呼ばれ方に注意
夜の自主練はお馴染みのメンバーが揃い、美月
もその中には完全に溶け込んでいて、慣れた
ようにドリンクとタオルの準備を整えていた。
ただ、1ヶ月ぶりに会う他校のメンバーはやはり
顔を見ない間に様子が以前と変わって見えて、
月島が黒尾を観察する目が以前とは違った様
にも見えて、ブロックを決めた幼馴染よりも
他校の後輩の彼の成長に美月は少しだけ感動
を覚えていた。
「おい、ツッキー!いつまで見る専やってる!?
美月もよそ見すんなよ。」
『えぇ、なんで私も怒られてるの?
あ、月島君。それもらうからね!』
「あ、ありがとうございます。」
黒尾達の動きをじっと見ていた月島は黒尾に
そう指摘をされ、月島はすみません、お邪魔
します。と言いながらコート内へと入って行き、
美月は怒られたことに疑問を抱きながら月島
からボトルを預かり、彼のドリンクの残りも
ちゃんとチェックをする。
『やっぱ面白いな、月島君。』
美月がポツリと言葉を零しながら、流れてきた
球を回収していると、ジロっと黒尾の視線を
感じたので、また怒られる前にとボールを彼ら
へと渡していく。
でもやっぱり本日気になるのは彼の様で、視線
で見ている方向がバレバレの彼女は、また黒尾
に怒られてしまうのだった。
「美月さん、ちゃんと俺も見てますか!?」
プスン、プスンと頭から湯気が出そうな勢いで、
すぐに妬いてしまう彼女の後輩は怒りながら
彼女にそう問い質すので、美月は灰羽を宥め、
ちゃんと見てますよー!と彼に返事を返す。
『リエーフ、手の位置を意識しなきゃ!
またクロに怒られてたでしょ。』
「うっ…しっかり見てくれてるの嬉しいけど、
そこじゃないです。」
気になるところを指摘されてしまい、返事に
困っている灰羽が悔しそうに月島君を見るの
で、月島は灰羽に特に言葉を返すことも無く、
冷静に黙って彼を見ていた。
『もう、拗ねないの。何回かスパイク綺麗に
入ってたのは、偉かったよ。』
あまりにも拗ねてしまって、調子を崩されたら
困るので、彼女は背を伸ばして頭を撫でながら、
彼を上手くコントロールしているので、赤葦は
それを感心するように観察をする。
『月島君も成長見えて、偉い偉い。』
すると月島もそれを見ていて美月と目が合うと、
彼女がにっこり微笑んでこちらに近寄って、
月島の頭も撫で始めるので、1ヶ月も空いて
しまうと、その行為はやはり恥ずかしいのか、
な。と返答に困りながら、頬を赤く染めるので、
黒尾は他校の後輩を困らせない。と彼女の動作
を止めるように、彼女の手首をパシッと掴んだ。
「ツッキー、ごめんねー。コイツ、後輩は
可愛がりたい病だから。」
『あ、酷い。人を病気みたいに。』
「ツッキーいーなー!美月ちゃん、
じゃあ代わりに俺が!」
「何でだよ!お前撫でてもなんのメリットも
ねーよ。」
「別にお前に聞いてねーだろ!」
黒尾が月島に謝れば、それにあやかって木兎も
美月に近づいてくるので、黒尾は怒りながら、
彼の動気を制止する。
「2人共、落ち着いてくださいよ。」
2人の言い争いを赤葦が2人呆れたように止め、美月は何かが気に入らないと言った顔を見せる
ので、赤葦はどうしました?と彼女の様子を
伺った。
すると、美月は2人が羨ましいと妬いた目で
見つめているので、不意打ちの可愛らしい睨み
に木兎と黒尾が射抜かれそうになる所を赤葦は
アホですか?と容赦なく辛辣な言葉を掛けた。
『私も月島君、あだ名で呼びたい。
ツッキーって、すごく可愛い!』
「えぇ、ツッキーはちょっと…」
どうやら、そのあだ名は月島の許可なく呼び
始めていたようで、彼は美月がその名を
発したら、あまりいい顔は見せなかった。
それがショックで少し悲しそうな顔を見せる
ので、何故か月島の方がそれに慌てて別の名前
なら、全然大丈夫ですと彼女に必死にフォロー
を入れる。
「月島もあんなに取り乱す事あるんだね。」
「美月さんじゃないと出来ない技っすね。」
赤葦も灰羽もその光景の衝撃が大きかったのか、
妬いてしまうことよりも驚いてしまう事の方が
勝ってしまい、2人のやり取りをつい見守って
しまっていた。
『私が馴れ馴れしくて、嫌われたわけじゃ
ないのよね?』
「大丈夫ですよ、そんな嫌いとかじゃなくて。」
『ならよかった。そしたら、うーん。
月島君って、下の名前は…ふふっ、そうだ。』
蛍君!と彼女が満面の笑みで名前を呼ぶと、
月島は目を丸くして、顔は真っ赤になり、
口をパクつかせながら固まった。
『え、これももしかして嫌だったのかな?
私は下の名前も結構好きだったけど…。』
「あ、嫌とかじゃなくて…寧ろありがとう
ございます。」
動揺する彼の反応が不安だったのか、美月は
月島を心配して顔色を伺うと、彼は大丈夫と
答えながら、ズレた眼鏡をぐいっとあげた。
すると、聞き捨てならないといった反応を見せた
のは先輩方の方で、悔しさを発散するかの如く、
木兎と黒尾は2人で彼の両脇を挟んで、ブロック
もう1本飛んどく?と彼をコートの方向へ、
ずるずると引きづって行く。
「美月さん、今のはずるいです。」
すると、やっと遠慮のない距離まで近づけた
赤葦もその呼び方を許すはずがなく、彼女の肩
をガシッと掴み、その形相に驚いて、美月の体が
少し跳ねてしまった。
「それなら、俺だって…。」
『けっ、京治君の方がいい…?
京治君もいい名前だもんね。』
頼む前に彼女の方から欲しい呼び掛けを返し、
おまけに嬉しい褒め言葉まで添えられてしまい、
もちろん赤葦は喜びの絶頂から悶絶するように、
ガクッとその場で膝を落とした。
「ああ、もう、最高ですか。何なんですか。」
顔を伏せて上げようとしない彼に驚いて、美月
が心配の声をあげると、彼はひたすらお礼しか
言わなくなったので、彼女は余計に心配をする。
「だーかーらー、美月さんはあげません!」
それに耐えきれなくなったのはもちろん灰羽で、
黒尾が怒るよりも早く、赤葦から剥がして彼が
ぴっとり彼女に抱きついて、吠えるように彼は
赤葦に訴える。
「美月さん、他校の奴らばっか狡いっすよ!
俺にも普段呼ばない呼び方してください!」
『えー、そうなったら灰羽君になっちゃうよ?』
「あっ…いや、普段通りでいいです。」
『うんうん、リエーフの事も大好きだから
もう少し練習頑張ろっか。』
必死な後輩が可愛く見えたのか、彼女は笑い
ながら彼の肩をポンと叩いて、さりげなく皆の
ボトルを回収をする。
気がつけば練習に戻る空気に変わっていて、
ブロックもう一本といいながら、下の名前で
呼ばれるタイミングを失っていた黒尾と木兎は
少し寂しそうに、俺達もそういえば呼ばれた
こと無かったよな?と呼ばれていた3人よりも
付き合いが長い2人は、寂しそうに互いで互い
を確認し合うのだった。
「光太郎いーかんじ!」
「鉄朗こそ、タイミングバッチリじゃん!」
「2人とも残念ながら美月さんは今ここには
いらっしゃいませんよ?」
「「おい、何でだよ!!!!」」