戦いの翌日
インターハイ予選翌日、合宿とは比べ物になら
ないくらいの倦怠感に、美月 は瞼を開けるの
が、何処か重たく感じていた。
『んー、今って何時?』
「おっと、意外とすんなり起きたな。」
背後から温もりを感じて目を覚まし、美月が
寝返りを打とうとすれば、上手く体を動かせず、
何かに抱きしめられている感覚に、彼女は一瞬
固まった。
よく耳にする低い声が聞こえてきて、何故か
大きな手は何故か胸元にあり、美月の胸を覆う
ように柔らかさを堪能中。
その状況に美月は顔に熱が一気に集中した。
『んんっ!?何でクロがここにっ?』
「お前が絶対に寝坊すると思って、迎えに来た
ら、おばさんが部屋に上げてくれたんだよ。」
先手を打って来た黒尾が、まだ余裕があるから
と美月の横へと添い寝をして、彼女が起きるの
を待っていたらしく、余裕のない彼女とは真逆
の態度で、ニヤニヤと笑っていた。
『クロのバカ!もうっ、どこ触って…』
「いやお前が寝返り打つから、ちょうど
ここにフィットしちゃってさー。」
『そんな訳ないでしょ!』
「ほらほら。時間が無いんだから美月ちゃんは、
服を着替えて。」
抵抗する彼女に構うことなく、黒尾はパジャマ
のボタンをプチプチと外していくので、彼女は
更に顔を赤くさせて、『自分でやります!』と
怒り出す。
すると、トントンとノックオンが聞こえて、2人
が驚いてビクッと肩を揺らすと、孤爪も彼女を
迎えに来たのか、入るよ?と尋ねる声が聞こえ
てきて、ガチャリとドアがゆっくりと開いた。
孤爪が中に入れば、美月の服がはだけた姿の
隙間から下着がチラ見えしていのたか、孤爪は
顔を真っ赤にさせて固まり、そして彼女の背後
に寝そべる黒尾の様子に気が付いて、孤爪は
彼を鋭く睨んだ。
「え、朝から何してるの?」
『違うの、これはクロが。』
「大丈夫、美月からはそんな事しないの
ちゃんと分かってるから。
クロは美月のベッドから降りて。」
「へーへー。」
両手広げて黒尾が降参ポーズを取れば、孤爪は
ずるずると彼の手を引いて、彼女の部屋から
出ていった。
それから美月の支度がすぐに整えば、3人は
いつもよりも遅めの電車で、朝練は本日は無い
ので、のんびりと学校へと向かった。
教室に入れば、夜久もいつも通りに美月に
笑顔で明るく挨拶をして、その時は落ち込んだ
様子を彼女には見せなかった。
だが、授業中ふと美月が目線を向けると、彼は
考え込んだ顔を時折見せ、そんな夜久の姿を
目にすると、彼女の胸もなんとなく締め付け
られている気がした。
私達はこれからどうするんだろう。
部活が出来る時間は限られているが、受験生
でもあるので、勉強の時間も限られてしまう。
黒尾はきっと続けると言い切るだろう。
だけど、夜久は?海は?とぐるぐると色んな
気持ちが頭の中に駆け巡り、つい後ろの黒尾に
も目線を向ければ、彼と目が合ってしまった。
彼にはそんな美月の心の中が読めているのか、
余所見すんなと口パクで彼女へ伝えれば、彼女
も焦ったようにノートを取り出し、それからは
彼らに目を向ける事はやめた。
夜久ばっかり見てんじゃねーよ、馬鹿。
「引退しねーからな。」
昼休憩に3年生だけが集まって、夜久がそう言い
切ってご飯をかきこめば、黒尾は「いや、俺
だってしねーし。」とキョトンとした顔で、
箸を止めた。
海ももちろんと2人に続く様に頷いたら、美月は
3人の様子にほっとしたのか、ぎゅっと夜久の
シャツの裾を掴んで、『よかった。』と言葉を
漏らす。
「ん?どうしたんだ美月。」
『やっくん、授業中に考え込んだ顔してた
から、ちょっと心配だったんだよ。
引退するとか言い出すかと思って。』
「えっ。美月、俺の事見てたの?」
『そうだよ、だって気になるんだもん。』
「牧野さん、授業中によそ見するの
やめてくださーい。」
『だってだって、マネージャーだもん。
皆の進路だって気にかかるし、
コンディションもちゃんと見なきゃ!』
引退とかじゃなくても、落ち込んでたらどう
しようとか…と少し目を潤ませて、彼等を
想っての言葉が次々と出てくる彼女へ、なんと
声を掛けようかと、3人は嬉しさから、上手く
言葉が出て来ない。
「そうだよ…な。心配かけて悪い。」
「そんなに、俺達のこと気にかけてくれてた
とは思わなかったわ。」
「俺達の事をしっかり考えてくれてありがとう、
美月。」
夜久が切り出した言葉に続くように、黒尾、海
もそう言って彼女の頭を撫でると、彼女は少し
恥ずかしそうに、それを受け入れた。
「後輩ももう少しちゃんと育ててかねーとって
トコもあるしな。」
「それも一理あるな。」
「てか、色々と心配しかねーわ。」
『なー…るほど、心配だよね。』
午後練は更に気合いが入っており、皆が落ち
込む間もなく、練習も仕事も押し寄せてやって
来た。
後輩達はこんなに頼もしかったろうかと思って
しまうくらい、昨日の悔しかった部分を徹底
していた。
彼らの様子から、猫又も直井も満足そうに彼ら
の様子をニコニコと笑いながら見ており、美月は
少し怪訝な顔をして、猫又の様子を伺った。
また、猫又先生が何かを考えてる。
美月の考えていることも、猫又にはお見通し
なのだろうか、楽しみはこれからだよと彼女に
もそう言って笑いかけるので、彼女は少し驚い
て、肩を跳ねらせた。
期待する当人達は片方は先輩にドヤされ、もう
片方は只今バテバテ中の模様。
美月は大丈夫かなぁと苦笑いを浮かべ、綺麗
に折りたたんだタオルをみんなに渡すべく、
歩き出した。
「美月さーん、褒めてください!」
「てめぇ、褒められてーなら今のは死ぬ気で
とれ!!!」
「美月もうダメ、休憩。」
『こら、研磨。またクロか猛虎に怒られちゃうよ?』
「オラ、研磨!サボらず上げろ。」
『研磨、今年の合宿の体力は持つ?』
「うわぁー、今考えたくない。」
「研磨、お前やたら美月にベタベタすんのは、
朝の仕返しか?」