一緒にいたい
「あれっ、美月もここで勉強?」
『うん、家だと集中出来ないから。』
テスト期間に入り、部活は本日は
ちょうどオフが重なり、勉強日和。
夜久が提出物を持っていった後に
図書室で勉強をしようと足を運ぶと、
先程別れたはずの美月がそこにいて、
夜久は目を丸くして驚いた。
「それなら、一緒に行けばよかったな。」
『ホントだね。』
隣の席が運良く空いており、夜久は
もちろん彼女の隣に座った。
そして、いつも彼女の横にいる煩い
人物の姿も珍しくそこには無い。
キョロキョロと警戒するように辺りを
見回し、難しい顔で彼を探しているので
彼女は夜久が面白かったのか、クスクス
と笑いながら、『クロはいないよ。』と
答えていた。
『用事があるからって先に帰った。』
「そういや、なんか言ってたな。」
『そうそう。』
会話をしながら、隣でノートに書かれた
彼女の文字に目線が行って、夜久は
見蕩れるように彼女の字を見た。
「やっぱり、美月の字は綺麗だな。
俺、美月の字読み易くてめっちゃ好き。」
『えへへ、ありがとう。
やっぱり、やっくんにそう言われると
なんか照れるなー。』
「これ、本音だかんな?あ、そうだった。
ちょうど良かった。美月の英語のノート
借りていい?美月のが分かりやすくて。」
『ん、了解。ちよっとまってね。
ちょうどここにあるから…。』
彼女が自分の鞄の中からノートを
取りだし、夜久にはいっとそれを
渡すと、彼も受け取り机に広げた。
「サンキュ。あーやっぱ、美月の
ノートが1番だわ。」
『お役に立てたなら、光栄です。』
ニッコリ笑う彼女に夜久も笑顔を返すと、
今度は互いに自分のノートと見つめ合う。
大好きな子が隣にいるのは新幹線以来。
学校の席もなかなか隣にはならないので、
この距離は貴重な時間。
なのでつい、夜久は隣の彼女に目が行き、
集中している彼女も素敵だなと幸せを
噛み締めながら、自分も再び勉強に
集中した。
下校の合図の鐘が鳴ると共に彼らも
時間の早さに驚きながら、ぐんと
自分の腕を伸ばす。
『やっくんビックリ、もうこんな時間。』
「下校ギリギリまで勉強するって
初めてかもな。」
『私も!やっくんが一緒だからかな。』
付き合ってくれてありがとねっと
彼女が嬉しい言葉を夜久にかけるので、
彼は口元が緩みそうになった。
「俺も美月と一緒でよかった。」
そろそろ帰れよーと教師の呼び掛けを
聞きながら、美月も夜久も荷物を片付け、
彼女に手を差し出した。
「美月、一緒に帰ろ。」
『うん、帰ろっか。』
黒尾の時とは違い、彼女は何の躊躇いも
無く夜久の手を握り返し、立ち上がった。
そして、そのまま図書室を後にし、
夜久は2人きりの下校に胸を弾ませ
ながら、階段をゆっくりと下りた。
『やっくんと2人で帰るの初めてかな?』
「そーだなっ。いつも帰る時は
邪魔者がいるし…。」
夜久は顔を顰めながらとある人物を
頭に浮かべ、彼女は首を傾げ、
彼はせっかくの二人きりなので、
考えることを直ぐに止めた。
『じゃあ、また明日。』
彼女といるとこんなに楽しいものか。
大した事ない会話も通り道にある
コンビニのアイスの味もなんとなく
いつも味わうものと違う気がする。
様々な感動が夜久の中で駆け巡ると、
あっという間に別れ道まで辿り着き、
薄暗くなっている空を見て、
彼女1人だけ歩かせるには不安な色。
まだだ、もう少しだけ一緒にいたい。
1人にさせちゃいけないと夜久の体は
勝手に反応して、気がつけば彼女の
手を掴んでいた。
「美月、もうちょっと。」
夜久は首を横に振って、先に進もう
とする彼女の手を繋ぎ、彼の予想外
の行動に美月は驚いて目を丸くした。
「危ないから、駅まで送る。」
『え、でもそしたらやっくんが帰るの
遠回りになっちゃう。』
「いいから、俺が送りたいんだよ。」
もうちょっと話しようぜと彼女に
笑顔を向けると、彼女もありがとうと
微笑み、優しく握り返されたことに
胸がまた喜びで締め付けられそうに
なりながら、一緒に前に進んだ。
『よかった。実はお恥ずかしい話、
この前痴漢にあったから、やっくん
一緒に帰ってくれたら頼もしい。』
「お前、それ早く言えよ!!!
1人にさせたら危ねーやつじゃん。」
『心配かけたくなかったんだもん。
クロが助けてくれたし…。』
「悔しいけど、黒尾に感謝だな。
お前はもう少し可愛いって自覚持てよ。」
『そんなこと言ってくれるの、やっくん
だけだよ?!全然、可愛くないし。』
「可愛い。」『可愛いくない。』
何度も互いが同じ言葉をかけながら、
なんだよこの争い!と笑い合う。
そして、少し恥ずかしそうに夜久を見て、
この話はやめよっかと彼女が話題を
切り替えて、話は明日の練習の話に
なったり、授業の話になったり、
他愛も無い話を沢山してい
恋は盲目といったところなのか、
全然周りが見えていなかった自分を
夜久は何処か可笑しくなる。
話に夢中になっていたからか、気が
付くと、辺りがきらきらと眩しい
照明に彩られ、駅の周りの店の照明に
2人は照らされ、どうやら駅まで既に
着いていたようだ。
「電車は1人で大丈夫なのか?」
『大丈夫!さすがにそこまで迷惑
かけれないよ。』
全然、迷惑なんかじゃない。
寧ろ、もっと俺を頼ってくれよ。
彼がそう言いかけたところで、
「美月!」と彼女を呼ぶよく知った声が
聞こえてきて、夜久はその人物を
見て顔を歪ませた。
『クロ!!?』
「えー、お前用事あったんじゃねーの?」
「あ?すぐ済んでコイツの家寄ったら
帰ってきてねーって言うから…」
美月を迎えに来た。
さも当たり前のように黒尾が夜久に
そう答えたので、夜久は呆れた様に
ため息を吐いて彼を見た。
「お前って、ほんとーに過保護。」
「そういうやっくんこそ、わざわざ
遠回りして美月の騎士をして
くれてんじゃん。」
ありがとうと言いながらもここからは
自分の仕事だと彼女を奪うように
黒尾が自分の元へと引き寄せるので、
目の前の不快な光景に夜久の眉間に
皺が寄った。
「別にお前の為じゃねーよ。」
お前の礼なんかいらねーよと言って
彼女と黒尾の家の距離を羨みながら、
このどうしようもう無い距離は諦めて、
夜久は2人に背を向けて手を振る。
『やっくん、今日は本当にありがとね。
やっくんが一緒にいてくれたから、
私、すっごく嬉しかったよ!!!』
呼び止める声に夜久が振り返ると、
真っ直ぐな瞳で美月は彼にそう言い
彼女の笑顔や素直な言葉はもちろん
自分だけの物で、そんな彼女を見れば
距離なんて関係ないと実感する。
「もう、お前のその顔反則。
やっぱり可愛過ぎだから。」
不意打ちの褒め言葉に顔を真っ赤に
する美月の顔はやっぱり何度見ても
飽きなくて、夜久はからかう様に笑って
彼女の元へ寄り、クシャリと頭を撫でた。
早く自分だけのものになればいいのに。
そんな願いは目の前の人間に邪魔を
されるので、悔しいが未だに届かない。
「黒尾、美月は任せたぞ。
てか、お前が手を出すなよ。」
「言われなくてもわかってますぅー。」
夜久は目を細めて「また明日な」と
隣で顔を歪ませた黒尾は無視をして、
彼女にだけ声をかけると、再び彼らに
背を向け歩き出した。