最後のひと仕事


大あくびをする谷地を見て、ガールズトークに
付き合わせてごめんね、と清水と一緒に笑って
彼女達とゆっくり話が出来るのも、今日が最後
で、また間が空くことに美月は少し寂しさ
を感じていた。


この辛気臭い気分をいかんいかんと彼女は
気持ちを建て直しながら、バチンと頬を叩けば
谷地が驚いて、体が跳ねていた。


『っし、ラスト気合い入れるか!』


背筋を伸ばして布団を運べば、谷地も感心する
ように、さすがですと言いながら彼女を見る。
清水はあそこは真似しなくても大丈夫だからと
苦笑いを浮かべていた。


『優生君、おそくなってごめんね。
このデータ、みんなに見せてあげてね。』


そう言って、今回の試合結果をまとめた紙を
美月は芝山に渡し、彼も元気よく返事を
すれば、それを持って仲間の方向へ走っていく。

後からタオルを持って彼ら所へ向かえば、
気迫がある烏野を見て、美月もわーすごい
と、正直な感想を吐いた。


「…罰を熟す姿に異様な貫禄。」


「前回の遠征含めて、他の何倍も罰やってる
もんな。」


『迫力が凄すぎる。』


思わず仲間達と見守ってしまい、隣の夜久も
フライングが上手くなる日向を見て、驚いた
様子を見せた。


「うお!烏野のチビちゃんがめっちゃフライング
上手くなってる!」


「チビちゃんて、夜久さんと日向あんま身長
かわらないじゃないですかあ!」


『…こら、リエーフ。』


灰羽の余計な一言を聞いた周りはまずいと
ピタリと固まった。
もちろん、灰羽のその発言に夜久が怒らない
訳がなく、彼の尻目掛けて脚が飛び出るので、
周りも苦笑いを浮かべ、美月は呆れる様に
ため息を吐くのだった。


「今のは擁護できない。」


「夜久さんには身長の話は禁句だと言ったのに
バカめ…。」


黒尾と山本がそう言いながら2人を眺める中、
美月が仕方ないと彼らの元へ近寄る。
灰羽が彼女に助けを求めるように纏わり付く
ので、彼女はリエーフが失礼!と彼女も彼の
頭頂部に手は届かないので、彼の胸元をコツン
と叩く。

そして、夜久にも落ち着くように宥めていた。


『やっくん、私より高いしカッコよく見える
から、大丈夫だよ。』


彼もタオルを渡しながら、彼女にそう言われる
と、照れ臭くなるのか顔を赤くして、黙り込む。

「チョロいな。」「ですね。」と傍観する2人は、
他校に絡まれ過ぎる彼女を見て、少し麻痺して
いたのか、妬くことも無く、冷静にそう会話を
続けるのだった。
黒尾の場合、彼女と昨夜交わした約束の影響
大いにあるのだが。


『はいはい、こちらも試合始まりますよー。』


タイムアウト中でも目に入るのはやっぱり烏野
で、孤爪も同じ調子で速攻を成功させていた
日向を気にしていた。


『日向君がやっぱり気になる?』


「…翔陽はいつも新しいね。」


孤爪の発言に黒尾も少し驚いた表情を見せて、
美月と黒尾は思わず見合わせる。


「…もしチビちゃんが音駒にいたら、お前も
もう少しやる気出すのかね?」


「翔陽と一緒のチームはムリ。」


『あら、即答。』「なんで?」と孤爪の早い返事
に2人は互いに言葉を返し、研磨は研磨かと
美月は頭の中でそう思いながら、あははと
残念そうに乾いた笑いを送るのだった。


でも、彼の理由を聞けば彼女も孤爪の性格を
よく分かっているので、納得してしまい、
そうだよねと頷いた。
黒尾はふーんと言いながら、じゃあと言い返す
ので、彼女は今度は黒尾の言葉に耳を傾ける。


「チビちゃんが敵として練習相手にいて
くれたら、お前もやる気出すのにな?」

『確かに!』

彼女の黒尾の言葉に笑うと、今度は孤爪が
何で?と二人に首を傾げる。
すると、黒尾はすぐ彼のその質問に答え、
美月も楽しそうにニコニコと笑うのだった。

「だってお前チビちゃんの試合見てる時、
買ってきた新しいゲーム始める時みたいな
顔してるよ?」

黒尾がそう言えば、美月もしてるしてると
くすくす笑っているので、孤爪は2人の表情を
見ると、別にしてないしと顔を顰めた。

「ていうかソレってどんな顔?」


「わくわく顔。」


「何ソレ、意味わかんない。してないし。」


『今度、写真撮ってあげようか?』


「美月は、撮らないで。」


孤爪から揶揄うようにそう言いながら、
ドリンクを回収して、タイムアウト終了の
合図と共に彼の背中を押す。

孤爪のいつもと違う表情を見れるこの時間を
黒尾も美月もとても楽しんでいるようだった。
そして黒尾が気にかけるのは、彼だけではなく
もう一人。

『あら、木兎君はいつの間にしょぼくれ
モードになっちゃったの?』

しばらく、仲間の試合に集中していると、後ろ
から「俺に上げんな!」と木兎の嘆く声が聞こえ
てきて、相変わらずの仲間のフォローの安定
具合に心の中で拍手を送る。

そして、ツーアタックで点を取り返す赤葦を
見て、わぁ。と感動の声を上げたら、ふと
彼と目が合ってしまった。

美月さんにもっと知って貰いたいです。

彼がこちらに向けて、微笑む顔を目にすれば、
昨日の言葉がふと頭を過り、かあっと美月の
顔が熱くなる。


いかん、集中と彼女は恥ずかしさを取り繕う
ように視線を逸らすと、マッチポイントを
迎えたらしく、ふと逸らした先の月島が
ドシャットを決めたので、それに驚かされた
彼女は、その恥ずかしさが一瞬で消えていた。


『やるじゃん、月島君。』


思わず師匠師匠と彼女が言いながら黒尾を
見ると、彼も嬉しそうにニヤリと笑っていた
ので、よかったねと彼女もニカッと笑う。


『でもなぁ、なかなか取らせてくれないよね。』


木兎から意識が逸れたことに気がついて、本来
の厄介なエースの方へと彼女も目を向ける。
やはり、赤葦がトスを最後に上げたのはそちら
の方向で、見事にスパイクを決める彼を見て
適わないなーと小さく言葉を漏らせば、仲間
の方向へ意識を戻した。


『これ終わったら、抜けなきゃだっけ。』


時計を確認しながら、試合から今外れている
芝山の所に駆け寄って、次にお願いする作業を
伝えると、彼は嫌な顔をひとつもせずに勢い
良く首を縦に降るので、頼もしい後輩の表情
にありがとうとお礼を言った。


『ご褒美、楽しみだね!』


「ですね!!!」


ここにいる後輩たちはなんて可愛いんだ。


彼女はつい芝山の頭をわしゃわしゃと撫でて、
彼は恥ずかしそうにその行為を受け入れる。
そして、周りのマネージャーにも呼びかける
様に声をかけながら、調理場へと足早に向かう
のだった。


「ラストイベント待ってんな。」

「…女子と一緒なら大丈夫だろ。」

「やっくーん、この合宿で何回そう言って
油断した?」

姿を消した美月に気がついて、これから
行われるイベントにそれぞれが色んな思いを
寄せる。

彼女と話せるチャンスはきっとこれが最後、
護り切るのはこれが最後。
火花散る空気に後輩達は早く始まって欲しいが
早く終われと願ってしまうのだった。









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