自分好み


「美月はもうショートにしねーの?」


『ん、髪の毛?』


美月がお仕事前に下がる髪が邪魔にならない
ようにハーフアップで髪を上げ、器用にお団子
を作れば、ストレッチを始めた夜久の言葉に、
美月がくるっと振り向いた。


1年の頃のショートが似合ってた!と彼は目を
輝かして言うので、彼女は彼のその言葉に照れ
ながら『そうかなー。』と彼の褒め言葉が満更
でもなく、今後の髪型を悩めば、黒尾が顔を
歪ませ、却下と即座に答える。


「いや、お前には聞いてない。」


「美月はサラサラロングが一番似合うんです
よね。あ、夜久さんは知らないと思うけど。」


『中学校の頃のことを言われましても。』


「美月にその時会ってねーし。」


かつての指通りの良さを思い出しながら、黒尾
が指を動かせば、孤爪と美月は少し引いた目で
彼を見ていた。

高校生に入って、少し邪魔だと感じてバッサリ
と切った、美月の爽やかな髪型を見た時の黒尾
のなんとも言えない顔は彼女は今でも忘れられ
ない。


そして、夜久と美月の出会いは高校に入ってから
なので、彼がその姿を知る訳がない。


ただ、夜久が初めて出会った時に、彼の好みに
ドンピシャだったらしく、一目惚れで海に
「5組のショートヘアの子が可愛かった」
と言っていた女子の正体は美月であり、黒尾
を更に不機嫌にさせた出来事だった事を彼らの
会話を聞きながらふと思い出し、「ロング!」
「ショート!」と、かつての様にムキになって
言い合う二人を見ながらも、口には出さずに
にっこりと微笑んでいた。


そしてその2人のやり取りに痺れを切らした
美月は、止めなさい!と怒りながら二人を
止める。


『今のところ切る予定も無いし、伸ばす予定
もありません!』


ここから5センチ伸びるようだったら、伸びた
分しか切りませんからね!と指をハサミに
見立ててちょきんと合図をして、2人に言うと、
ピッタリと黒尾も夜久も驚く程に息が合い、
「そーなのか」とがっくりと肩を落とした。


「美月は今のままでいいと思う。」


『研磨はいつもそういうもんね。』


孤爪は2人の意見の間で、彼女にいつもそのまま
でいて欲しいと言う。


黒尾は、彼女がばっさりと髪を切った時の少し
悲しそうな顔を孤爪も見ており、逆に彼の為に
伸ばしてしまったら、今度は夜久が同じ顔を
見せるかもしれない。


2人ががっかりする顔を見たくないが為に、孤爪
はこの長さを保つ事を自然な感じで、彼女に
促していた。


美月もなんとなく彼の配慮を知ってか知らずか、
嬉しそうに座る孤爪の背中を押して、彼の柔軟 を手伝った。


「そもそも、今でも十分可愛い。」


『え?』


普段言われ慣れていない言葉に美月が驚いて、
押していた背中の手を止めれば、ぺたりと膝を
ついて正座をしてしまった。


『研磨、待って、今のはずるい!』


「ちょっと、美月引っ付きすぎ。」


恥ずかしさを隠すように顔を彼のお腹に手を
回して押し付けたら、それは彼女が抱きついた 形に自然となるわけで、周りがギャーギャーと
騒ぎ出す。


うるさいのに文句言われるのは御免だと、孤爪
が自分を解放しようと、巻き付く彼女の手を
解こうとしたら、かえって彼女の柔らかい感触をダイレクトに感じてしまって、彼の頬は一気
に赤くなる。


「美月さんと羨ましい!」


「研磨、お前らしくないポジションだぞ。
美月の周りより大きめの柔らかさを堪能するの
はお前にまだ早い!とりあえず、俺と変われ!」


「お前のその変態発言、本当に何とかなんねーの?」


「あら、どこの感触想像した?夜久さんみたい
なむっつりよりマシでしょ。」


「お、お前!!!」


「まぁまぁ、美月も顔真っ赤で動けないん
だからその辺にしなさい。とゆうよりクロ、
そろそろ俺も怒るよ。」


「海さん、キレたとこ見たことないから
止めましょう?」


そこでふと感じてしまう少し優越感がある、
自分だけの美味しいポジション。


そっか、違うんだ。


今のままの美月が好きなのは、自分の欲求なん
だと彼は彼女に抱きしめられながら、改めて
実感をした。





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