幸せ過ぎる1日
『やっくん、おめでとうー!』
部室に入って早々、美月が笑顔でクラッカーを
鳴らし、福永は本日の主役と書いてある襷を
かけて、灰羽はハッピーバースデーの帽子を
被らせる。
彼女がマネージャーとして入部をしてから、
誰かしらの誕生日には毎度恒例の行事となり、
本日8月8日は、夜久衛輔の誕生日。
皆から祝福の言葉を受けた彼は、満面の笑みで
「ありがとな!」と仲間にお礼を言った。
『ごめんね、ケーキはさすがにお腹壊したら
怖いから、作れなかった。』
「いやいや、祝って貰うだけで充分!」
春高予選も控えてるし、と言いながらいつも
ケーキも作ってくる彼女は夏場は怖いからと
いう理由で作らなった旨を申し訳無さそうな
顔で夜久に伝え、美月が夜久にプレゼントを
渡せば、彼はその謝罪を否定して、彼女から
のプレゼントを嬉しそうに受け取った。
「サンキュ!めっちゃ嬉しい。」
『よかった、気に入ってもらえて。』
綺麗にラッピングされたそれを彼が開ければ、
好きなメーカーのスポーツタオルが入っており、
彼が喜んでいると、どうやらプレゼントはそれ
だけでは無いらしい。
ケーキの代わりになるか分かんないんだけど
と言って、彼は黒尾や灰羽達が別の話をして
いてこちらを見ていないことを確認すると、
夜久の耳元に顔を近づけるので、その仕草
だけで彼は胸をドキッとさせるのだった。
「…まじ?」
彼女がひっそりと言った言葉にダメかな?と
首を傾げる彼女のお誘いを断るわけが無く、
もちろん!とOKの返事を彼女に返す。
彼の反応にホッとした彼女はじゃあ決まりだね
と嬉しそうに、部室を後にした。
「あ、俺らからは時間をプレゼントって事で。」
「いや、お前ら聞こえてたのかよ。
お前が何も言わねーのはおかしいなとは
思ってたけど。」
「クロの場合、夜久君のプレゼント忘れてた
だけでしょ?」
「…仕方ねーな、じゃあこれ送るわ。」
「お前、何ちゃっかり花火デートしてんだよ。
美月の浴衣姿、めっちゃ可愛いし。」
「何それ、聞いてない。」
夜久に送られた画像から発した感想に孤爪は
鋭い視線で、黒尾を見ていた。
黒尾はしまったといった顔を見せながら、
終わったことなのでとはぐらかす様に、彼も
その場から逃げるように姿を消すのだった。
練習が終わると、帰り道は途中まで皆で一緒に
帰り、どうやら本日は新作ゲームの発売日でも
ある様で、孤爪と灰羽がそのゲームの話題で
盛り上がり、正しくは灰羽が一方的に盛り上が
っているのだが、灰羽に孤爪が押し切られ、
気がつけばそのまま彼らはバスに乗り、ゲーム
を買いに行ってしまった。
『私達は電車にしよっか。』
彼女は適当な理由をつけて黒尾達とは別れ、
本当はちゃんと理由をわかっている彼は一応
騙された振りを見せる。
こっそり夜久に「エロい事は禁止な。」と耳打ち
して、顔を真っ赤にして怒った夜久は、する
わけがねーだろ!と黒尾に肘鉄を返す。
脇に入って蹲る彼を無視しながら、夜久は美月
の手を引いて、彼らとは反対の乗り場へと
向かうのだった。
『やっくん、ラッキーだよ。今日ちょうど
ワンコインキャンペーンだなんて!』
電車に並んで座ったら、彼女が持っている
チラシを目にして、本当にな!と笑って
自分の幸運を喜んだ。
彼らが向かおうとしている場所は、ケーキ
バイキングが楽しめるカフェで、本日はなんと
500円で食べ放題のクーポンを美月が持って
いたらしく、2人限定の為、誕生日を迎えた
夜久をせっかくならと誘ったのだった。
『おうちでも食べるだろうかなと思ってた
から、どうかなーと思ったんだけど。』
「全然大丈夫!美月と食いたかったし。」
好きな子と一緒に過ごせる誕生日程、嬉しい
ものなんてない。
遠慮気味に言う彼女の言葉を再度かれは否定
して、店に到着する前の2人でこうして電車移動
するだけで、彼の胸の中は幸せで一杯だった。
『色々あって迷っちゃうね。』
「これで500円は安すぎるだろ。」
食べきれそうに無い種類に色鮮やかなケーキ
を2人は迷いながら取って、席へと着けば、
周りはカップルや女子会目的の客が多く、
この中に混ざれば、2人もただのカップルに
しか見えなかった。
「美月、こっちも食ってみる?」
『うん。じゃあ、私のも!』
寧ろ、相手の好きそうなケーキをシェアし合う
2人は、そこらへんのカップルよりも仲良く
見えて、嬉しそうにケーキの味を堪能している
2人は、周りが見ても微笑ましい光景だった。
「すみません、インタビューさせて貰っても
いいですか?」
そこにはたまたま情報雑誌の記者も来ていて、
まさかのカップルだと勘違いされた2人は
バイキングの取材を受ける。
カップルだと否定出来なかった彼女達は少し
恥ずかしそうに取材を受けて、写真まで撮られ
てしまって、お礼だと言ってこの近くで福引を
しているからと、引き換えのチケットを2枚
受け取った2人は、複雑そうに顔を見合わせる
のだった。
『これ、もらっちゃっていいのかな。』
「取材はちゃんと答えたし、アリってことで!」
ケーキで十分にお腹を満たされれば、2人は
店を後にして、そのまませっかくだからと
福引会場まで足を運ぶ。
会計の時にお店の人にまで、仲良しのカップル でしたねと笑顔を向けられて、2人の顔は
そこで更にぼふっと音がしそうなくらいに、
茹だってしまった。
店を出た後も2人はなんだが恥ずかしくなって、
さっきまでどんな会話をしていたかもわから
なくなり、とりあえず貰ったチケットをじっと
見つめる。
「せっかくだし…行くか。」
そう切り出したのは夜久で、彼は彼女の手を
ぎゅっと繋ぐので、彼女は目を丸くして彼を
見る。
「外からも見えるだろうし、さっきの記者も
もしかしたらいるかもだから、フリをしとか
ねーと!」
夜久も自分がとった行動に恥ずかしさがある
のか、耳まで真っ赤にしてそう言い出した
ので、美月もこくんと頷いて、彼の手を握り
返し、目を伏せてそのまま歩くのだった。
あー、幸せすぎる!!!
誕生日の幸運はいつまで続くのだろうか。
もう十分過ぎると彼は思っていたにも関わらず、
カランカランと祝福の鐘がなり、おめでとう
ございますとそこの会場にいる人が夜久に
とあるチケットを渡して、受け取った彼は
呆然としてそれを受け取る。
『やっくん、今日凄いね!!』
彼の運の良さに美月も驚きから先程の恥じらい
は吹っ飛んで、そこには人気プールの名前が
書かれた優待券を持つ彼に、尊敬の眼差しを
向けていた。
「2枚しかないって。…美月一緒に
行ってくれる?」
『せっかくのチケットなのにいいの?』
夜久のお誘いを受け入れた美月がまた照れた
様にこくんと頷いて、思わず彼は明日死ぬかも
しれないとふと明日の不運が頭に過ぎる。
それか夢なのかと思い切り頬をつねれば、
痛みはじんじんと感じている。
「美月、今日は一緒に過ごしてくれて、
本当にありがとう!!!」
本心から出た彼女へ向ける彼の言葉。
ガシッと美月の肩を掴む夜久を彼女は不思議
そうに首を傾げたが、『やっくんに喜んで
もらえたなら。』とふんわり笑って見せるの
で、危うく彼は黒尾から受けた注意を破りそう
になるのだった。