時には妬く


『クロー、入るよ?』


今日の練習はお休みで、美月は黒尾の部屋の
ドアを開けると、顔を覗かせた。


黒尾の家に遊びに来れば、彼が寝ているにも
関わらず、部屋へと上げられるのは、幼なじみ
ならではの光景で、枕を挟んでうつ伏せになる
彼を見たら、ベッドに沿うように美月はゆっくり
と腰を下ろしていた。


のんびりと彼の部屋に置いていた自分の雑誌を
膝に広げて、ページを捲る静かな音だけが響い
ていると、ベッドが寝返りで軋む音が聞こえて
きたと思えば、長い手が彼女の首元に伸びて
きた。


「あー、すべすべ。」


『ごめんね、起こした?』


黒尾の寝惚けた行動だったので、彼女も鎖骨を
撫で回すまでは許すも、その手がシャツの中に 侵入しそうになれば、ペシッと叩いてそれ以上
は阻止をする。


目線は黒尾に向けないまま、雑誌を真剣に読ん
でいる美月に少し寂しさを抱きながら、彼女
の肩越しから黒尾もその本に目を通した。


「その服可愛いじゃん。」


『うん、ほんとだ。可愛いね。』


「たまにはそんな服着てきてくれても、
いいんですけどね。」


雑誌に映るのはふんわりとした白いブラウスに
淡い色のチュールスカートで、本日の美月はそれ
とは逆のタイプでカジュアルな弛めのシャツと
デニム。


黒尾がそう言ってニヤリと笑えば、突然彼女は
パタンと雑誌を閉じて、気持ちよさそうに腕を
のばす。


そして、ベッドに横たわる黒尾の隙間に入り
込むように足を畳んで座れば、壁にもたれて
再び雑誌を広げた。


「美月さん、ここ俺のベッド。」


『お尻痛くなってきた。』


「いや、お前マイペース過ぎんだろ。」


会話を無視して、うつ伏せになる黒尾の足に
自分の足を乗っけて、雑誌を読み耽る彼女を
見て彼は苦笑いを浮かべながらも、それも
いつも通りのやり取りで、押し倒したい気持ち
を我慢しながら、彼女の温もりを味わう。


そうこうしていると、孤爪も部屋に入ってくれ
ば、そのままベッドの隅に座ってゲームを始め
だした。


静かだった部屋にゲーム音が響き、その音を
聞けば、いつもの休みだなと黒尾も再びゴロン
と寝返りをして仰向けのまま横になり、静かに
瞼を閉じていた。


「…てか、お前らなんでウチに来たんだっけ?」


「何でって。」


『合宿に必要なものの買い出し。』


しばらく間が空いて、黒尾は慌てた様に部屋の
時計を確認していた。


「おい、今何時だ!?」


『んー、お昼の2時かな。』


「やっべ、寝過ごした。
てか、お前らのんびりすんな行くぞ!」


「えー、だって外出面倒臭い。」


『だから私だけで行こうとしたのに。』


「荷物持つのが大変だろ。 あとスポーツ
ショップは誰がいるか分かんねーし。」


「クロ、本当に過保護だよね。」


研磨うるせぇ!と美月を目の前に平気で着替え
るのも彼女も慣れた様子で、視界から避ける
ように上手い具合に雑誌に目を通す。


黒尾の準備が整えば雑誌を採り上げられ、
結局、孤爪はお留守番を決め込んで、2人で
出かける形となった。


出る時間が遅かったからか、帰る頃にはあっと
いう間に夕方になっていて、夕日が眩しくて
美月は目を細めていた。


いざ買い物に出かければ、足りなかった備品も
あれこれとつい色々買ってしまい、美月一人では
持ち帰るのに大変な量になっていたので、
黒尾はほれみろと鼻で笑いながら、両手に
袋を抱えていた。


『そうですね、反省してます。』


彼の言葉は耳が痛いといったご様子で、彼女は
誤魔化すように笑うと、黒尾の片方の袋の
取っ手の半分を手伝うように手にかけた。


『クロ、一緒に持とっ。』


重さを分かち合うように一緒に袋を持って、
黒尾に見上げてにっこりと笑顔を向ける彼女
が愛しくて、黒尾もつい目を細めて優しく
微笑む。


「せっかくならこっちのが嬉しいわ。」


繋がる袋を奪えば、既に塞がった片方の腕に
それを掛けて、空いた手は彼女の手の指を
絡めて、しっかりと握りしめる。


『あ、もう…クロ!!!』


頬を染める彼女に悪戯する子供の様な笑顔を
向けて、黒尾はご機嫌に並んで歩き出した。


すると、帰る方向の先に人影が見え、その人物 は並ぶ2人を見れば、少し機嫌が悪そうに眉間
に皺を寄せるので、黒尾はそれを鼻で笑った。


『研磨、迎えに来てくれたの?』


「ほら、だから来いって言ったろ。」


彼は黒尾を手伝うことなく、2人の絡んだ指を
解いて、美月の手を奪うように孤爪が彼女の手
を引いて歩き出す。


「研磨、おまっ、荷物持てよ!」


「やだ。
クロの手もう一個空いてるじゃん。」


そう言いながらいつの間にか美月が手に持って
いた袋は孤爪が持っていて、彼女の手は離さず、
ずんずんと歩き出す。


「お前も素直じゃないよねー。」


美月に興味無い素振りを見せながら、意外と
嫉妬深くて手を出されるのは、嫌がるところが
面白くて、黒尾は揶揄うように笑ってみせる。


目立たないところだと分かれば、積極的な部分 を見せるところが尚更黒尾からすれば面白い。


ふんと鼻息を少し荒く飛ばしながら、孤爪が
彼女を見れば楽しそうに笑っているので、彼も
彼女に釣られて微笑んだ。


「美月はクロだけのものじゃない。」


小さく零した孤爪の言葉は、ちゃんと黒尾には
届いていて、わーってるよと返事をする。


誰だろうと受けて立つ。


黒尾が小さく零した言葉も、孤爪はちゃんと
聞いていて、負けないからと普段と違う鋭い目
で黒尾の方を見た。

その目はゲームのラスボス倒す時よりも真剣
で、黒尾も思わず驚く。


『宮城の名物てさくらんぼだっけ?』


「馬鹿、それは山形だろ。」


当の本人はそんなふたりの気も知らず、呑気に
鼻歌を歌いながら、宮城名物を考えている様子 だったので、なかなかこの戦いに決着がつかな
い事を悟った2人は呆れた顔で、鈍すぎる彼女 の方を揃って見た。



「てか、俺と手を繋ぐのはいい顔しないのに、
研磨とだといーんだ?」


『え、研磨はやましさないもん。』


「…それはどうかしら。」


「クロ、ホントうるさいから。」






top