深い夜の集い


「美月さんが書記で本当に助かりました。」

『私は特に大したことしてないけど、赤葦君
が進行上手だから、こっちのが助かったよ。』


マイペースな木兎の野次の中、主将会議を淡々
と赤葦が進行して、主将会議を終えたらすぐに、
美月の肩をガシッと掴みぐったりとした様子
で彼女にそう言って顔を伏せるので、彼女は
赤葦に労う言葉を掛けながら、屈む彼の頭を
よしよしと撫でていた。

赤葦の唯一の励みは彼女が彼の隣でうんうん
頷きながら、彼女が綺麗な字で綴ったメモを
指さし、必要事項に漏れが無いように、丁寧
に一緒にチェックをしてた事だ。


「あークソ、あいつ後輩って連呼したの
絶対、根に持ってやがんな。」


何処と無く黒尾は見せつけるように彼は身を
屈んで、後輩の特権をフル活用してやると
言わんばかりに美月に甘えており、黒尾だけ
では無く、それを目にする先輩達はもちろん
気に入らないといった様子で、二人を見た。

少し赤葦は調子に乗り始めたのか、お風呂
上がり後に集まった会議なので、普段よりも
更に甘い匂いを身に纏う彼女を抱きしめて、
彼女の耳に髪をかけて、項に鼻を持っていき、
胸いっぱいにその香りを吸い込む。

「アロマ効果で、元気になりそうです。」

『えぇ、待って赤葦君!ひゃっ。』

「ちょっと、お前それ後輩がする抱きつき方
じゃねーだろ!!!」

そのまま周りを気にせず吸い付きそうな勢いに
黒尾と木兎がすぐに二人を引き剥がし、海が
大丈夫?と彼女を心配しながら、背中を撫でて
いた。

美月は顔を真っ赤にして、どうしたらいいのか
戸惑うのか、海に飛びついて、冷静さを取り
戻そうと深呼吸して、海は困ったように笑い
ながらも、彼女を優しく受け入れた。

そして、黒尾と木兎だけでは無く、森然と生川
の主将、副主将達にも半分妬み混ざりで赤葦は
怒られて、海と一緒に美月は澤村達の所へ
避難すると、澤村と菅原は「大変そうだな。」
と憐れむ目で彼らに笑顔を向けた。

「モテるやつは苦労するな。」

『これは果たしてモテるというのだろうか。
皆が私を揶揄って、遊んでいるだけだよ。
この人達のお陰で彼氏なんていないし。』


「あ、そっか。彼氏いないんだよね。」


『スガくん、復唱されたら悲しくなる。』


「あ、ごめんごめん。」


笑って誤魔化しながらも、菅原はその言葉を
聞けば、自分にもチャンス到来だと思って、
喜びで口元が緩みそうになる。
美月は彼にも揶揄われていると勘違いして、
顔を顰めるので菅原は彼女にごめんってと
笑いながら謝った。

そして、ある程度雑談をしたら解散になり、
生川と森然の4人は木兎と好戦的な会話を
しながらも、教室を後にした。

そして彼女も女子の部屋に戻ろうと扉に向か
おうとすれば、木兎の嘆き声が聞こえてきて、
どうしたの?とその足を止める。

どうやら彼はトランプを持ち込んでいたらしく、
今いるメンバーでやろうと言い出すので、
赤葦は申し訳なさそうに今いる面子に頭を
下げ、気にせず帰って欲しいと促した。

「ちょっ、美月ちゃんはここにいねーと
面白くねーだろ。」

美月が素直に帰ろうとすれば、木兎が席から
立って、彼女をぐいぐい引っ張って、自分の
膝の上に座らせるので、彼の身勝手な行動に
全員が「あ?」と振り向いて睨む。
木兎だけでは無く、美月もその鋭さに肩が
ビクッと跳ねた。

そして、1番に言葉を発したのは黒尾で、彼を
挑発するような言葉をかければ、菅原も彼に
乗っかるように澤村の名前を出して、それに
参戦しようとする。

そして澤村も見事黒尾の煽りに乗っかって、
美月は困った顔で再び席に着く彼らの姿を
見るのだった。

『このメンバーで、やる勇気無いからパス。』

何故か木兎は美月を膝に乗せたままで続行し、
彼女が離れようとしても片腕でがっちりと
ホールドされていて、周りが怒っても彼は絶対
に離さないので、次のゲームまでだと諦め、
和気あいあいでは無く、張りつめた空気の中の
ババ抜きに、美月も見てるだけは辛くなった
のか、次のゲームからは彼女も参戦する。


「えー、美月ちゃん寂しい。」


「いや、だって彼女の手札丸見えになる
じゃないですか。」


「そしてこれ以上、お前調子に乗らせるわけ
ねーだろ。」


木兎からひとつ離れた赤葦と黒尾の間に美月が
座り、手馴れた様子でカードを切る黒尾から
手札を受け取りそれぞれが見る。

そして、ゲームは始まって隣からカードを
引くと木兎が1番に抜けて、つまらなそうに
駄々をこねると、負けた人間が腰をもむと
いう、王様ゲームみたいな新ルールを作って、
今まだゲームを続けるメンバーを傍観した。


「美月ちゃんだったら、最高なのに。」


木兎の発言で彼の背中に跨る彼女を皆それぞれ
が想像をして、先程も美味しい思いを許した
のに、これ以上させてたまるかと、彼らの思い
は一致する。

とは言っても、木兎にマッサージをするのも
避けたい彼らは、つい本気を出してしまい、
黒尾、澤村と上がる人間が増え始め、この
面子だとどうしても不利になる美月は残る。

『んっ、席が離れちゃったね。』


そして2つ先の席の菅原に美月が体を必死に
伸ばしてカードを差し出すと、少し体の曲線が
わかる体勢になったからか、隣とその1つ隣の
黒尾と澤村がゴクリと生唾を飲み込む。

隣の赤葦も後ろからの彼女の姿が、艶っぽく
見えたようで、顔色は変えないもののその一点
をじっと見つめていた。

そして、やる事が無く本を読むのも飽きていた
木兎もそのアングルに気がづいたのか、自分も
とジリジリと彼女に近寄って、その曲線に魔が
差したのか、人差し指が思わぬ箇所をツンと
触れ、目の前のありえない光景に黒尾と澤村は
ピシリと固まり、絶叫した。

『ちょっ、木兎君、今どこ触った!?』

「んー、むにってするのかなって。」

「だからといってお前、横乳はねーだろ、
横乳は!!!」

「澤村君から横乳って言葉ださせるとは…
じゃねぇよ、ふざけんなよ木兎!!!」

「え、美月ちゃん…大丈夫?」

片手で触られた所を隠すように押さえながらも
ゲームは続行しようというのか、菅原にカード
を引かせ、席に着くとカードを置き、顔を
真っ赤にして『木兎君の馬鹿…』と小さい声
で呟く。

木兎をチョップして怒鳴る黒尾を見て、自分の
事は棚に上げるのか…と赤葦の頭に一瞬過ぎる
が、今はそれよりも彼女が心配なので、彼も
「大丈夫ですか?」と背中を撫でると、彼女は
困った顔で笑いながらこくんと頷いた。


少し目を潤ませる美月に木兎も必死に彼女に
謝ると、仕方なく彼女も木兎を許すので、
見兼ねた赤葦が彼女の手札全てを横から取り、
「彼女は近づかせませんから」と赤葦も木兎を
睨み、彼女からのマッサージは回避させる事
に成功するのだった。

そしてそう言い切りながらも、次は菅原が
抜け、なかなか赤葦は勝てそうに無く、
彼の勇姿と不憫さに海が心折れて、赤葦の
持つジョーカーを引いた。


「いででででっ!!!!」


最初は優しいマッサージを施す海が美月の件の
仕返しを忘れている筈が無く、木兎へ容赦ない
攻撃を仏の様な笑顔で仕向け、木兎もその痛み
から体が歪む。

あまりの奇声の混ざる悲鳴に、周りもそれを
見て恐れる苦笑いを浮かべれば、海は黒い
オーラを纏いながらももう1回ゲームをしない
のかと彼らに呼びかけていた。


『私はもう寝ようかな、おやすみなさい。』


「お前はそうだな…もうこれ以上危ない目に
遭わせたくないわ。おやすみ。」


「俺も後輩たちが騒いでないか心配だし帰るよ。
大地はどうする?」


皆にまた明日と手を振って、美月と菅原は
教室を後にする。
ババ抜きに夢中な彼らはこの間に先に帰った
2人の距離感が少しだけ縮まる事に気がついて
しまうのは、もう少し先の話だった。


『スガ君とゆっくり話すの初めてだよね!』


「なかなか、時間取れなかったもんな。
美月ちゃんと話せてすげー嬉しい。」


『ふふっ、私も。』


「ところで、アイツら2人きりにして大丈夫か?」


「「「…澤村君、気がつくのが遅いわ。」」」








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