良いライバル
その後2日間も淡々と練習試合をこなし、皆の
体が宮城に慣れてきたこの最終日に念願の烏野
との練習試合。
『あ、ハーゲンダッツゲットだね。』
因縁の烏野高校と戦う会場に足を運んで早々、
山本が発狂をする横で喜ぶ声が聞こえ、美月が
犬岡、芝山と楽しそうにハイタッチをする。
山本は向こうに美人なマネージャーがいる事を
悔しがり、夜久が烏野の菅原という同じ学年の
セッターと軽く挨拶をする横で、美月は声をかけ
られ、仕事に切り替わると必要な荷物を持ち
出した。
「マネージャーの清水です。
今日はよろしくお願いします。」
『音駒の牧野です。こちらこそ、今日はお世話
になります。』
美月はそのマネージャー、清水から説明を聞く
中で彼女と仲良くなり、お互い下の名前を呼び
合いながら、彼女と一緒に楽しそうに作業を
して、そこから試合までの流れは順調だった。
「黒尾、やっとお前も目が離せるな。」
「ホントね、何も言えねーわ。向こうに
マネージャーがいて、助かった。」
夜久が黒尾の方を叩きながら、彼女達の姿を
微笑ましく見守る。
美月に近寄る人物に同性がいなかったからか、
彼女もやっと仲間以外に向けた笑顔が安心し
きったふんわりとした表情に変わっていた
ので、黒尾もその顔を見れば目を細めた。
『猛虎、ナイスキー!』
この合宿中の練習試合で、美月が面白いものを
見つけたように目をキラキラと輝かせて、ここ
一番に楽しそうに試合を見る。
彼等も彼女同様ここ一番でいい試合だと実感
しながら球を繋ぎ、烏野の攻撃を何度も何度も 仲間達が止める度に、美月はナイスレシーブ!と
精一杯、仲間に向けて思い切り叫んだ。
「これが、繋ぐということだ。」
猫又が言った言葉美月は深く頷き、何度も何度
も繋がれていくこの景色を彼女はとても綺麗
だと見上げる。
3試合続けて、今まで長く感じていたはずの
練習試合はあっという間で、空は夕日が赤く
染まっていき、それぞれに友情が芽生えて
いた。
『楽しかったなー、今日の練習試合。』
「うん、私もすごく楽しかった。」
『私達、両思いだね。』
ボトルを清水と洗い終えた美月はクーラー
バッグを持ち忘れていたので、ボトルを抱えて
体育館に入れば、床へカランと自分の不注意で
落としてしまい、両手が塞がっていた彼女は、
しまったと顔を歪ませた。
「大丈夫?手伝いましょうか。」
コロコロと転がったボトルは菅原の足元へと
転がって行き、彼女は彼の顔を見上げた。
『すみません、ありがとうございます。』
ボトルを拾ってくれた菅原にお礼を言いながら、
美月が満面の笑みを向けると、彼の動作は
ピタリと止まり、菅原の顔はほんのりと赤く
なっていく。
あ、どうしよう。この子可愛い。
『菅原君、優しいんですね。』
「名前…。」
『さっき呼ばれてるの聞こえてきて、覚え
ちゃいました。』
彼女が発する自分の名前を耳にすれば、胸が
高鳴って、少し息苦しくなり、菅原は自分の
動揺を隠すように、平然を装いながら、彼女
のボトルを何本か奪うように持って、彼女が
運ぶのを手伝った。
「…うん、俺が運ぶよ。」
菅原の発した一言から、黒尾にも夜久にも恋に
落ちた瞬間ははっきりと目に見えて伝わり、
夜久は菅原と仲良くなれたこともあり、複雑
そうな顔を見せ、もう片方の黒尾は、また敵が
増えてしまったとあからさまに嫌そうに顔を
歪ませて、見つめ合う2人を眺めていた。
「やっくん、ライバル増えたかもよ。」
「増えたのは、俺だけじゃねーだろ。」
どうも、ウチのがすみませんと黒い笑みを見せ
ながら黒尾が近寄るので、美月はちょっと!と
怒りながらボトルをしまい、菅原はそんな顔も
するのかと驚きながら、彼女を見る。
でも、彼は素直な彼女に尚更魅力を感じて
面白がり、黒尾は自体が悪化した事に眉間に
皺を寄せていた。
『東峰くん、ちょっと止まって!』
「えぇっ!?あ、はい、すみません!」
「旭さん、落ち着いて!あと、彼女に合わせて
しゃがんで!音駒のマネさん、めっちゃ
頑張ってジャンプしてる!」
そして、その後も髪の毛が解けそうな東峰の
髪の毛を美月が直してみたり、海と澤村が会話
している所へと混ざって楽しそうに談笑して
みたり、確実に何人かを彼女が無意識に落とし
たのを確認した黒尾からは、ただ不満が次々と
募っていくばかりだった。
「次は負けません。」「次も負けません。」
別れの挨拶と共に澤村と黒尾がら互いに力を
込めて相手の握り締めれば、烏養と直井も同じ 行動を取っており、夜久と美月が大人気ない
行動に苦笑いを見せて、それを止める。
「また、会えるのを待ってます。」
菅原が美月にかけた言葉を夜久が、
少し
罪悪感を秘めながら、菅原から遮るように壁に なり、でも相手には不快にさせないように俺達 も!と明るく笑って誤魔化して、その言葉を
彼の元へと返す。
彼が少し寂しそうに笑う顔を複雑な気持ちで
見る夜久に、黒尾はニヤリと笑いかけた。
「ふーん、リベロやるじゃん。」
「黒尾、余計な事言うなよ。
こっちは、穏便に済ませてーんだよ。」
孤爪と日向が会話しているのを嬉しく見ている
横で、美月も潔子と連絡を取る事を約束すると
その場を後にして、満足そうに歩き出した。
「美月ちゃん、ご機嫌ね。」
『ここに来て良かったね。』
「あぁ、そーだな。」
『研磨にも私にも友達が出来たことも
すごく嬉しい。』
友達が出来るだけで済むならいーけど。
上機嫌で、鼻歌混ざりで歩く美月を黒尾は隣で、
じっと見る。
そして、美月の指を絡む様に手を取り、彼女
に有無を言わさずそれを引っ張った。
『ちょっと、クロ!!!』
「お前、浮かれて迷子になりそうだから捕獲。」
『それは、研磨じゃないの?!』
「え、俺はもう大丈夫だし。」
嫉妬を紛らわすように彼女の手を握れば、横に いた孤爪は無関心に見せながらも、でも、俺も
不安だから繋ぐと彼女の手を取り、3人並ぶ姿 は妙に恥ずかしいものがある美月は、困った
ように顔を顰める。
「お前ら、子供か!」
「はーい、やっくん残念。
定員オーバーだからもうアウトですね。」
『ねぇ、私達は高校生だよね?』
黒尾の発言が気に入らない夜久が、黒尾の足
だけをガシッと膝を蹴れば、美月も釣られて
転びそうになるので、慌てて2人が彼女を
支えるのだった。