隣にいたい


美月の記憶にはっきり残るのは、幼い頃に両親
と歩いた時以来で、東京駅に来るのは久しぶり
だった。

浮き足立ったチームメイトを黒尾が注意をしな
がら、駅の中を歩き、つい、美月も目移りする
ものが多く、ふと無意識に余所見をしている
と、夜久に迷子になるなよと子供の様に手を
繋がれて一緒に歩いた。


「そこ!纏まって歩けとは言ったが、手を繋げ
とは言ってねーぞ!」


「美月が迷子になるよりいーだろ。」


「じゃあ夜久、俺と変われ!」


『うーん、このままでいいかな。』


クロ変なトコ触るしと言葉を付け足し、日頃の
行いからか美月に身構えられ、勝ち誇った顔を
する夜久に嫉妬の眼差しを向けるが、喧嘩を
する時間は無いので、黒尾は顔を引き攣らせ
ながら、ホームまで黙々と歩いた。


「で、車内も結局夜久の隣かよ。」


「お前はやましさ剥き出しだから、ここは
絶対譲らねえ。」


席に座っても気に入らない様子で、黒尾は窓際
で頬杖を着いて、夜久は鼻息を荒くして、腕を
組んで座る。


美月はそんな2人に挟まれて、ちょこんと
座っており、その後ろには孤爪、山本、福永が
座っていた。


孤爪は面倒事には巻き込まれたくないと、黙々
とゲームをして、山本と福永は、外の景色を
楽しそうに眺めている。


犬岡と芝山とのんびり座る海と変わって欲しい
と思いながらも海には言い出せず美月の口から
は思わずため息が出た。


『まぁまぁ、せっかくの遠出なんだし
そんな怖い顔しないで2人とも。』


少しでも2人の機嫌が良くなるようにと、窓際
で悪態をつく黒尾にお菓子食べる?と首を傾げ
て差し出せば、彼女のあーんが彼のお気に召し
たようで機嫌は戻るも、もう片方の男がそれを
目にすれば、まもなくご機嫌が斜めになるので、
彼女は夜久にも同じ様に接する。


2人供の機嫌が戻ったところで美月はひと安心
するように1時間くらいすれば、眠気が襲って
きたのか、船を漕ぐようにうとうとし始めた。


「美月、寝れるうちに寝とけ。」


『んー。』


黒尾が自分の手を彼女の頭に持っていくと、
自分の肩へと寄り添わせ、彼女も寝ぼけ半分
なのか、そのまま自然に彼が誘導する方へと
コツンと体を気持ちよさそうに傾ける。


しばらくすれば寝息が聞こえてきて、夜久は
自分がいない時の普段の2人の姿を見せつけ
られている気がして、寂しさと悔しさをを取り
繕うように自分が着ていたジャージを脱いで、
黙ったまま彼女の膝にかけた。


「可愛い寝顔。」


ふと、彼女を見た時に夜久がぽつりと言った
言葉にちらっと黒尾も彼女の方へを目を向ける。


すると、しばらく黙ったまま彼女を見つめれ
ば、「知ってる。」と夜久には聞こえない小さい
声で返し、口元は頬杖で隠れているので、夜久
からは見えないが、その目は優しかった。

再び黒尾が窓際へと視線を戻せば、夜久は
そっとジャージに隠れた彼女の手に自分の手
を伸ばし、美月も眠りながらもぎゅっと夜久の
手を反射で握り返す。


夜久はそれに少し驚きながらも、喜びの方が
大きくて、彼らはそれぞれ、そのぬくもりを
互いに見つからないように静かに味わった。


ずっと隣にいればいいのに。


そこで考えることは両者全く同じで、そういう
時の時間というのは、本当に儚くもあっという 間に終了してしまい、到着のアナウンスが聞こ
えてくれば、それぞれ名残惜しそうに温もり
から離れ、黒尾は彼女を揺すって、夜久は声を
かけて美月を起こした。



『大変、クロどうしよ!』


仙台駅に着けば、そこからは合宿所のまで移動
移動で忙しくしていると、 そこで想定外の
ハプニングが起きて、美月の泣きつく声が
聞こえてきた。


『研磨がいない!』


「…は?」


『さっきから、姿が見えないんだけど。』


合宿所まである程度の荷物を運んで、これから
練習試合の学校へ移動する前に、美月が作業の
途中で異変に気がついて、黒尾を呼び止めた。


美月も夜久と予定を確認しながら動いていた
ので、孤爪の姿をちゃんと確認できておらず、
ちゃんと周りを見ておくべきだったと彼女は
頭を抱える。



『私、探してくる!』



「いや、見知らぬ土地をお前1人歩かせるわけ
ねーだろ。俺が行く。」


ここで待ってろと黒尾が美月の頭をポンと叩い
て、彼女に自分の荷物を預ければ、黒尾が来た
道を辿る様に歩き出し、彼女がついていこうと すれば、夜久は彼女の手を掴んで、それを
止めた。


「大丈夫だから。」


『やっくん。』


「慣れないとこで美月も仕事するんだから、
体力残しとけ。」


夜久が一言そういえば、美月はこっくり頷いて、
黒尾が歩いた道を心配そうに見つめる。


「美月、んっ。」


そんな彼女を気にかけて、夜久も手を差し出せ ば、彼女は首を傾げるので、彼女の手を取って
ギュッと握りしめた。


「不安なら繋いどいてやるから。」


恋人のように手を絡まれ、美月は少し恥ずかし
そうに赤くするも、彼を見て目を細めた。


『やっくんと繋ぐと安心するもんね。』


これでもう大丈夫だね!とふんわり笑う彼女の
笑顔は今、自分だけのもので、それだけでなく
彼女から嬉しい言葉に目を丸くする。


「だろ!」と夜久もはにかんで笑い、そんな2人
が微笑ましくも後輩達は、羨ましいと言うよう
に、邪魔をしない まま、少し離れて2人を
見守る。


「美月さんと夜久さんが眩しい。」


山本と福永も近寄れずにいて、2人を黙って見て
おり、この虚しさから一刻も早く解放されたい
と、黒尾と孤爪がすぐ帰ってくることを願う。


『研磨とも手を繋いで歩けばよかった。』


「いや、小学生かよ。」


『…じゃあ、私も小学生?』


後からの山本のツッコミに美月は悲しそうに
しょんぼりと肩を落とすと、夜久が「余計な事 を」と怒るようにじっとりと睨み、いや!男女
で違いますよ!と彼女に必死にフォローを
入れた。


すると、2人が戻ってくれば黒尾が血相変えて
ダッシュで二人の間を割るように入り、美月は
孤爪の姿を見ればほっとした様子。

すぐに孤爪に駆け寄り、安心したように美月が
抱きつけば、本当は嬉しいはずなのに素直に
なれず、目立つからと少し恥ずかしそうに孤爪
は彼女からスっと離れた。


「そろそろ、時間来るぞ。」


直ぐに槻木澤高校に向かわなければならな
かったので、海が時間だと皆に呼びかけて、
移動のバスへと皆が乗り込もうとした。


「美月、待って。」


一旦離れても美月を呼び止め、夜久は彼女の手
をもう一度繋ぎ直した。




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