合宿初日
「美月ちゃーん!!!」
『あっ、木兎君待って待って。』
「あー、美月ちゃんの匂い超最高。」
梟谷学園に到着早々、荷物を持つ美月目掛けて、
木兎が彼女に飛び付いて、彼女が転びそうに
なるも、さすがは強豪校のエースと言った
ところか、彼女の腰元も抑えて転ばないよう
にガッチリとホールドしており、彼女は
マイペースにグリグリと頬ずりをした彼の
慣れない包容に顔を赤めて動揺していた。
「お前はホント油断も隙もねー!」
こういう時に限り、他の仲間達は先に荷物を
置いて出払っており、彼女と木兎と黒尾のみ
がいる状況。
同じく彼女を手伝って両手が荷物で塞がる
黒尾が、それに怒って足で木兎を蹴散らし、
荷物を置きに行くよう彼女に促そうとすれば、
いいタイミングで赤葦と雀田が来たのだった。
彼を注意して、赤葦と雀田が木兎の代わりに
彼女に謝れば、赤葦は木兎を引っ張って、
黒尾は彼らの方向へとついて行き、雀田は
彼女を連れてそれぞれが別れた。
「ごめんねー、美月。毎度ウチのが自由で。」
『全然、大丈夫だよー。ウチも自由な人間
だらけだし。』
「美月おつかれー。」
『あ、雪絵ちゃーん!』
少しだけ彼女達と楽しく会話をしたら、
荷物を女子の部屋へと置いて、すぐに彼女は
昨年を思い出しながら、仕事に取り掛かる。
そして、烏野が到着する時間を見計らって、
校門で清水達の案内係を任されていたので、
校門に走って向かうと、手を捕まれ、
後ろから抱き締められる形で引き止められた。
「はーい、美月ちゃん油断禁物。」
『こらこらクロは、何してんの。』
「ほらほら、ボーッとしてたらこんな風に
襲われちゃうから気をつけなさいよ。」
『いや、そんなことする人クロだけだよ。』
「お前、さっき木兎に抱きつかれといて、
それ言っちゃう?」
彼女を抱きしめていた犯人は黒尾で、この
状態だと黒尾がただ襲いそうになっている
様にしか見えず、すっかり彼に慣れた美月は
彼の場合だと恥じらうどころか、呆れた様に
ため息を吐く。
『わかったわかった、時間ないから行こ。』
慣れたように彼の腕を解いて、手を引いて
校門まで行けば、海と山本も彼らを待とう
としていた。
嫉妬心が残る彼は不服そうに彼女を見るが、
つんと鼻を突かれ、顔が怖い!と彼女は
彼の頬を伸ばし始めたので、途中で彼の中
のそれは消えかけていた。
烏野が到着して、ただの鉄塔に感動する人間
を見て、黒尾は声に出して爆笑していると、
菅原が彼女の姿を見て嬉しそうな顔を見せた
事に黒尾は気が付き、さりげなく彼の視界に
入れないようにわざと、自分の横にいる美月
の壁になっていた。
『潔子ちゃん、いらっしゃい!…ってあれ?
すごい、1人増えてる!!』
美月が気がついたのと同時に、山本が
女子マネージャーが一人増えている事に
嘆きだすので、美月の肩はそれに驚いて、
1回自分の肩が跳ねてしまった。
『ごめん、その…猛虎はスルーするとして、
えっと、お名前は?』
「やっ、谷地仁花といいますっ!
よろしくおねがい、しぐふっ。」
緊張から言葉を噛んでしまう彼女が可愛らしく、
つい美月は彼女を見て吹き出し、小動物を
愛でる様に谷地の頭を優しく撫でた。
『こちらこそよろしくね。』
彼女達が微笑みあっている後で、まだ落ち込ん
で膝を着いて、その新しい女子を見る山本を
美月と清水が2人で手を出して庇いながら、
田中が優越感満載で山本に語る横を
美月が先陣を切るように2人に案内を始め、
清水も谷地に声をかけその場から離れた。
『ごめんね、毎度ウチのが自由で。
…あれ、これどっかで聞いた台詞だわ。』
先程、雀田に言われた台詞をまさかの20分後
には自分が言い出すとは思わず、美月は
恥ずかしさから頭を抱えていると、清水が
「うちも自由だから。」と自分が雀田に言った
同じ台詞を彼女が言ったので、美月は
可笑しくなって、みんな一緒か!と歯を
見せて笑い合う。
そして、昨年の記憶を辿りながら場所の説明
を彼女達に一通りすると、自分の学校の元へ
それぞれ戻り、練習試合が始まろうとした。
「あれ…?翔陽は…?」
「補習だってよ。」
「あー…」
『日向君達は終わり次第来るらしいから
研磨は待ち遠しいね。』
仲間たちに合流して、話に入った美月が孤爪に
笑いかけると、彼は別に…と言って彼女から
顔を逸らし、何かを誤魔化すように彼女から
ふらーっと離れていった。
『こら!リエーフはそんな怖い顔しないの!』
そして、烏野に向けて鋭い目線を送る灰羽に
気がついて、彼女は飛び跳ねて彼をチョップ
しようとするも、もう一息足りずで、
彼の方に掠ってしまった。
「今のちょっと俺の頭に届かない美月さん、
めっちゃ可愛かったんですけど。」
今の仕草が灰羽には堪らなかったらしく、
キラキラと目を輝かせて、彼女を見つめる
ので、私の事はいいからと彼を宥めながら、
背中を押した。
「主役は遅れて登場ってか?腹立つわー。」
『良かった、無事来れたんだね。』
烏野もメンバーが全員揃い、孤爪の喜ぶ
顔を見れて、美月は安心すると、また
試合のデータ採取に取り掛かり、本日最後の
生川高校との試合にいっぱい声援を送った。
忙しく動けばあたりはすっかり暗くなり、
使い終えたボトルを大量回収して、外まで
運んでいると、彼女はうっかり手を滑らせ、
落としそうになっていると、その先に長い
手が差し伸べられ、それは落とすことなく
見事にキャッチされていた。
『赤葦君、ありがとう。さすが。』
「美月さん危なっかしいんで、半分俺が
持ちますね。」
彼に流しまで一緒に運んで貰っていると、
白福と雀田が並んで歩く2人をみたら、
企む様にニヤニヤと笑っており、
ここは私達がやるからと回収され、今度は
洗い終えたボトルを今度は元に戻すよう指示
された。
『ごめんね、赤葦君も試合で疲れてるのに
手伝わせちゃって。』
「これくらい、大した事ないですよ。」
仕事が終わり、2人で食堂に向かう道で、
そういえばと空を見上げれば、本日は夜空が
澄んでいて、星が良く見えている日だった。
彼はそれに…と彼女を自分の元へと引き寄せ、
満足そうに微笑んで、美月の身体を自分の
腕で包んでいた。
「やっと、織姫とゆっくり出来ましたしね。
迎えに行くのが遅い彦星ですみません。」
『えぇっ、そんな!私なんかが恐れ多い…』
彼女を堪能するように赤葦は自分の顔を肩へ
埋め、美月は今日1番に慣れない抱擁に
頭が茹だって真っ白になっていた。
「美月さん、すごくいい匂いしますね。」
『赤葦君は、またそういうこと言う。』
変態に近い会話をしても彼女は周りの環境で
慣れっこなのか、嫌がる事なくあやす様に
赤葦の背中を撫でる。
彼女に触れられた部分が心地良くて、赤葦は
このまま彼女に告白してしまいそうになるが、
ぐうーーーっと彼女のお腹が空腹を知らせる
音が聞こえてきて、まさかのその音で甘い
空気は癒しの空間へと一変してしまう。
「…ご飯、食べましょうか。」
『…なんか、すみません。』
更に顔を真っ赤にさせる美月に、赤葦は
つい悪戯心が芽生えてしまって、彼女を
エスコートするように自然に腰元へと手を
添えて、食堂へと向かっていく。
「あ、こら!うちのマネージャーに手を
出してんじゃねーよ!」
「何だよ、その手!!下ろせ!!!」
「だから、俺は彦星ですって。」
「えー何それ、俺も彦星がいー!」
『みんな年1回でいいんだ、私に会うの。』
「あ、そういう意味じゃなくて…
顔上げてください、美月さん。」
途中で合流した音駒の仲間や木兎達にそれは
すぐに止められるのだが、そこも想定内の
赤葦は少しだけ味わえた逢瀬に十分満足を
しているようだった。