君のエール
翌日の朝は昨夜の疲れが残っていたからか、
気だるさ混ざりの欠伸をすれば、たまたま
同じく歯磨きに来ていた夜久が大丈夫か?
と見てはいけないものを見てしまったという
表情で笑っており、美月は恥ずかしさ で赤面
していた。
『ごめん、今めちゃめちゃ見苦しいもの
見せちゃったね!』
「いやいや、昨日の夜も遅くまで頑張って
くれてたんだよな。」
主将会議お疲れ様と労いの言葉を彼から貰い、
彼女もありがとうと笑顔でお礼を返す。
夜久は朝一で彼女に会えた幸運に嬉しくて、
それに寝起き姿も何処か彼には可愛く見えた様
で、心の中でガッツポーズをしていた。
『今日は参加できなかった分、自主練に
付き合わせてもらいますね。』
「嬉しいけど、大丈夫か?今日も暑いから、
無理はすんなよ。」
『大丈夫だよ、ありがとう。
やっくんは信用しきっちゃってて、後輩達に
ばっかりどうしても目を向けちゃうし。』
やっくんに甘えてばっかはいられない!と美月
が真っ直ぐな目でこちらに向かって言い出す
ので、彼女の言葉が素直に嬉しかった彼は、
ぐっと自分の胸のシャツを掴んだ。
『やっくん、この後食堂一緒に行く?』
「そうだな。この後、すぐ行く予定だから
一緒に行こ!」
『じゃあ、準備できたら階段で待ってるね。』
朝から俺は殺されるのか?美月に朝食のお誘い
までされてしまって、この幸せな気持ちに夜久
の胸はいっぱいになっていると、おはようござ
います!と西谷が現れた。
「衛輔君も美月さんもお似合いッスよね!」
「ブッ!!!」
『そんなそんな!!!』
2人のやり取りを見ていたのか、ニシシと彼は
笑いながらそう言い出して、2人は揃って顔を
真っ赤にさせる。
丁度口を濯いでいた夜久は驚いて吹き出した。
美月はその熱さを冷ますようにバシャバシャ
と顔を洗うと、急いで首元のタオルで拭いて、
後でね!とその場から立ち去るように、女子の
部屋へと戻った。
「夕、その言葉ありがたいけど照れるわ。」
ほんのり頬を赤らめ、西谷に彼がそう言えば、
別に付き合ってないですもんね!とストレート
に吐く西谷の言葉がぐさりと刺さる。
「敵が多いと大変っすね!」ともう一言耳が痛い言葉を聞きながらも、待ち合わせた場所で先に
待っていた彼女がにこっと夜久に笑いかけると
西谷に言われた言葉も頭からはすぐに消えて
いくのだった。
『朝から焼き魚食べれるのってちょっと
贅沢だよね。』
「確かに。」
この3日、灰羽達と一緒に賑やかな朝食を取って
いた夜久は、穏やかに味噌汁を啜るのはいつ
ぶりだろうと考えながら、美月の言葉に相槌を
打つ。
美味しそう焼き魚を口にする彼女を見れば、
思わず顔の筋肉が緩んで、明日もこうして朝を
迎えればと、つい神様にお願いしそうになる。
そしてその幸せも束の間、その後練習が始まる
と一気に忙しくなり、美月も仲間達のお世話
をするようになって、2人でゆっくり会話する
時間はあっという間に奪われた。
彼らは環境に慣れてきていたのか、疲れは多少
残るものの、練習の終わりをいつもより早く
感じていた。
「美月ちゃん、昨日はごめん!」
第3体育館で本日は夜久達も混ざってする事に
なれば、木兎が深々と美月が来たらすぐに彼女
の前で頭を下げ、美月はそんな木兎の姿に
『頭を上げてね!』と言いながらおろおろと
手を振って戸惑った。
『私、もう気にしてないから大丈夫だよ。
クロなんて人の許可無くしょっちゅうだし。』
なにそれ羨ましい。と木兎は一瞬そう心の中で
思いながら真顔になって顔を上げれば、その
考えを赤葦には読まれていたのか、すかさず
彼に反省になっていませんと突っ込みを入れ
られ、木兎は頭を下げ直す。
3人の異様な光景に何があったんだよと夜久が
怪訝な顔をしていると、一緒にその場にいた海
が夜久に事情を話して、彼の眉間の皺は更に
深くなるのだった。
「お前ら、ホント最低だな。」
「いや、ほんと同感ですよ。」
美月が許せても夜久がそれを許せる訳が無く、
同じ場にいた月島も2人に軽蔑する目を向け
ながら、夜久に共感して、今日だけはと2人が
彼女の手を引き、近づかせまいと木兎と黒尾
からは距離を取らせる。
赤葦は賢明な判断ですと頷いて、黒尾が木兎の
肩をニヤニヤ笑いながらドンマイと叩くので、
お前にだけは言われたくねーよ!と木兎は彼の
手を払い除けて怒り出した。
しばらく夜久はそんな彼らを無視して、いつも
通りの灰羽のレシーブ特訓し、彼がギブアップ
した所で木兎達と3対3のゲームを始めた。
珍しく木兎と黒尾、赤葦が同じチームとなり、
夜久、海、犬岡が相手チームとなってゲームは
行われる事となる。
時折木兎が美月の様子を気にすれば、只今
休憩中の月島に姿を隠されると、小柄な彼女は
見事に視界から消えるので、彼のペースが崩れ
気味になってしまっていた。
「木兎が不調だと練習になんねーよ。」
「仕方ない、今回ばかりは許すか。」
黒尾の文句が聞こえてきたら、海と夜久も同じ気持ちだったのか、2人からブロック練習の為
ならと許しを得たところで、赤葦と黒尾は目を
合わせる。
美月がボールに空気を入れている横で、
赤葦から応援お願いしますの合図が届くので、
口元に手を当てて、木兎を大きな声で呼んだ。
『木兎君のキレっキレのストレートが
見たいなー。』
ピクっと彼の耳が動き出すのを見たら、その
調子ですと赤葦が目だけで訴えるので、それに
加えて『木兎君のスパイク、見蕩れちゃう。』
と彼に向けて叫んだら、みるみるうちに彼の
調子は回復する。
「赤葦、寄越せ!!!」
赤葦の上げた球を木兎は仰け反り、相手の方向
真っ直ぐに打ち込もうとする。
『そうそう、これこれ。』
このまま木兎が決めそうになる所には夜久が
先回りして、静かに上げれば、美月はそれを
予測していたのか、嬉しそうに月島に夜久の
自慢をした。
『うちのリベロ、めちゃくちゃカッコイイ
でしょ!見て、私の1番好きなトコ。』
海がそれを繋いで上げれば、犬岡が打つが
ベテラン3年のブロックは堅く、残念ながら
点を得ることは出来なかった。
でも、彼女が月島に自慢する声は耳に入って
いた様で、耳まで顔を真っ赤にさせる。
月島は間を開けて、「あっ…はい。」と表情は
変わらないまま返事をした。
「えー、俺ら夜久君の株上げに使われた感じ?」
「この、同じ学校のはずなのにモヤモヤする
感じは何なんだろうな。仲間はずれ…的な?」
「2人とも過度なセクハラにバチが当たった
んじゃないですか?」
「「赤葦、お前にも言われたくねーけど!?」」
気がつけば、木兎の応援から切り替わって、
つい彼女は自分のチームの応援に回り、
そこから、音駒の調子は良くなる一方だが、
嫉妬で溢れた野郎達が巻き返して、セットは
取ることなく、悔しくも夜久達が負けたが、
どうやら木兎達は気持ち的には勝った気が
しない模様。
『木兎君のスパイク取ったの、さすがだよ!』
「美月の応援で今日は調子乗ったわ!」
お前いたらやっぱり最高だわ!と言いながら、
今日は全体的にツイているそう確信して夜久が
美月に微笑めば、嬉しいくらいに彼に微笑み
返すので、彼のテンションは更に上がっていく。
「なんかイチャイチャしてる。いーなー。」
「今日、やっくん止めれそうにねーぞ?」
「美月さん、調子あげる催眠でもかけれる
んですかね?」
「それはあながち、否定出来ねーんだよな。」
目の前で楽しそうにハイタッチをしている姿を
見せつけられたら、何となく、蚊帳の外扱いを
食らわされている気分になって、そこは月島も
気に入らない様子。
でも決して誰か一人だけを決して仲間外れには
しない美月なので、その後、組み合わせが
変わって月島もその中に参戦すれば、よく出来
ましたと彼女に頭を撫でられ、慣れないことに
月島も照れてしまって、夜久が言う調子が良く
なるというのがどういう事なのかを少し彼も
理解したようだった。
「月島君、照れちゃってかーわーいーいー。」
「黒尾さん、目が笑ってないですよ?」
「もうダメだ!今日夜久君に勝てる気しねぇ!」