眩しすぎる夏
せっかくの2度目のデートに胸を踊らせて、美月
に少しでもかっこいい姿を見せたくて、柄にも
なく前日には筋トレも励んだというのに、この
幸せはものの30分で意図も簡単に壊され、夜久
は絶望から、膝をガクッと落とした。
待ち合わせまでは夜久は胸を弾ませながら美月と
一緒にいたのだが、彼女と別れ、着替えたあと
で、彼女が誰かに絡まれている姿を見掛けて、
急いで彼女の元へと駆けつければ、よく知る
相手に夜久は顔を歪ませる。
「甘かったねー。やっくん、わかり易過ぎて
バレバレなんだって。」
ここ数日、黒尾が浮かれた彼の表情を見逃す訳
が無く、それと同時に美月の食べる量がいつも
よりも少食なことにも彼は気付き、案の定オフ
日に予想通りの場所で鉢合わせ、夜久達と2人
だけのプールデートを回避させる事が出来た
彼は嬉しそうにニヤついていた。
彼に無理矢理連れてこられたであろう孤爪は、
げんなりとした顔で暑いと愚痴を零しながら
日陰に行きたそうな顔を見せる。
それだけならまだマシなのだが、そこには
たまたま居合わせた木兎と赤葦も一緒にいて、
彼らは美月の水着姿に釘付けで、珍しく木兎も
黙って彼女を見つめていたことが、夜久は尚更
気に入らなかった。
「赤葦どうしよ。美月ちゃんが可愛過ぎて、
ヤバい…勃つ。」
「木兎さん、お願いですから口を慎んで。」
「そうか、木兎辛いな。楽になれる様に今すぐ
それを握り潰してやろうか?」
「みんな、恥ずかしいから声を抑えて。」
美月は崩れ落ちる夜久を心配して、大丈夫?
と声をかけながら、優しく彼の背中を撫で、
困り顔で見つめる彼女の水着姿は彼にも眩しく
見えて、可愛すぎかよ…と嘆くように震えて
顔を伏せるのだった。
フリルが付いたビスチェビキニにポニーテール
といった風貌の美月は、露出はあまり無いの
だが、谷間だけはどうしても隠しきれずに主張
を見せるので、そこについ視線が行く野郎達の
目線が気に入らず、夜久はゆっくりと立ち上がる
と、自分が羽織っていたパーカーを彼女の肩に
ふわりとかける。
すると孤爪もそれに気がついたのか、夜久に
協力をする様に、彼女のファスナーに手を掛け
ると、ジーッとそれを上まで閉めて、誰にも
見せないようにさりげなく隠した。
「焼けるでしょ、入るまではそれを着てて。」
『あ、うん…やっくんも研磨もありがとう。』
紳士的な対応の2人に対し、木兎は少し残念そう
な表情を見せ、赤葦も顔には出さないものの
心の中では舌打ちをしていた。
黒尾はそんな彼の心の中を見抜いていたので、
タチわりーなと悪態を付く。
『ところで、どうして木兎君と赤葦君も
一緒なの?』
「赤葦と買い物中に近くでやってた福引きで
半額券当てたから、来たんだよ!
美月ちゃんいるとは思わなかったから、
ラッキーだった!」
「俺は今年の運を全部使ってないか、
不安ですけどね。」
「お前らも福引かよ。」
『もしかしたら、一緒の福引きしたのかも
しれないね。』
みんなで楽しむのもアリだよねと美月が優しく
夜久に笑いかけ、彼もそんな彼女を見ていると
落ち込むばっかりではいられず、彼女にいつも
通りの笑顔を向けて、美月が楽しいなら!と
言葉を返す。
「よし、そうと決まればウォータースライダー
一直線だ!」
「何でお前が仕切るんだよ!!」
結局、せっかくだから皆で一緒に行動しようと
話が纏まった彼等は、まず木兎が先陣を切って
駆け出して、黒尾が怒声を上げながら彼の肩を
掴んで、ゆっくり歩かせようと体重をかける。
「俺達って高校生だよね。」
「ウチのが騒がしくてすみません。」
「まぁ、賑やかな方が楽しいか。」
『やっくん、日焼け止め塗った?』
孤爪と赤葦は呆れた様子で数歩後で、2人の後ろ
について行き、美月はやはり誘ってくれた
夜久を優先するように、彼と並んで歩いた。
美月は自分にパーカーを貸してくれたことに
よって何も着てない夜久を心配して、鞄にある
日焼け止めを貸そうとそう呼びかける。
夜久は自分の事を美月がちゃんと気にかけて
くれる事が嬉しくて、お礼を言うと「大丈夫
だから。」と言いながら、彼女の手を引いて
歩き出すと、彼女はほんのり頬を赤く染めて、
恥ずかしそうにふんわり笑った。
『見慣れてるはずなのに、やっぱり今日の
やっくんのその格好は照れちゃうね。』
「あっ…まぁ、そうだよな。」
何処と無く照れ臭そうにする2人は、互いに
目のやり場に困るのか、仲良く手を繋いでいる
ものの、それぞれが相手から視線を逸らした。
「その…俺も美月が誰にも見せたくないくらい
可愛かったから、ちょっと照れる。」
『え…!?あの…うん。やっくん、パーカー
ありがとね!』
もじもじと照れ合う2人の声を耳にした他の
メンバーはピクリと耳が動き、先に歩いていた
全員がぐるっと向きを変えて、こちらを見つめ
るので、2人がそろって驚いて肩をビクッと
跳ねさせた。
「いやはや、本来の目的忘れそうだったわ。」
「黒尾、なるほど。そーゆーことね。」
「すみません。俺も年上といえど今回は遠慮
出来ないかもしれません。」
「夜久君には申し訳ないけど、皆が煩そう
だし…。」
4人がそれぞれそう言葉を吐いて、赤葦は夜久
の後ろへ、そして孤爪は美月の後ろへと、
彼らは2人を挟むように背後に回り、彼らの
背中を押すようにして、ずんずんと歩き出す。
美月を独り占めしようとした腹いせなのか、
木兎は「切った!」と言いながら、2人の繋ぐ間
に手刀を入れ、黒尾は「抜け駆けはダメよ?」
と夜久の腕を組んで歩き出すと、木兎も便乗し
「そうそう」と言いながら彼の反対の腕を組む。
「わかった、普通に歩くからお前らは俺の
腕を組むな!」
何も羽織っていない野郎達の生々しい感触に
挟まれた夜久は青ざめながら、嘆くように黒尾と木兎の両隣に腕を引かれ、ウォータースライ
ダーへと連れて行かれるのだった。
「俺たちは普通に行きますから、安心して
ください。」
『あ、うん。みんな楽しそうで何より。』
「なんかあそこは疲れそうだね…。
俺はそこで座って待っとくから、美月が
着てる夜久君のパーカー預るよ。」
『研磨、入らないの?』
「その後の流れるプール行く。」
彼は本当に黒尾から無理矢理連れてこられた様
で、すぐにペタリとそう言って休憩スペースに
座り込むと、スマホを取りだしゲームを始めた。
赤葦はきっと公共の場では変なことをしないと
わかっているのか、「行ってらっしゃい。」と
言うとスマホの画面へと視線を落とすので、
赤葦に促されるまま、ウォータースライダーの
方向に向かって行くのだった。
『うーん、3人はどっちに言ったのかな?
なんか…2個あるね。』
「とりあえず、片っ端から行けば会えますよ。」
目的地に辿り着く前にその道は二手に分かれて
おり、赤葦が彼女をエスコートしてとりあえず
1つ目の至ってシンプルなスライダー方へと
向かっていく。
するとそこには彼らの姿はなく、赤葦は静かに
「いませんね。」と言いながら、2人きりになれた
事に心の中でガッツポーズをした。
『赤葦君。これ、上ったら滑らなきゃだよね?』
「美月さん、恐がりだったりします?」
『…ちょぴっとだけ。』
赤葦のエスコート通り素直に付いてきたが、
思ったより高さのあるそこに、美月は少し
恐ろしくなったのか、不安そうに赤葦を見る
ので、予想外の彼女の反応に赤葦の答えは
ただ一つだった。
「大丈夫、ちゃんと美月さんの後ろいるから。」
彼は美月を落ち着かせようと、背後に包む様に
腕を回し、普段は絶対に味わうことの出来無い
独特な柔らかさに自分の方が高揚しそうになる。
彼女が自分に縋るように体を預けてくれたこと
に嬉しくなって、口元が思わず緩みそうになる
が、平常心を装って彼女に合わせて腰掛けて、
そのまま彼女を押して一緒に進んだ。
「結構これ、早いですね?」
『かなり速いですよー!!』
するとその勢いに耐えるように、ぎゅーっと
自分の腕を頼りにしてしがみつき、ずっと彼の
名前を呼ぶ彼女が可愛らしく見えてしまい、
赤葦はそれに耐えきれず、つい声を出して
笑ってそのままプールに飛び込んだ。