月、湯田、花巻、松川の順で頭を乗せ、
可愛い後輩達を見守る彼らは、ひそひそと会話
しながら練習風景を見守っていた。

この度、岩泉だけは帰省の予定が合わず不在。
こちらに帰ってくると伝えれば、都合の合った
彼らが集まり、話の流れで青城まで赴いていた。

「あー、久しぶりに見るとやりてーな。」

「俺、車にシューズ積んでるわ。」

「裸足でもいけるべ?」

『顔見知りはいいとしても、他の子達が萎縮
しちゃったらダメだから。』

後輩達の邪魔になってしまうからと彼らは少し
だけ体育館を覗いた後、静かに立ち去ろうと
したら音を耳にした一人の後輩に見つかって
しまった。

「え…、美月さん?」

『あ…!』

一番に美月を見つけたその人物は、淡く抱いて
いた願いが叶い、驚きから目を丸くさせる。
そして、嬉しさから「おかえりなさい」と小さく
零し、柔らかい微笑みを向けた。

ゴールデンウィーク合宿での彼女との思い出が
強く残る国見は、宿舎の何気ない時に彼女の事
を思い出していた。

「美月さん、こっちに帰省してるのか。」

もしかしたら、きっと彼女なら…とあの笑顔が
見たくなる彼は、ここに顔を出してくれる事を
期待してしまい、その知らせを聞いただけで胸
を弾ませる。

もちろん、彼女の事に敏感な彼は何となく今日
は意識してしまい、その結果、一番に彼女と
パッチリと目が合った。

『そういえば、英に帰省すること伝えてた。』

「俺達が隠れる意味!」

「やっぱり国見が一番に美月を見つけたか。」

国見の一言から他の後輩達の注目も一斉に浴び、
結局彼らの練習に参加する事となり、美月も
久しぶりのマネージャー業に参戦となった。

後輩達が嫌がるどころか歓迎ムードに一安心して
入畑や溝口に近況報告を入れた後、岩泉にも
その楽しそうな光景の写真を送る。

「岩泉が拗ねないか?」

「案外、後輩の成長に泣いてたりして。」

「及川は見たらギャーギャーうるさそうだな。」

様々な想像を花巻達も繰り広げていると、岩泉
からは彼らしい「楽しそうで何より。」といった
シンプルな返信が帰ってきていた。

そして、何故かその後には「アイツらには気を
つけろよ。」と謎のメッセージが返ってきて、
彼女は頭にクエスチョンマークを付けながら、
首を傾けると、それを同じく目にした花巻と
松川は苦笑いを浮べる。

「だってよ。心外ね〜、松川さん?」

「本当ね、花巻君。」

「どちらかと言えば、アイツのが突拍子も無い時
あるじゃん?美月、何もされてねえ?」

『うん、至って平穏。』

思わぬ花巻からの質問に、ギクリと肩が揺れそう
になる美月は、 それを堪えて平常心を装って
答え、彼らに悟られまいとドリンクを取りに
行く素振りを見せて、自然とその場から離れる。

『いつも通りって難しい。』

その本音はみんながいない所でポツリと吐いて
岩泉には『あっかんべー!』と意地悪なスタンプ
を送り返して、ポケットにスマホをしまう。

「…あ?」

東京で眉間に皺を寄せる岩泉の表情は美月に
届く事は無く、その後の返事も読まれずに作業に
戻り、彼女は雑用をしている一年生達に声を
掛けた。

『ここは私だけで大丈夫だから、練習に参加
しておいで?』

「え…っ!!?」

戸惑う彼らに大丈夫だよと優しく返して、彼ら
が申し訳無さそうに手渡すドリンクを受け取る
と、知った影がもう一つ増えて、彼女はそれに
驚いて振り返る。

「俺が交代するから向こうに戻って。」

「国見先輩!」

「遠慮とかいらないから、大丈夫。」

「はい、失礼します!」

何故かその場に国見が現れ、後輩達に指示した
後に当たり前のように彼女の手伝いを始めるの
で、彼女は更に慌てた声を上げた。

『英こそ、練習は…!?』

「俺は一先ず息抜きなので大丈夫です。
それよりも、一人でまた美月さんが無茶しそう
なので。」

『私は全然平気なので。』

「こちらは俺がしたいだけなので。」

お気にならさずと作業を続ける彼は補充した
ボトルを籠に入れていき、重たい方を自分が
持とうとするので、変わらぬ優しさに美月は
クスッと笑った。

『やっぱり、国見先輩には敵わないな。』

「その呼び方、恥ずかしいんで止めてください。
それに美月さん達にはまだ劣ってます。」

『ううん、既に追い抜かれちゃってる。
英、凄く頑張ってたね。』

褒め言葉に擽ったさを感じているが、美月に
そう言われるとまた一つ彼女に近づいている気
がして嬉しくなり、彼の口からは自然とお礼の
言葉が出てきた。

ただ、表情にその嬉しさを出すのが下手くそな
彼は照れ隠しから口をむずむずと動かし、彼の
そんな動作も変わらないと笑う彼女は、思わず
くしゃくしゃといつもの癖で頭を撫でる。

「…子供扱いしないでください。」

『ごめん。そんなつもりは無いんだけど、やっぱ
このやり取りも懐かしいなって思って。』

「少しだけなら、お気持ちは分かりますけど。」

『さっき、英がおかえりなさいって言ってくれ
たのも凄く嬉しかったな。』

「美月さん…。」

『ただいま』と改めて返信をされてしまうと、
込み上げた思いが溢れる国見は、彼女の撫でる
手を掴んで引き寄せて、自分の腕の中へと引き
寄せる。

『…英!?』

「それくらい、いつだって言いますよ。俺が前に
美月さんから貰って嬉しかった言葉です。」

戸惑う美月に構わずに、ぎゅっと抱き締める力
を強める彼はそう告げて、顔を赤らめる彼女を
見ると、自分を意識してくれていると安堵の息
を吐く。

大人びて見えた彼女の変わらない仕草に好きだ
という気持ちがより一層強くなった気がした。

『英、そろそろ…』

「ダメ、子供扱いした仕返しです。」

『子供扱いじゃなくて、ちょっと甘やかしたく
なっただけなのに。』

「じゃあ、尚更です。俺だって美月さんを沢山
甘やかしたいので。」

『うぅ…、それずるい。』

まだ、誰のものにもならないで欲しい。
このままでいて欲しい。

「もうちょっとだけ、このまま…」

待っててくださいね。

美月を抱き締めた時のその表情を見た瞬間、以前
と様子が違うと感じ取る国見は、深くは聞かず
にそう願い、目を伏せる。

美月の想いは聞かないまま、国見の自分の想い
も告げないまま彼女を抱き締め続け、再び彼女
から伸びるその手に優しく撫でられるのは、
とても心地が良かった。





prev next




back
top