喜び
「うおぉーーーー!!!
美月さんが来てくれたー!!」
「山本、マジでうるせーから止めろ。」
入部届を出して早々、みんなには改めて紹介を
したいからと、黒尾に部室へと連れて行かれ、
もう既に顔見知りではあるが、ひょっこりと
顔を出して、彼女が『よろしく。』と挨拶を
すれば、山本が感激のあまり男泣きをして
しまった。
福永はその山本の様子をドン引きで見れば、
その鳴き声の音量の五月蝿さに耐えきれなく
なった黒尾は、自分の指で耳栓をしながら、
山本を止める。
『私は猛虎がそんなに喜ぶと思わなかった
から、嬉しいんだけどねー。』
「美月、調子に乗るからそういう事
言っちゃダメ。」
『研磨はもうちょっと嬉しそうな顔して
欲しいなー。』
海は来てくれてよかったと優しく微笑み、孤爪
は、顔には出さなかったが少し嬉しそうな様子を見せているのは彼女には伝わり、彼女も
そう言いながらも周りの反応を見て通常運転
だとにっこりと笑った。
「じゃあ、俺は美月備品の場所の
説明するから少し抜けるぞ。」
『そういえば、やっくんは?』
「提出物を出し忘れて遅くなるらしい」
『そっかそっか。』
行くぞと黒尾に言われた美月はみんなに
またと小さく手を振ると、彼の後ろを置いて
いかれないように付いて行った。
『仕事内容は女子の時と同じだと思ったら
OK?』
「ああ、大体一緒だ。お前のやりやすい様に
してくれたら大丈夫だから。」
ただ、女子の時と道具の場所が少し違うから
と補足を入れながら、倉庫まで辿り着けば
ピタリと黒尾が足を止めるので美月はその
勢いで彼の背中に鼻をぶつける。
すると彼はくるっと彼は向きを変え、痛そうに
鼻をさする彼女を構うこと無く、ニヤリと不敵
な笑みを浮かべて、美月を見た。
『何、なに?』
「あと言い忘れてたが、ここは前と違って
野郎だらけの場所だから。」
『うん?』
突然ガバッと襲いかかる獣の様に両手を広げて
くるので、彼女はそれを上手く避けることは
出来なかったが、反射でぎゅっと目を閉じる
と、その勢いとは反対にぎゅーっと黒尾の
大きい身体に包まれていた。
「こうやって、変な奴が現れたらいけないので
不審者に用心な。」
『て言った矢先から、貴方がセクハラ!』
小柄な彼女が抵抗するように黒尾の胸を必死に
叩いても、びくともせずに、寧ろ彼は面白がり、
彼女を抱きしめる力を強くする。
そして、遠慮どころか美月の匂い最高と言って
離れるどころか、首元に鼻を近づけるので、
彼女は止めてー!と恥ずかしそうに彼の胸を
バシバシと叩くのだった。
「いや、もうこれマジで言ってるから。
試合だって近いし、他校のやつ何するか
わかんねーし。」
『クロの言いたいことは分かったから、
私を解放しなさい。』
「美月ちゃんはつれないねー。」
『はいはい。』
幼なじみの激しめのスキンシップには日頃から
慣れている美月だが、場所が学校なので目撃
したクラスメイトからかわれるのを避けて抵抗
するも、お構い無しの黒尾に負け、されるがまま
ポンポンと彼の背中を叩く。
すると、調子に乗った彼はチューしていい?と
首を傾けるのでそこは無言のまま美月は笑顔
で彼の頭をチョップした。
「あと、練習量も倍だろうから絶対に
無理しないこと。」
『わかってるから。』
「お前は周りのお世話しすぎるから注意を
してるんですー。」
『体力自信あるし、大丈夫ですー。』
もうそろそろ解放して欲しいとお願いしたら、黒尾は「まだちょっとダメ。」と言って、まだ
美月を離そうとはしなかった。
見せつけてるから、俺のモノだと。
美月には聞こえない、低いトーンで小声で
そう呟けば、誰かが急いで走ってくる音が
して、その音は徐々に近づいてきた。
「お前こそ、美月と無理やりいちゃつく
んじゃねーよ!!!」
夜久が陸上でも通りそうな綺麗なフォームで、
黒尾の背中目掛けて飛び蹴りをお見舞すれば、
彼は美月を離すと同時に綺麗に倒れ込む。
彼は「何も蹴るこたねーだろと!」と背中を擦り
ながら悪態を着けば、夜久は「うるせぇ!」と
怒声混じりで、鼻息を荒くさせていた。
「大丈夫、変なやついたら俺が絶美月
を守るから!」
『ありがとう、護りが固いやっくんが傍に
いると安心だね。』
夜久を見上げてふんわり笑う彼女に彼の頬も
赤く染まりながら、さりげなく彼女の手を
ぎゅっと握り締める。
そんな夜久の姿を見ると、黒尾はお前だって
ケモノの癖によく言うわと呆れながら、2人が
手を繋ぎ合う姿に納得いかない様子で、黒尾は
顔を引きつらせながら、嫌そうに眺めるのだった。