やっぱりあげない!
孤爪のいる休憩スペースに戻ってみると、彼は
ゲームに熱中していたのか、俯いたままスマホ
の画面と睨めっこをしており、ここに来た意味
と夜久の苦笑いに釣られるように笑った。
「あ、おかえりなさい。」
「研磨、荷物番ありがとな。これお詫び。」
「いいの?ありがとう。」
夜久がそう言ってジュースを渡せば、孤爪も
嬉しそうにジュースを受け取った。
そして、3人並んでまったり休憩をすると、
孤爪もそろそろ泳ぐ気になったのか、自分の
羽織っていたパーカーを脱ぎ始めるので、
それを見た美月は彼に声をかける。
『そろそろ、流れるプール行きたい?』
「うん、2人はどうするの?」
「俺はもう少しここにいたいから、荷物は
見とくわ。黒尾と木兎に振り回されたし。」
美月と赤葦が2人でいる間の短時間に、夜久
と黒尾達は早いペースでスライダーに挑戦して
いたらしく、彼女と過ごす予定が野郎と参戦
した影響もあってか、少しお疲れ気味の夜久
はそう言うとタオルを目元に置いて横になる
ので、美月は労いの言葉を掛けた。
「じゃあ、美月行こう。」
孤爪は少し嬉しそうな表情で、運良くその近く
にあったレンタルの浮き輪も借りて、2人で
ぷかぷかと気持ちよさそうに浮かぶ。
久しぶりのプールに孤爪も少し楽しくなった
のか、目を細めて心地よさそうに流れている
彼を見て、美月も彼の表情につい嬉しくなり、
優しく目を細めていた。
「あー、極楽極楽。」
『ふふっ、研磨おじいちゃんみたい。
そういえば、研磨と来るのっていつぶり?
小学生の時以来?』
「かもしんない。うちの親が連れてってくれた
時以来だよね?」
『そっかー、そうだよね。中学の頃は行かな
かったもんね。』
気がつけば5年以上間が空いていることに気が
ついて、そう考えるとインドアな彼の珍しい
外出に彼女は感激をしたのか、すこし目を潤ま
せるので、孤爪は呆れて「なんで美月が泣き
そうになってるの?」と彼はため息を吐く。
『研磨が楽しそうだからつい…。』
「本当に美月は優しいね。」
孤爪はそう言って笑って、彼が手を伸ばすと
美月の頬にそっと触れていた。
そして彼が思い出すのは、夜久と楽しそうに
歩いていた彼女の表情で、本当はゲームに熱中
なんかしておらず、ただそれを視界に入れたく
なくて、つい視線を逸らそうと熱中する振りを
見せていたのだった。
夜久も美月もちゃんと自分を気にかけてくれて
いたから余計に胸は痛く、大好きな2人だから
見ているのが辛く、こんな時でも思い出す自分
の子供っぽい嫉妬心に彼は嫌気が刺す。
「本当に誰にでも優しすぎなのは、困りもの
なんだけど…」
『ん?どういうこと?』
「なーににお困りなんです?」
美月の言葉に被せるように、2人のもう1人の
幼なじみがニヤニヤと近寄ってきて、そんなん
じゃ持たねーぞと孤爪にだけ聞こえる声で彼は
言い出し、あからさまに嫌そうな表情を見せ
る孤爪に、黒尾は「いや、顔。」と突っ込んだ。
「別に何も言ってないじゃん。」
「顔が言ってた。」
「言ってる。」
明らかにそれは黒尾と孤爪だけの会話となり、
「…言ってる。」「言ってない。」と繰り返すの
で、話が分からない彼女が『なんの事?』と
首を傾げると、孤爪は何でもないからと口を
尖らせるので、美月もそれ以上聞くと孤爪が
拗ねる様子が頭に浮かんで、聞くのを止めた。
『そういえば、木兎君たちは?』
「腹減ったつって、夜久の所で赤葦と一緒に
焼きそば食ってる。」
「俺もそろそろ離脱しようかな。」
「『もう!!?』」
もう堪能したしとプールサイドに行こうとする
孤爪に2人は驚き、声を揃えて目を丸くした。
孤爪は彼らの反応を見ても再びもう満足と
言って、じわじわと端の方へと移動した。
「お前、まだ一周も回ってねーんじゃ…」
「大丈夫、クロが変な事しないように夜久君
呼んでくるから…。」
「いや、何もしねーよ。」
顔を歪ませる黒尾を疑う様に孤爪は彼を見て、
もう一度いや、交代してもらうと言葉を告げる
とプールから上がり、そのまま姿を消した。
「美月、行くぞ。」
『え、ちょっとー!』
黒尾は浮き輪を片手に美月を肩に担いで、夜久
が来るまでに場所を少しでも離れようとした
のか、別のプールに繋がる方へ移動をして、
彼の肩を叩いても叶うわけがなく、彼女は
恥ずかしい体勢に耐えながら、黒尾に運ばれ
て行った。
『クロ、これ恥ずかしいから止めて!』
「あ?ああ、これだとかえって目立つか。」
悪い悪いと謝りながら黒尾は美月を下ろし、
夜久から姿を隠そうとしたのか、浮き輪を盾
にして、彼女を自分の胸元へ引き寄せて密着
させ、気配を探るとこちらに来る様子は無い
ようだった。
気がつくと彼も逞しい身体付きに変わっている
事に気がつくと妙に意識をしてしまい、直に
触れる肌の感触に美月は恥ずかしくなって、
『クロ、近いから』と恥ずかしそうに心臓の
鼓動を聞かれたくなかった彼女は、黒尾から
離れようとするので、彼は納得いかない様子で、
彼女を余計に離そうとはしなかった。
「お前、赤葦とも木兎とも距離が近がった
癖に今更何を言うかね。」
『だって、あれはウォータースライダーに
必死だったんだもん!』
彼女の感触を味わえば、木兎達にもその心地
良さを知られた事が気に入らなかったのか、
彼はなかなか彼女を離さなかった。
もし彼らに会わなかったとしても、その相手は
自分ではなく、夜久だった可能性もあるので、
尚更気に食わない。
「お前、本当に自覚持ってくれよな…。」
『だから、何の自覚?』
不機嫌になる黒尾の理由がさっぱりわかって
いない美月は困った顔で首を傾げるので、
だんだん腹が立ってきた黒尾は、「こーこっ!」と言って、わざと彼女の谷間に指をずぼっと
突っ込み、彼女の目は突然されたその行為に
目が点になっていた。
「年頃の男の子には刺激が強すぎんだよ。」
あ、やわらけぇと素直な感想を吐きながら、
彼はそう言って注意をすると、美月はわなわな
と震えながら、顔を真っ赤にして黒尾をキッと
睨んだ。
『クロのバカ!変態!!!』
その声に夜久がすぐさま気がついて、木兎達と
一緒に駆け寄れば、ありえない光景に彼も顔を
真っ赤にさせながら、お前!と怒り出すと、
黒尾は自分にしかできない事を見せつけるよう
に、彼らに向かって舌を出した。
「いや、俺だってやろうと思えば出来るし。」
「木兎さんがそれをした瞬間、俺は容赦なく
速攻で折りますよ?」
「ちょっと、バレーは指が命だぞ!」
「じゃあ、しないでください。」
羨む木兎に赤葦が釘をしっかりと刺す横で、
夜久が黒尾のその指を引っこ抜いて、彼女の
心配をすれば、目を潤ませて夜久に思い切り
抱きついて、夜久は思わぬ距離に理性と戦い
ながら、彼女を受け止める。
孤爪はそんな彼らを見て、結局こうなるのか
と頭を抱えながら、慌てる夜久を助けに行こう
と再びプールの中に入り、木兎達も便乗して
同じくその中へと入っていくのだった。
「ぼっくん、それ以上は美月に近寄らない!」
「お前、ホント美月ちゃんの事になると
突然バカになるよな?」
「黒尾さん、木兎さんに言われてますよ。」
「赤葦、お前も同族なの知ってんだからな?」
「美月、夜久君がゆだってる。
そろそろ彼の為にも離れてあげて。」
『もうこの水着は、二度と着ない。』