その姿はよりいっそう
「美月さん、大丈夫ですか?」
『ありがとう、予想外の迫力に驚いて…』
プールから上がり、もう1つの方へ移動しよう
と歩き出すものの、少し腰が抜けている彼女
はバランスを崩しそうになって、赤葦は彼女
を転ばない様に支えていた。
赤葦にお礼を言った美月は、無意識に自分の肩
が彼の胸元に触れたのを感じて、恥ずかしさ
から顔を赤めると、赤葦は彼女の反応を揶揄う
ようにどうしました?と態とらしく、耳元で
囁くように彼女に聞いた。
濡れた髪で迫る彼が大人びて見え、この後は
どう返したら正解なのかが一瞬分からない彼女
は、そのまま腰を引き寄せられ、密着する赤葦 の熱い体温を感じながら、ゆっくりと彼女は
目を伏せる。
「美月さん、可愛い…」
『えぇっ、かっ可愛くない!』
ふとぽつりと呟いた赤葦の言葉に美月は声を
裏返しながら彼に視線を戻して否定しても、
赤葦はまた可愛いですと言って、彼女の言葉
に更に否定を重ねた。
「また面白い一面を見つける事が出来ました。」
『それって、ビビりなところのこと?』
「ふふっ、それもまぁありますけど。」
暑さを凌ぐように陰を探して歩いたせいか、
ふと立ち止まり、ゆっくり近づいてくる彼から
1歩ずつ引いていると、背中には壁があった。
「ちゃんと、俺を異性だと認識してくれる
んですね。」
また顔が近づいて耳元で再び囁かれ、ニヤリ
と笑う赤葦の表情は妖艶だった。
そして彼女の手を取り、自分の頬に寄せ、
美月を捉えた目は離れなかった。
「もっと、美月さんの知らない顔を
見たくなってきたな。」
『待って、赤葦君…。』
美月が視線を泳がせても、ゆっくりゆっくりと
彼の距離はどんどん近づいて来る。
このまま彼に丸め込まれそうになる彼女は、
とりあえずこの空気を変えようと、反射的に
ペしっと彼の額を弾くように叩いた。
『こら!年上を揶揄わないのっ!』
「えっ…あ。はいっ。」
突然の衝撃に赤葦は驚いたのか、ポカンと口を
空け、すみませんと叩かれた額を押えながら、
鳩が豆鉄砲を食らったような顔で美月を見つ
めるので、思わず他校の後輩になんて事をと
我に返った彼女が慌てて、少し赤くなったそこ
を撫で始めたので、赤葦は思わず吹き出して
笑い始めた。
『ごめんね、クロじゃないのにやりすぎ
ちゃった!痛かったよね。』
「いやっ、大丈夫です。これで黒尾さんと
同じ立場に近づいたと思うと嬉しいし。」
『えっ…そこは喜ぶとこなのかな?』
美月が思っていたのとは違う反応を見せる赤葦
を彼女は不思議に思うが、嬉しいんですと彼は
また彼女に言い聞かせるように答えるので、
そうなのねと優しく叩いてしまった所を撫でた。
「美月さんがちゃんと遠慮せずに俺の
相手してくれている証拠ですし。」
『うーん、ごめん。確かに遠慮はなかった
かもだよねー。』
申し訳無さそうな表情を見せる美月とは逆に
赤葦は満足そうに彼女を見ながら、にこにこと
笑っている。
すると2人の姿を見つけた黒尾達は、彼らの
名前を呼びながら「抜け駆けは無しだろ!」と
赤葦に怒って、2人の元へと駆け寄った。
「あ!美月ちゃん濡れてるってことは赤葦と
入ってるし。
…待って、なんかこの響きもエロい。」
「…木兎さんはまたそうやって。」
「ぼっくん、頼むからマジで少し黙って。
お前、変なとこ触ってねーだろうな?」
「黒尾とそこは一緒にされたくねーだろ。
っつーか、研磨は?」
『なっ、何も無かった…うん、無かった!
あと、研磨は休憩スペースにいるよ。』
「美月ちゃん、何で今2回言ったの?」
慌てふためく美月を見たら、怪しむ3人に
赤葦が言い聞かせるように「何も無いです。」と
はっきりと告げると、彼女はこくこくと縦に
頷いた。
『ごめん、やっくん。
パーカーありがとね、研磨に今預けてる。』
美月が話を変えるようにパーカーのお礼を
夜久に言うと、彼は彼女の姿をそこで改めて
把握したのか、かあっと頬が赤く染まるので、
黒尾はどこ見てんのエッチと揶揄い、それに
怒るように彼は鳩尾めがけて肘を着き、黒尾は
蹲った。
そんな2人を無視する様に、木兎は美月ちゃん
苦手なの?と目をキラキラと輝かせながら、
彼女の顔を見ていた。
「お前、絶叫系苦手なのによく行ったな?」
『スライダーは滑り台だから大丈夫かなって。』
「じゃあさ、俺達行った方もっかい行こ!」
『えぇ、待って、木兎君!!!!』
閃くように木兎は彼女を誘って、先程進んだ
道を戻るように、彼女の手を引きながら走り
出す。
「こら、てめぇ!」と黒尾と夜久が怒り出す前に
木兎はそそくさとスライダーへ一直線で黒尾達
を 撒き、黒尾はため息を吐きながら赤葦の方向
へと向いた。
「お前、本当に何もしてねーんだな。
なのに、デコが赤いぞ?」
「可愛らしい猫さんに遭遇してしまって。」
「猫って何だよ。」
怪訝な表情を見せる夜久の隣で、誰の仕業かが
わかった黒尾はフンと鼻息で返事をしながら、
美月達が向かったウォータースライダーへ
視線をあげる。
そしてどいつもこいつもと悪態をつきながら、
彼女達を下で待つ方が早いと思った彼らは、
そのまま終点まで歩いて向かうのだった。
『待って、さっきのより激しそうなんだけど。』
「大丈夫、俺が一緒に滑るから。」
美月が連れてこられた場所は先程よりも標高
が高い位置にあり、不安そうに見る彼女を木兎
は安心して!と胸を叩きながら、落ち着かせた。
『これは怖すぎて、前見れないかも。』
「じゃあ、後ろに捕まっとく?」
『確かにそっちの方が頼もしい!』
先にスライダーに手をかけた木兎のお腹に手を
回し、美月は必死に引っ付いて、ぎゅっと目
を瞑ると、木兎はその感触を頭には入れては
いなかったのか、目が点になる。
「待って美月ちゃん、それはヤバいってー!」
彼の別意味の絶叫が響くも時は既に遅く、2人
はそのまま滑り終えると、勢いつけてプールに
飛び込んだ。
先程とは違う少し深めのプールに不安を抱いて
いると、木兎は心配するように傍に寄るので、
反射で両手を広げた彼に抱きつくと、何となく
彼の胸板に安心してしまう。
『木兎君一緒だと滑るのはまだ怖くなかった!
…それよりも、こっちのが怖い。』
「美月ちゃん、足つかないからこわい?
こっち掴まって。」
恐怖を紛らわす様に彼女が抱きつけば、木兎は
小さい声で「あ、そこは。」と呟きながらも彼女
をプールサイドへと誘導する。
上がろうとすれば、木兎を鬼の形相で見下ろす
彼らがいて、木兎はそれを舌を出して誤魔化す
素振りを見せながら、3人を宥めた。
「美月ちゃんがおっぱいデカいのが悪い!」
「てめぇ、開き直ってんじゃねーよ!!!」
「夜久さん、ナイスフォローです。」
「よし、任せろ。」
理不尽な木兎のセクハラ発言は、夜久が美月の
耳をすぐに塞いだので、彼女の耳には届かな
かった。
そして、こいつらの傍に置かせてたまるかと
彼は「飲み物買いに行く?」と彼女に尋ねれば、
欲しいと答えるので、そのまま言い合いをする
彼らの目を盗んで、美月は夜久に手を引かれて
売店の方へと向かい、赤葦もそちらに行きた
かったが、何故か黒尾と木兎2人の板挟みと
なって、逃げ出せずにいるのだった。
「そろそろ、研磨の所に戻んねーとな、
アイツ1人だし。」
先に孤爪の所へ荷物を取りに行くかと思えば、
海パンのポケットに用意周到に濡れないように
小さいジップロックに小銭を入れていた夜久が
美月の分だけではなく、孤爪の分のジュース
も買って、彼女にそう呼びかけた。
『やっくん、ありがとう。後でちゃんと
お金払わせてね?』
「あーこれくらい、いいって。」
ケロッとした顔で彼は言いのけて、孤爪は
荷物番してくれた礼だし!と笑うので、美月は
そんな彼の優しさに感謝をしながら、微笑み
かける。
『私、やっくんのそういう思いやり強い所
大好きだよ。』
突然彼女に褒められて、彼は反応に困るのか
「あ…その、うん。」と言葉を詰まらせながら
彼女から視線を逸らす。
「お前、今日破壊力ヤバいから本当に気を
つけろよ?」
彼の言いたい事の意味がわからず、美月は
どういう?と夜久に聞こうとすれば、彼は
慌てたように何でもねーし!とその言葉を
無かったことにしようとした。