油断出来ない


初めて出会ったはずなのに、同じリアクション
を取られてしまえば、以前からよく知っている
と美月は錯覚を起こしそうになる。


すらっとしたその綺麗な女性は、そちらも
初めてなはずの美月の姿を目の前にすれば、
「本当に妖精みたい!」と喜んで抱きついて
きた。


「可愛い、柔らかい、いい匂い。」


そっくりそのままお返ししたいと、以前抱き
しめられた時と同じ感情を抱きながら、彼女を
受け止めていると、珍しくその弟はダメだよ!
と彼女にまともな言葉をかけていた。


「姉さん、美月さんビックリしてる。」


「ごめんなさい、レーヴォチカ。
あまりにもこの子が可愛くて、つい。」


『レー…ヴォ?』


「姉さんが俺を呼ぶ時の愛称です!」


『なるほど、お姉さん!!!』


アリサという綺麗な女性は灰羽の姉で、忘れ物
を彼に届けに来たらしく、キョロキョロと
困った様に会場を見回していた。


そこをたまたま通りがかった美月が、彼女へ
声をかければ、彼女は同じジャージを着ている
美月を見て、弟が前から話をしていた人物だと
気が付き安心したらしく、思わず彼女を抱き
しめたという。


「ごめんなさい、あなたに会えたことが嬉しく
なってしまって、つい。」


『私は大丈夫です。それに、忘れ物も無事に
リエーフ君が受け取れたみたいでよかった。』



いつも弟がお世話になりますと、彼女が深深と
お辞儀をして、美月もそれに釣られてしまい、
深々と同じように頭を下げる。


「美月の奴、何やってるんだ?」


「美しいと美しいのコラボレーションが
俺には眩しすぎるぜ、夜久さん。」


互いに微笑みあっていると、他の仲間達も彼女
達の元へと集まって、灰羽の姉に会えた事に
少し喜びながら挨拶を交わし、この後の彼女は 用事があったらしく、その場を後にした。


『アリサさん、一人で帰って大丈夫かな。
変な人にナンパされなければいいけど。』


「おい、お前が言うかよ。」


彼女を見届けながら、美月がそう言って、心配
していると、隣にいた黒尾は、彼女の発言に
呆れたようにため息を吐く。


時間だから行くぞと彼女の手を引いて、体育館
へと足を運ぼうとすると、そこでまた木兎に
出くわして、足止めを食らうので、黒尾は再び
ため息を吐いた。


「はい、彼女と会話したければ事務所を
通してください。」


「お前、ほんとSPみたいだよな。」


『ごめんね、木兎君。これから
もう時間ないみたいで。』


「いーよー!可愛い顔拝めたし。
また電話しよーなー!」

さらっと木兎が彼女の容姿を褒めるのは、美月には
未だになれない行動で、かぁっと彼女の頬は
赤くなる。

「行くぞ」とそれが気に入らない黒尾は、そう
言って彼女を引っ張って前進し、互いに手を
振り会い、別れれば、黒尾は二人の会話に
引っかかり、手を引く彼女の方へと凄い形相
で振り返った。


「お前さ、いつの間にアイツと連絡先を交換
していたワケ?」


『前の新人戦の時。あ、赤葦君ともよく連絡
を取るよ!』


「アイツら本当に油断も隙もねーな。」


黒尾は聞きたくなかった情報を耳にして、赤葦
のスムーズなやり取りはすぐに頭に浮かんで
しまい、同じことを考えた夜久まで、ため息を
吐くので、彼女は困った様にキョロキョロと
二人を見ながら、どうしたの?と顔色を伺った。


「もう今日は俺達の元から絶対に離れない
コト。」


2人の凄む顔に、美月の返信は頷くしか選択が
無かったので、コクコクと首を縦に降れば、
黒尾にもう一度念を押されて、そのままコート
へと向かった。


「美月さーん!」


観客席側にいる山本の妹のあかねが、彼女に
嬉しそうに手を振って、美月もその姿を見かけ
れば、頼もしい彼女の姿にホッとするように
あかねに微笑みかけた。


前までは、試合が終わればあちらで黒尾達を
応援していた事が既に懐かしい。
気合いを入れるべく、自分の頬を叩いてボール
籠を威勢よく彼女は運んだ。


『猛虎、頼もしい応援と私達の期待にしっかり
応えてね。研磨はもう色々任せてます。
福永の攻撃も大好きだよっ!!!

走は、まだポジション慣れしてないかも
だけど、大丈夫。いつも通りで。
リエーフと優生君は一緒に声出してこ。』


互いに挨拶が済み、円陣を組む前に一人一人の
モチベーション上げるように、美月はちゃんと
相手の目を見て後輩達に励みの言葉をかけて
行く。


昨年の秋頃のよそよそしさは無くなり、彼女の
それはもうすっかりと板についていて、彼らも 彼女の一言を聞かないと落ち着かないといった
様子だった。


『それから、いつもの皆様は…』


馴染みの3人にはもういいかな?と悪戯混ざり
の笑顔でそう言えば、「おいおい」と揃った
ツッコミが返ってきて、彼女はケラケラ笑って、
分かってますよと彼らの目の前へと立つ。


『カッコイイのは十分知ってるから、
私だけじゃなく、周りも驚かそうか。』


彼女の言葉を聞けば、3人は満足そうに背を
向けて、彼女は彼らにその期待を託すように
その背中を強く押した。


「んじゃ、いつものやっときますか。」


調子よく勝ち進むも準々決勝では、優勝候補の
井闥山学園と当たってしまい、インターハイ
予選はベスト8で留まってしまう。


『悔しいけど、カッコよすぎ。』


佐久早聖臣の攻撃は言葉を失う程の強さを
秘めており、敵ながら天晴れの一言しか、
出てこなかった。


自分の仲間達とは違ったそのしなやかさに、美月は
目が離せずに魅せられて、全国への道のりの
険しさを思い知らされている様だった。


「勝ち進まなきゃ意味がねーよ。」


このままじゃダメなんだ。


黒尾はそれ以上はなにも言わなかったが、
美月からは
しっかりと彼の意思は伝わっている。


美月はかける言葉が見つからず、悔しそうな
彼の背中を黙って、見るしか出来ない自分への
悔しさに、強く自分の拳を握りしめていると、
ちょんちょんと彼女の背中に触れて、もう1人
の幼なじみは顔色を伺うように、彼女を見て
いた。


「美月、そんな顔しないで。」


『…研磨。』


「まだレベルアップの時間はある。…だから。」


そんな美月の様子に気がついた孤爪は彼女を
心配してからなのか、「考え過ぎないでね。」と
彼女の手を悔しさを分かち合うように、ぎゅっ
と孤爪の手が、優しく包んでいた。


『ありがとう、そしてごめんね。』






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