願いを一緒に
「お前、それ何持ってんの?」
駅のホームで行きの電車を待っていると、
美月は今日は珍しい袋を片手に持っていた
ので、黒尾は不思議に思い話をかければ
美月は嬉しそうに笑顔を向けた。
『これは、放課後のお楽しみですね。』
彼女が鼻歌を歌いながらそう答えたが、
袋の隙間から見えたものと今日の日付
を確認したら、何となくわかって、
孤爪は「あ。」と声を漏らしたが、彼女の
為に彼はわざと知らないふりをしておく。
美月に研磨どうしたの?と聞かれても、
孤爪は首を横に振って、スマホへと視線
を落とし、そのまま電車が来たので、
3人はそれ以上は会話はなくそれに乗った。
練習が終わり、彼らが着替えている横で
彼女は朝から内緒にしていたそれを袋から
すぐに取りだして、椅子へ登ると窓際へ
飾り出し、彼女が転ばないように黒尾は
さりげなく椅子を押さえながら目にして、
「あー、それだったのか。」と納得した
声を上げた。
『明日は合宿で飾れないだろうから、
今日やっとこうと思って。』
「笹の葉わざわざ買ったのかよ。
お前、ほんとそーゆーの好きだよな。」
テストが終わり、新人リエーフのある程度の
ハプニングがあったものの練習試合も順調に
こなし、気がつけば合宿は明日に迫っていた。
たまたま被ってしまったイベントもせっかく
なので楽しみたいと前もって準備した飾り
で楽しそうに彩ると黒尾に言われた言葉に
彼女は頬を膨らませた。
『いーじゃん!私はちゃんとイベントを
楽しみたいんですー。』
黒尾の呆れた声に美月はそう言い返し、
夜久も海も楽しそうじゃん!と乗り気で、
しっかりと準備されていた短冊を彼女
から直ぐに受け取った。
「あ、美月の字で書いて欲しいかも。」
『うん、いいよー。』
「こうゆうのって、本人が書かなかったら
意味なさそう。」
「確かに…よし、自分で書くか。」
「美月さん、俺にもください!」
『うん、リエーフも書いてー。』
海と夜久が書いている横で灰羽も願い事を
書き、「高いところに俺が飾りますね!」と
灰羽が夜久の短冊も飾ろうとすれば、
一言多いんだよ!と夜久は灰羽を蹴飛ばした。
着替えを終えている犬岡や柴山にも渡せば、
彼らは楽しそうに願い事を書いて、
次々と他の仲間達も彼女に付き合って
願い事を書き、最終的に黒尾も美月に
付き合って、皆がそれぞれ短冊に思い思い
の願い事を書いて、彼女が用意した笹の葉
に吊るした。
『うん、カラフルで可愛いー!』
様々な色が並んだ短冊を美月は満足そう
に眺めて、願い事が何か気になったのか、
一つ一つの短冊を背伸びしながら読み始めた。
『まず優生君はレシーブが上達しますように
とリエーフはエースになる!って言い
切っちゃってるじゃん。』
頑張ってるからきっと上手くなるよと
彼女にお願いを読まれて恥ずかしそうに
頭を掻く柴山の頭を美月が撫でて、
それを見たリエーフも羨ましがり、俺も
撫でてくださいと彼女の前で屈みこむと、
夜久が「お前はレシーブ頑張ってからだ」と
グリグリと自分の手を彼の頭へ押し付けて
いた。
美月がそれを見て苦笑いを浮かべ、
今度は犬岡の願い事を確認すれば、
「ご飯がいっぱい食べれますように。」と
書いてあり、彼の可愛らしい願い事に
美月の胸はきゅんと擽られた。
『走は、とりあえずこのお菓子あげるね。』
「え、いいんですか!?ありがとう
ございます。」
「おい、今ので絶対美月さんの後輩
甘やかしスイッチ入ったぞ。」
自分の鞄からお菓子を取りだして、犬岡へ
それを渡すと彼女は再び短冊を見上げる。
『猛虎は女子と話せますようにって、
私は女子扱いじゃないのかー。』
「そういう意味じゃないんですって!
っつーか、美月さんとしかまともに
女子と話せないんスもん!」
冗談混ざりで美月が山本へそう声をかければ、
彼は焦ったように彼女に弁解をして、
これ以上いじめてまた泣かしてしまったら
いけないので、彼女はわかってるよと
彼に笑った。
「そういう美月は何て書いたの?」
ふと孤爪がそう切り出して、美月は
少し照れくさそうに自分の短冊を指差し、
孤爪は彼女の指す方向を見上げた。
みんなと笑って過ごせますように
その願い事を目にすれば小さく笑い声を
漏らして、孤爪から美月らしいと
言われてしまう。
海も暖かい目で見守るように笑い、
夜久は素直に可愛いと発すれば、黒尾は
お前それしか言えないわけ?と彼を
からかいながらも自分の気持ちを素直に
出せないだけでいた。
『研磨、馬鹿にした?』
「してないよ、可愛いなって。」
『ほら、してるじゃん、』
「だから、してないってば。」
2人がつまらない言い合いをしていると、
鞄の横にあった美月のスマホが突然鳴り出し、
その電話の差出人の名前を見た黒尾は顔を
歪ませ、彼女の代わりにその電話に出た。
「はい牧野です。」
「どうも、彦星です。」
「…ここは織姫の電話番号じゃありません。
つーか、お前盗聴でもしてんのか?」
「そんな野暮な事、する訳じゃないですか。
美月さんがこの前教えてくれたので。」
「へー、俺に仲良しアピールしてる?」
「そうゆう事ですね。」
美月は黒尾の表情から誰と電話をしている
のかわかったのか、『ちょっと!』と彼から
自分の携帯を奪って、電話の差出人へ直ぐに
謝った。
『ごめんね、赤葦君。』
「いえ、構いませんよ。まだ終わってない
だろうなと思って掛けました。
七夕、綺麗に飾れましたか?俺も美月さんの
願い事、見たかったです。」
『うん、バッチリ。そっちに持って行って
みんなで書けばよかったね。』
「そうですね、それも面白かったかも。
でも、人数は今回は多いから、偽物の笹
には書ききれなくなりますよ。」
『そうだよね。』
電話越しの彼の方が何処か落ち着いていて、
自分よりも大人に見えて、少し情けなく
なりながら、彼女は笑う。
そして、揶揄うのも彼の方が上手であり、
素敵な織姫が待ちきれなくて電話したと
聞かされれば、妙に恥ずかしくなって
美月の顔はほんのりと赤くなる。
そんな彼女の様子を周りが見ていて
落ち着いている訳がなく、もう10秒後
にはその電話は強制的に切らされるのだが。
美月に変な虫がつきませんように
メインの全国制覇の横に夜久と黒尾の2人が
ひっそりと小さく書いた願い事は果たして
叶うのかどうか。
2人はため息を吐きながら、明日の自称彦星
と美月が会うことだけは少し憂鬱に
なるところであった。
「ちなみに海と福永はなんて書いたわけ?」
「健康祈願」「安全第一」
「…年寄りかよ。」