みんな彼女が好き


槻木澤高校に到着すれば、黒尾達の予想通り、
都会の女子が珍しい様子で、じわじわと彼女に
近寄ろうとする人物は、いつも以上に多かった。


美月が作業に取り掛かろうとすれば、場所の
説明も兼ねて彼女に近寄ろうとする現地の選手
達を山本や黒尾が威嚇するのは、少し前から
結構頻繁に見られる光景で、彼女は止めなさい
と呆れたようにノートで彼らをパシンと叩いて
いた。


「背骨で、脳で、心臓です。」


初めての遠征参加には、美月も少しばかり緊張
をしている様子だったが、孤爪の体格を見て、
向こうの選手があれこれ言うところを黒尾が
いつものスタイルで台詞を吐くことで、場所は
違えどいつもの感覚を美月は段々と取り戻し
ていった。


『今日も安定で何よりです。』


長時間移動をしたとは思えない程、皆のいつも
どおりのしなやかさに、美月は少し見蕩れる
ように試合を見守っていた。


相手にセットを取らせることなく、練習試合は
終了し、向こうのチームが驚く様子を見ながら、
美月は小さくガッツポーズをする。


『結構なお手前でした。』


「それはそれはどうも。」


冗談交じりの一礼を互いにしながら、美月が
かっこよかったよ!と黒尾達へと眩しい笑顔を
向ければ、緩む口元を堪えながら、黒尾と海は
美月の頭を撫でる。

夜久とは楽しそうにハイタッチを交わし、孤爪
や後輩達にはわしゃわしゃ頭を撫でれば、
嫌がる様子を見せることなく、彼らは心地
よさそうに彼女を受け入れた。
恥ずかしくてそれを避ける山本は例外で。


その日はあっとゆう間に暗くなり、みんなが
お風呂を済ませたのを確認すれば、美月は入浴
の準備を初めて、荷物を抱え込む。


『ちょっとちょっと、黒尾さん。
なんで貴方が付いてくるの?』


「何でって、見張り役なんですケド。」


大浴場まで足を運べば、後ろから鼻歌交じりで
楽しそうに後を追う黒尾を美月はじっとりと
冷たい目で見るが、黒尾は気にしないといった
様子でニヤニヤと笑っている。


『1人で大丈夫なんですケド。』


「まぁまぁ、そう堅い事言わずに。」


コーチがさっき教えてくれたんだけどと黒尾が 唐突に語り始めて、美月はそれを聞けば、
どんどんと顔が青白くなっていく。


だからここ、出るらしいんだよ…と最後に不敵 な笑みまで見せられたら、薄暗い廊下が何処か 恐ろしく見えて、ホラーが苦手な彼女は体を
硬直させた。


『…クロ。』


「あ、どうした?」


何か黒い影が近づいてきて、震える指で彼女が
さす方向は黒尾の背後。
彼もずっしりと肩に重みを感じれば、恐る恐る
後ろを振り返る。


「黒尾、覗きはダメだぞ。」


黒尾と同じ体格の人物かどうか定かでは無い
ものに囁かれれば、美月も黒尾も互いに抱き
ついて、恐怖から悲鳴をあげる。


「ぎゃー!!!!」『いやー!!!!』


「ごめん、脅かすつもりは無かった。」


彼女がぎゅっと目を閉じて黒尾に必死にしがみ
ついてると、黒尾はその声の正体に気がついて、
お前脅かすなよ!と怒りの声をあげ、もう一方
からはよく知った笑い声が聞こえてきたので、
彼女はゆっくりと目を開けた。


『海…?』


「ごめん、美月。大丈夫?」


恐怖から涙を浮かべている美月の目尻をさりげ
なく海が自分の指で拭うと、苦手なものでは
無いとわかった彼女がこっくりと頷けば、
海は安心したように微笑んでいた。


『クロ、海、お願い。
お風呂上がるまでここで待ってて。』


2人のシャツの裾をぎゅっと掴んで、お願い
されてしまったら、断る人間なんている訳が
なく、2人はわかってると入口の横の壁にもた
れて立てば、彼女は安心した様に浴室へと
向かった。


「お前さ、何もしないんじゃなかった?」


「何もしないって思っていたけど、
黒尾と美月の2人を見ていたら、
何か体が勝手に動いたんだよな。」


彼女が出てくるまで言われる通りに、素直に
2人は並んで待ちながら、妙に正直な所が余計
にタチが悪い、と顔を顰めながら黒尾は海を
見る。


どうやら、先程のスマートに指で彼女の涙を
拭った行動が黒尾からすれば気に入らない
ご様子。


「黒尾、やましさ丸見えだったし。」


「…海クン、俺は至って健全よー?」


余裕持って笑う海に悔しさが混ざりながらも、
美月の見守りと称して覗こうとしていた事が
バレてしまったら、更に後が怖いので、それ
以上は彼は何も言わずで話は止まる。

彼女が入り終えたら、そこからは何も話せず、 夜久も混ざれば、4人で他愛も無い話でただ
笑い合うだけだった。


「我らが因縁の相手、烏野に女子マネージャー
がいるか否か。
俺はいない方にハーゲンダッツ。」


「えー、俺は居た方が嬉しいから、居る方で。」


「僕もですっ。」


「バカヤロウ。
こっちは黒尾さん達が美月さんにベタベタしま
くるからなかなかスキンシップ取れないのに、
向こうはそれが叶ってたら、悔しいだろうが!」


「えー…」「別に俺たちにも優しいのに。」


「は?俺だけかよ!!!万一居たとして、
ゴリラみたいな奴だったら許す!」


美月がお風呂から上がり、大部屋へと戻って
みれば、山本、犬岡、芝山が3人向かい合って、何やら賭け事を始めているているので、美月も
楽しそうに芝山の隣に並んでニコニコと笑って
いた。


「うっかり、もしかして美人のマネが居たり
したら、俺は絶対に許さないっ!」


『私はマネージャーのお友達欲しいし、
美人な人がいたら嬉しいけどな。』


涙目で訴える山本へ彼女がそう言えば、いつの
間に!と彼は驚いた様子で彼女を見る。


『…とゆうか、スキンシップも何も、
猛虎が私から距離を取ろうとしてる気が
するんだけどなー。』


「うっ…それは…。」


狼狽える山本に美月は構うことなく、布団を
這うようにいたずら混ざりで近づけば、彼女が
1歩ずつ近づく分、山本は彼女から1歩ずつ
下がる。


湯上りの彼女は頬がほんのり赤くて、今の姿は 緩めのTシャツにいつもより短めの短パン。

四つん這いでニヤリと笑う姿は、短パンが拍車
をかけているからか、前からも後ろからも少し 色っぽく見えてしまい、山本だけでは無く、
犬岡と芝山の頬も赤く染まる。


『あ、つれないぞ猛虎ー。』


「俺には、この距離が精一杯です!」


顔を真っ赤にしながら立ち上がり、彼は窓辺に
向かってか逃げるように、「その時は覚悟しとけ
よ烏野ー!」と恥ずかしさを誤魔化すように叫び 出せば、黒尾にうるせぇ!と怒られていた。


「美月も格好考えろ!」


『暑かったんだもん。』


「確かに、今の格好は目のやり場が。」


「ほら、夜久もやらしー目で見てる!」


「お前に言われたくないわ!」


黒尾と夜久が睨んで言い争う横で、海はその間
に彼女の腰元に冷えるからと言ってジャージを
巻く。


山本はその姿に平常心を取り戻せば、先程の話 を戻して孤爪に話題を振り、どちらがいいかと 孤爪に問えば、予想通り、別にどっちでもいい とのいつもどおりの感想。


「でも、ちょっと楽しみだよね。
烏野との試合。」


普段やる気の見せない脱力タイプの意外な発言
に、彼女も皆も目を丸くして驚いて、孤爪の方 へと振り向く。


『研磨、いい事あったの?』



一瞬、ワクワクした顔を見せた孤爪を見れた
ことが嬉しくなった美月は、彼の横にぴっとりと
引っ付いて、横でスマホゲームをしている孤爪
の画面を一緒に見る。


彼から返事はなかったが、彼女はにっこりと
笑ったまま、孤爪へ2日後が楽しみだねと続け て話しかけた。


「やる気ナシ男の研磨が試合を楽しみに
しているだとー!!!
てか、美月さんとその距離でどっちでもいい
とか言われるのムカつく!」


「山本、そんなに元気ならテメーだけ練習量
増やしてやろうか。」


「黒尾、後輩に八つ当たりすんなって。」


「してねーし!!!」



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