戦友と共に
本番というものは、どうしてこんなにも早く
訪れてしまうものか。
練習試合は順調だった。
上手く皆のサポートは邪魔をせずに、ちゃんと
出来ていただろうか。
ぐるぐると美月の頭の中で色んな思いが頭の中
を駆け巡り、緊張しそうになるも目の前の赤い
大きな背中のお陰で、何処か冷静に落ち着ける
自分がいた。
「黒尾、お前そこをどけろよ。
俺は美月ちゃんに話しかけてんだ!」
「え、木兎さんの幻覚じゃなーい?
美月ちゃんってなんの事です??」
インターハイ予選、初日。
試合開始前の色んな学校の選手が集う中、梟谷
学園のエースはキョロキョロと辺りを見渡し、
お目当てのあの子を探していた。
そして、彼女を探しているのは彼だけでは無く、
木兎の後輩、赤葦も今日の限られた時間内で、
絶対に彼女に会おうと決意して、小柄な彼女を
少し目立たせてくれる仲間と揃えた真っ赤な
ジャージを着ている事を今日ばかりは感謝した。
欲をいえば、同じ学校ならここまで探さずに
毎日彼女に会えるのにと、彼らに思う所はある。
しばらくすれば、美月を見つけて木兎が嬉し
そうに彼女に声を掛ければ、それを遮るように
彼女の目の前には、彼らから見れば邪魔者の
黒尾が鼻息を荒くして立っていた。
そして、彼女とコミュニケーションを取らせて
なるものかと、彼女の壁となり、木兎の前で
眉間に皺を寄せながら、彼らは先程の会話を
する。
どこか安心をする馴染みのやり取りに黒尾の横
からひょっこり顔を出せば、木兎の満面の笑顔
と赤葦の優しく微笑む顔が目に入り、彼女も
同じく2人に笑顔を返した。
「お前っ、顔出したら隠している意味
無くなるじゃねーか!」
「黒尾さん、水臭いですよ。
癒しはみんなで分かち合いましょう。」
『木兎君も赤葦君も久しぶり。
私も馴染みの顔ぶれ見て安心したい。』
「俺も美月ちゃんの顔拝んどかないと、
気合い入らねーもん!」
美月が黒尾の隣に並んで2人と向かい合い、
木兎は彼女が前に出れば待ってました!とその
手を握ると、緊張からか少し冷たくなっており、
自分との温度差に驚いていた。
すると、さり気なく赤葦がその手を奪い取って、
ぎゅっと彼女の手を温めて、これで大丈夫です
ねと優しくさすれば、少し照れ臭くなった
美月の頬は、赤くなっていた。
『あ、ありがとう赤葦君。』
「ちょっと、うちのマネージャーを
誑かさないでくださいません?」
赤葦はその手をしばらく握っていたかったが、
そっちにもマネージャーいるだろうと、黒尾が
その手を払って、油断も隙もねぇと悪態をつく。
すると、「あー、いたいたー。」と遠くから、
間延びする声が聞こえて来て、美月は近づいて
来たその姿を目にすると、嬉しそうに彼女も
近寄っていた。
「そろそろ集合するよー。ってなるほど、美月に会いに行ってたワケね。」
『雪絵ちゃん久しぶりー!』
久しぶりの再会を喜んで、嬉しそうに抱きしめ
合う二人は、昨年の夏合宿で、仲良くなった
マネージャー仲間。
その頃は正式なマネージャーでは無かった為、
そこから少し間が空いて、次会えたのは新人戦
での再会で、久しく会えなかった友人を満足
そうに、撫で回していた。
「美月見たら癒されるわー。
てか、大きくなっちゃってー。」
『同じく、雪絵ちゃんに会えたの嬉しい。
大きくはなってないかな?』
背丈を気にして美月は自分の頭上を手で掠める
と、彼女はそっちじゃなくてと首を横に振り、
彼女の2つの柔らかい部分をむぎゅっと掴む。
「あー、やっぱ柔らかい。マシュマロみたいで
食べちゃいたい。」
『んん!?ちょっと、ここ公共の場。』
白福の後ろには木兎達が、そして美月の後ろ
には、黒尾とトイレから戻ってきた夜久が後ろ
にいたので、他の人間からは目に入らないが、
白福の予想外のスキンシップを男達は羨ましく
思いながら、目のやり場に困っていた。
木兎は指を咥えて、見つめていたのだが。
「女子同士だからなせる技!! クソっ、
ゆっきーが羨ましすぎる。
俺だって美月ちゃん触りたいし揉みたい。」
「木兎さん、残念ながら気持ち悪いくらい
全部言葉に出ています。」
つい見たらと下を出してはにかむ白福は、すぐ
に手を離してヒラヒラさせて、美月はもう!と
怒りながら、胸元をぎゅっと自分の手で覆う。
じゃあ、また後でと手を振って踵を返し、木兎
達を呼べば、「ゆっきー、俺と握手しない?」と
白福に手を差し出していた木兎は、彼女にその
手を黙って払い除けられていた。
赤葦は丁寧に一礼してその場を去り、そんな
3人の背後を彼らは嵐が去った様な顔で見届け
て、夜久が「あいつら、ある意味すげーよな。」
と一言零せば、黒尾も美月も彼の言葉にコクコク
と頷いた。
『私も雪絵ちゃんの余裕見習わなきゃ。』
「俺も緊張解すために触っていい?」
美月にそう聞いた黒尾の両手が彼女の胸元前で
動き出すので、いいわけないだろ!と夜久が
やましい動きを見せる黒尾の手を見事に叩く。
「もう、またやってる。」
「そろそろウチも時間来るぞ。」
黒尾と夜久のやりとりを見飽きた様に、孤爪が
ため息を履いて、海の呼び掛けに美月も2人の
背中を押して、体育館へと誘導する。
押された背中は2人を優しく撫でていて、その
彼女の温もりがやる気を導き出して、2人も彼女
の背中にそっと触れた。
「梟谷メンバーに会えて」
『良かったと思う所は』
「負けれねーなって思うトコっすかね。」
並ぶ3人の思うところは同じ箇所にあって、
行きますかと笑い合う。
俺達は血液だ
滞りなく流れろ
酸素を回せ
脳が正常に働くために
仲間達は円陣を組んで、美月もその輪に混ざり、
黒尾の台詞を聞きながら、目を閉じてゆっくり
と息を吐く。
『今日はイケる気がする。』
彼女の予言通り彼らは見事に勝ち進み、予選は
突破する事が出来た。
もちろん、梟谷学園も予選は突破済みで、問題
はここからだよなと黒尾は対戦表を見ながら、
苦笑いを浮かべていた。
『大丈夫だよ、大丈夫。』
帰りの電車で彼女は黒尾のジャージをぎゅっと
握り締め、そうひたすら唱えるように呟いた。
黒尾も孤爪も、その言葉はどこか頼もしく聞こ
えてきて、孤爪が「美月が言うなら、きっと
大丈夫。」と納得する様に頷き、黒尾も彼と
同じく「そうだな。」と言って、目を伏せた。
「よしっ!!音駒も勝ち残ったみたい
だからまた美月ちゃんに会える!」
「木兎さん、声大きいので抑えて。」
『ねぇ、クロ。あれって…。』
「あっちを見るな美月、他人の空似だ。」